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古の勇者センヴァーリアの彫刻は広場の泉の中心に在った。
オベリスクが中心にあり、その周囲をセンヴァーリアと彼女が契約し盟友となった始祖精霊たちの彫刻が彩っていた。
日本刀――それも小烏造りだ。
切っ先が諸刃になった刺突と斬撃の両方の機能を備えている。
私なら抜刀し易い刀が良いなぁ。
私は背が低いから間合いの外から大きく踏み出してさらに低い位置から逆袈裟斬りの一撃を狙う。相手は防御し難い。低い者がさらに低い姿勢から左したから右に斬り上げる。せれは視界に入り難くなる。
相手の反応を遅らせ、姿勢を崩す事が出来る。
あと、どう言うこと? センヴァーリアが母さんにそっくりなんだけどさ。
他人の空似?
まぁ、他人の空似だね。剣術小町と言ったらって言う良くあるキャラデザだ。
城壁まで駆けてきた。
「飛ぶぞ」
そう言うとアルシェさんが魔法を使うと私たちの身体がふわりと浮き上がり上昇し、城壁を越え、地面に降り、私を先頭に再び駆ける。
雑木林を駆けぬける。
「接敵するよ。先に征くね」
ワームが私たちの足音を捉えて地上へと進路を変えてきた。
先頭を走る私を狙っている。
閃け私の厨二病っ!! 応えて【天元】さん!!
「蜃気」
馬鹿め。お前が狙ったのは魔力分身だ。
そして喰らえ。
「千羽天剣流 天――」
―― 地中には潜らせないよ!
沈み込むような態勢から――
「――照!!」
――ワームの胴体にジャンプ掌底アッパーを喰らわせる。
衝撃が胴体の裏へと抜け大気を打つ。
轟ッ!! と、地中に在った胴体の残りが引き抜かれワームが打ち上がった。
そこへアルシェさんとエリナさんの魔法が一斉掃射され、ロビンソンさんの魔法矢が放たれ、雨霰とワームの胴体を貫き削っていく。
それにしてもアルシェさんとエリナさんの色とりどりの魔法が着弾すると、ワームや虫が苦手な私から見たら気持ち悪い打ち上げ花火ように見える。
魔法に焼かれ煙に包まれたワームが落下してくる。
「ぜあっらあっ!!」
ブランさんが白炎を纏わせたバトルアックスを振るう。
――みんな魔法纏わせてる。単純な物理攻撃よりも魔法が効果あるんだね。
乱切りにされたワーム。
「コレで此方は終わりか?」
「敵勢の反応は無いよ」
「そうか。それで、どうする?」
「どうする、って?」
私は首を傾げる。
「ソウジュさん。アルシェ様は削岩ワームの皮や削岩部の採取、売却、保有して利用するか、と聞いているんですよ」
フレイヤさんが報告書を書く手を止めて教えてくれた。
ワームのアレを?
「嬢ちゃん。削岩ワームの皮は対物理防御が高い防具になるし、削岩部は武器の素材になる。討伐危険度が高いから、希少素材として売れる」
乱切りになった胴体だったものから皮を剥ぎながらブランさんが教えてくれた。
「高価買取してくれるんだ。乱切りになった皮だけど?」
「魔導具師なら修復も可能ですし、加工をするので」
ペロンと剥いだ皮を見せてくるロビンソンさん。
魔法を撃ち込まれたダメージが無い。
「鮮度の高い死体なら、残存魔力で自己修復――回復しようとするの、よ」
うーん……綺麗な状態でドロップするってことかな? ゲームと思いたい。でも私、星造生命体なんて異世界転移だか転生したのか判らない状態……。でもゲームのドロップ品みたいに見るからに綺麗になってるんだよね。
「私は素材よりセンヴァーリアでの生活費にしたいかな」
無一文だからね。食べたのはリーゼに貰った木ノ実。
流石にお腹空いたよ。寝る宿代もない。
「では等分されたものをギルドで買い取りで良いですか」
「楽に討伐出来たのはソウジュが打ち上げてくれたからだ。皮だけじゃなく削岩部位の一つは権利がある」
「それも買い取りで。たぶん武器の単純な攻撃力は此方が上だと思うし、一式装備で特殊効果発動装備だから他の素材から作られた武器とは相性が悪いみたいなんだ」
一式装備することで【Absolute Virgin Field】の効果が得られる。
フレンド登録、パーティー登録していない悪意、下心あるプレイヤーに対し、容姿認識阻害の効果。絶対雷撃回避。
身体が拒絶反応で超回避をすると同時に高電圧バリアを張る。それに触れたものを気絶またはスタンさせる。
「しかし、それならば戦闘型に合っていないのでは無いか?」
アルシェさんの言う通り。このデザイン姫騎士(剣)風何だよね。剣が使えるかなって姫騎士だとちょっと浮かれたよね。剣適性がなかった。拳と蹴適性が【天元】開花してたよね。
剣姫に憧れた。これじゃあ拳姫だ。
「ふむ……幻想一角馬から手に入れたんだな。リーゼの報せにあった」
「リーゼの師匠?」
「うむ。ソウジュ。ソレを手に入れた時、騎士を想像しなかったか? まぁ、私が知る騎士とは違うが、どちらかと言えば冒険者の装備に近いが」
私は頷く。
「ならばお前のその精神に感応して、その形に成った。ならば今一度、お前の戦闘型に合わせて精神感応させろ。あ、今、やるなよ。真っ裸になるからな」
私は激しく頷く。
「さて、此方は片付いた。私の方でも四方で戦いが始まっているな。フレイヤ。ソウジュを飯を食わしてから休ませてやれ」
「俺は地上から遊撃として征くぜ。エリナとロビンソンは城壁から援撃を頼んだぜ」
「では征きます」
「ソウジュちゃん、また後でね」
「はい。アルシェさん、シルヴァラの皆さん、ご武運を」
私はフレイヤさんとともに町へと戻る。
■
アルシェに祈りの効果が付与された。
ブランに祈りの効果が付与された。
エリナに祈りの効果が付与された。
ロビンソンに祈りの効果が付与された。
攻撃力50%上昇。防御力70%上昇。素早さ60%上昇。幸運値80%上昇。常時回復(HP1500)効果。
■
「ん? 何だ?」
駆け出して暫くして金の粒子が舞う白光に包まれた。
「今のは何だ?」
「遠距離からの精神攻撃?」
「それにしては嫌な気分には陥っていません」
ブランたちも同じようで立ち止まり周囲を警戒する。
ポテンシアの窓を開く。
「は?」
魔法攻撃以外すべての数値に高い上昇効果が付いている。その中で唯一低い上昇率が20上昇の魔法防御力。物理攻撃防御に特化した脳筋上昇。常時回復。
何だコレは?
付与されているのは【武運長久】と言う聞いたことも無いスキル。
シルヴァラの皆も同様だろう。戸惑いが見てとれる。
「アルシェ様、こいつぁいったい」
「……そこそこ永く生きているが私も知らんスキルだ」
「では、いったい誰が加護を」
「……時期を考えるとソウジュだろう。フレイヤは敵の弱体と妨害系統だからな」
「では、彼女は何者なんでしょうか?」
「分からん。だが、聖女や勇者の類では無いだろう。王都では勇者召喚が成功したらしいからな」
聖女ならば手の甲に印がある。手甲をしていようが魔法を使用した際の聖印の輝きは隠せない。
「だが、教会や国、領主に知られては厄介だ。このことは他言無用だ」
先ずは状況が悪い北壁からだ。




