幕間2
ギルマス・ガーリッツ視点
俺たちは少なくない犠牲を払い、正門まで撤退することが出来た。
それは他方の討伐隊も同じだった。
『どう言うことです。ギルマス。数が多いだけのゴブリン討伐ではなかったのですか』
『聞いてねぇぜ! 変異体だなんてよ!!』
『クソがっ! あのメスガキ報告して無かったのかよ! 何考えてやがる!!』
「ほたえるなっ!!」
言葉伝え鳥による報告と議論。だが俺と嬢ちゃんへの非難に終始する。
俺が口を挟める隙は無かったが一喝して黙らせる。
「ふぅーー……っ」
腹に溜まっまた文言を呼気に変え吐き出す。
「俺たちが数が多いだけのゴブリンだと舐めた結果だ。貴様らとてうまい話だと勇んでいたであろう。それにだ。嬢ちゃんからすれば変異体だろうが単騎で殲滅出来る相手に過ぎないってこったろう。お前たちとて、嬢ちゃんが単騎で殲滅できる程度だと、嬢ちゃんを侮っていた。違うか?」
言葉を詰まらせる冒険者たち。
「あの嬢ちゃん、ゴブリンを見たから 見敵必滅と言っていたからな……」
『鑑定系スキルを使わずにただゴブリンを見つけたから、殲滅した、と』
『なにそれ、怖い』
『ゴブリン似の人間だって居るはずだぜ? 鑑定されずに殺されるなんてたまったもんじゃねぇなぁ。 クソがよっ!!』
「感知系スキルで敵対生物かどうかは判るみてぇだからな。大丈夫だろう。でだ、鑑定でどう判断が出た?」
『【オコノミ強化種】とありましたね』
『【此方はアカシ調整体】だ』
『【オコノミ大革命】だ。クソがよっ!!』
「此方は【オコノミ特別版】と出やがった。要するにオコノミだのアカシだのってのがあのゴブリンどもを弄くり回して改造したってこった。その昔、初代勇者センヴァーリアの時代でも人工魔精霊だの人工魔人だのを造り出す禁呪があったって話だ」
『では、あの変異ゴブリンどもも古の禁呪を用いて人工的に強化した魔物――この戦、人の悪意によって仕組まれた戦だと?』
『で、オコノミだのアカシだのって奴はどっかで高みの見物を決め込んでやがんのかっ!! クソがよっ!!』
『探索でも引っ掛からない。近くには居ないのか? なにそれ、怖い』
「媚コブ親オーク派の反国、反領の連中の仕業だろうが……コイツぁ辺境伯の政治中枢、国の政治中枢まで侵されちまってんじゃねえか」
『センヴァーリア様を国賊と広め、裏切ったのも【清浄なる世界の理】によって国の中枢どころか国王がそちらの傀儡になっていたからというのが、新歴史として改められた……』
『歴史は繰り返されるってかよ!! クソがよっ!!』
『目糞鼻糞を嫌っている筈ですが……こういう時は仲が良いって、なにそれ、怖い』
目糞鼻糞を嫌うっ言うのは同族嫌悪って意味を第三者の見方で皮肉った言い方だ。
「判ってんのは人為的だっ言うこった。これ以上は退なくなった。奴らにどんな口実を与えることになるか分かんねぇからな。護りたいもんがあるなら殺るしかねぇ」
ゴブリンどもが余裕たっぷりに歩いて進軍してくる。
俺たちは奮戦するも武器は通じず、体力も尽き魔力も果て、それでも根性と鍛えたポテンシアでステゴロで挑む。
そんな窮地にあってアルシェとクラン・シルヴァラが駆け付けてくれた。
何でも嬢ちゃんの策で地中の軍勢は殲滅させたという。
問題は削岩ワームだったと。そいつぁレイド級だろうが、フレイヤの弱体効果魔法と、ワームの不得意な空中で戦技を喰らったからだろうが……それにしても嬢ちゃんの打拳の威力だ。一撃でレイド級ワームを瀕死にさせるってのはどういう鍛え方したら、そうなるんだよ。
話はこの戦を生き延びれたらだ。
「得意ではないんだがな」
アルシェは癒やしの精霊術を行使してくれたが、心の疲弊だけは如何ともしがたい。
他方に助太刀に向かうアルシェを見送る。
だが、アルシェの強化精霊術があり、変異体とは互角に殺り合える様になり、クラン・シルヴァラの参戦によって、雑魚とは千日手となった。
ジリジリと時が過ぎる。痺れを切らしたのはジェネラルだった。
役職付きが出て来てクラン・シルヴァラも他人を助ける余裕は無くなった。
俺たちは根性だけでは立てなくなった。限界だった。
一人、また一人と仲間が倒れていく。
その時だった。夜空に雷光雷鳴が奔り轟いたのは。
雷光は環を成し上空を奔り巡る。
稲妻が人の型を成していく。それは嬢ちゃんに似ている……気もしなくもない。
「嬢ちゃん、か?」
稲妻の嬢ちゃんが手を掲げると、雷電が降り、巨大な雷槍と成り、その穂先を地上に向け、投擲した。
幾千の雷槍が降り注ぐ。雷槍は鏃の様な紫電を撒き散らしながら降って来る。
その全てが変異ゴブリン、役付ゴブリンの尽くを容赦無く穿ち打ち砕いていく。
役付の体内から茨の様に雷光が奔り傷を負わせ続け、苛んでいる。
容赦無く雷槍がゴブリンどもを鏖殺していく。
目の前の光景に引き攣り笑いが溢れる。
言葉に出来ない程の雷光と轟音、その轟音だけでも凄まじい衝撃が伝わるというのに、その雷槍は役付の身体を打ち砕いては大地をも破壊する。
その破壊の衝撃は爆心地だけに留まらず、周囲にも及び亀裂が走り断層が出来ていく。
地面はドロドロと熔解し岩漿(マグマ)と化していた。
最優の冒険者、それに準ずる冒険者たちが立ち尽くし、見ることしか出来ないでいた。
「終わったのか……」
「……終わったな」
終わったのだ。誰もがへたり込み、ある者は呆然と戦場を眺め、ある者は打ちひしがれ、ある者は仲間の喪失に慟哭する。
優秀な、将来有望な冒険者たちが犠牲になった。
仲間を失い、変異体に己が力が通じ無かった残された者は冒険者人生を終わらせるかも知れん。
「……」
フレイヤの言葉伝え鳥を通して報告があった。
「やはり、あの雷撃は嬢ちゃんだった」
「そうか……あの娘に喪失の怒りが向かない様にしなければならない。そちらの誘導は任せるぞ。ソウジュは一度、私の下に避難させる。リーゼも戻るだろうからな……組ませてみるのも悪くはない」
「頼む。そうしてやってくれ」
雨が降る。冷たい雨が。
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