幕間1
ギルマス、ガーリッツ視点。
俺たちは討って出る。
嬢ちゃんの索敵網に引っ掛かったゴブリンの軍勢を態々町に近づくのを待つ必要は無ぇからな。
それに嬢ちゃんたちが町中で戦う必要があるなら後顧の憂いを断ってやりてぇしな。
センヴァーリア――辺境伯領都は幸運だったのだろう。
流浪の民の冒険者――それも怪しいのだが、流浪の民の冒険者にしては五体満足、傷跡も肌に一つもない綺麗なものだったからな。
嬢ちゃんがゴブリンの軍勢――その分隊を発見、殲滅し、危機を報せてくれた。
その御蔭で迎え討てる、いや向かい討てるのだからな。
親ゴブ派の連中がゴブリンや親オーク派がいつの間にかこのセンヴァーリアを静かに侵食していた。
キシィワーバ、ダーノ、ゲェル、親ゴブ媚オーク派のコイツらは領賊だ。
ソイツを炙り出せた。まだまだいるが芋蔓式だ。あとは辺境伯に頑張ってもらうしかねぇ。
目視出来るまでに接近した。
「ちっ」
ゴブリンの軍勢を見て胸糞悪くなり、舌打ちが出ちまった。
奴ら軍備を整えていやがった。
言葉伝え鳥で三方の統率を任せている辺境最優と呼ばれるクランのリーダーから、同じような報告を受ける。
「どうするんだ。ギルマス」
此方が見えていると言うことは彼方からも見えるという事だ。
コブリン軍勢は軍備の盾を地面に突き立て、槍を掲げる。
俺たち討伐隊は立ち止まるしか無かった。
「出鼻を挫かれちまったか……」
盾を構えられ、槍を掲げられては魔法も矢も撃ち込め無い。
『どうしタ、ニンゲン、どもヨ。勇んで我ら、ヲ、討ちニ、来た、のダろう。向かッて、来ぬの、カ?」
氣勢を断たれた俺たちをゴブリン将軍が嘲弄する。
『ニンゲン、様は、お優シぃ。攻撃モせず、我らを歓迎し、持て成シてくれル」
「やめろっ! 止せ止せ止せ止しやがれっ!!
ドッと此方に向けられ、投げられた槍。
「糞っ垂れがっ!! やりやがった!! 糞ゴブリンめっ!!」
「おいっ! 迂闊に出るなっ!!」
俺の静止も聞かずに若い冒険者が飛び出した。
槍受け止めようと手を伸ばす。
「うごっ?!」
飛び出した若い冒険者の首に分銅鎖が巻き付き、ゴブリン将軍によって引っ張り吊り上げられ、腕を振り下ろされ、遅れて首を絞められた若い冒険者が頭から地面へと叩きつけられた。
首は折れ、頭が潰れ、絶命した。
俺たちはますます動けなくなった。
俺たちが迂闊に手出し出来ないのには奴らの軍備が影響している。
奴らの槍は人間、ドワーフ、人獣、獣人、アールヴの子供を括り付けられる太さの丸太に子供の頭を穂先として用いる槍。
盾とは板に女を張り付けにした肉盾の事だ。
これを魔族、魔物は軍備と呼んでいる。
先程の若い冒険者は子供を救いたいが気持ちで飛び出して死んだ。
だが、子供は案山子だったのだ。
虚実入り混じる人槍肉盾に動けなくなってしまった。
「ニンゲン、攻撃シて、コない。ニンゲン、コレ使うと、動けナぃ。動けない、ニンゲン、我らノ、敵ニあらず。ものドも、愉シい、ニンゲン狩り、の、時だ!!」
巨大で無骨なメイスを俺たちに向け、ともがらをけ仕掛けてきた。
「マホウを、撃て!! 的は、幾らでも、ある!! 広、範囲、を巻き込、む、爆烈マホウを、使え!!」
幾重にも魔法が撃ち込まれる。
「散らばるなっ!! 魔法士隊は防御魔法だっ!!」
激を飛ばす。
此処に集えるほどの冒険者ならば耐魔法、対魔法魔導具を装備しているはずだ
ゴブリンたちが耳障りな歓喜の声を上げ、襲いかかってくる。
俺たちの精神的な余裕を奪ってるのは人質だ。
それをどうにかせねばまともに手出し出来ぬ。
中には畑道具や錆びたり欠けたり折れたりの武器を構え、襲ってくるゴブリンも居やがる。
俺たちはゴブリンは雑魚と余裕を持ち――悪く言えば侮って対処する。
だが、それは間違いだった。いや、ジェネラルや英雄、勇者、魔法士、まともな武器を与えられた、所有するゴブリンは厄介だが、それ以外は余裕だと、平時のように対策したのが間違いだった。
俺の戦斧はゴブリンの棍棒を容易く断つ。だが、ゴブリンを断つことは叶わず。
「な、んだとっ?!」
俺だけじゃねぇ。辺境最優の冒険者の力がゴブリンに通用せずにクランの団員は動揺し、それは他の冒険者たちも信じられんと、同じように驚愕している
「キギャッ!!」
俺の驚愕を余所にゴブリンが飛びついてくる。
ゴブリンの首には――
「こなくそっ!!」
全身全霊を持ってゴブリンを上空へと殴り飛ばす。
「ペギャッ!!」
僅かに上昇するゴブリンが爆発した。
ゴブリンの首には首輪にはめ込まれた炎爆の魔石があったのだ。
炎爆魔石一つ一つは大きく無いが、数匹に纏わり付かれて自爆なんてされてみろ。効果は絶大だろうぜ。
俺は注意喚起しようとして――
『ぐあ゛あ゛ぁ゛あ゛あ゛っ!!』
爆音で声は掻き消され、冒険者が次々と爆炎に飲み込まれていく。
――ゴブリンが自爆攻撃だとっ!?
そんな馬鹿な。奴らがそんな特にならない事をするものかよ。
『ギハハハハッ!! ニンゲン共ヨ、余興はどうダ? 愉しい、デあろう?」
ゴブリンジェネラル。奴は俺たちを試してやがる。
「どうすんだ! ギルマスっ!!」
「このまま嬲り殺しされんのはゴメンだぜっ!!」
ギルマスとして冷徹な判断を下だせ。
救えるかも知れないが手遅れな者たちと、領都――町の住人の命と、どちらを優先するべきかを。
――……そんなもん、分かり切っているじゃねぇかよ。済まねぇな……済まねぇな……。
「反撃だっ!! 優先するべきは領都の町の住人の命だっ!!」
俺が指示を出すと、冒険者たちの怒声が轟き、各々の武器を戦技スキルの煌めきを纏わせてゴブリンに踊り懸かる。
「選んダ。ニンゲンは、キサマらヲ、見捨テタぞ。悲しイな。悔シィな。許セないよナ。許せナい、ニンゲンに、苦死んデ、欲しィよなァ」
張り付けにされた者たちの口から嘆き、恐怖、怒り、怨嗟が漏れる。
それは俺たちの心を縛り蝕んでいく。
身体は重く、攻撃の威力が落ち、防御力――耐久値が減衰していく。
雑魚ゴブリンはすべてが変異体。不測の事態に当初の様な氣勢は無くなり、討伐隊は瓦解、これまでと撤退戦に切り替えた。
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