ファントムアタック2
『小比見』と『明石』の視点。
此処ら辺で良えやろ。
ドリルワームに地下道を作らせ、進軍する俺は四方に配置したゴブリン部隊を起動させた。
この騒乱によって、位置特定系スキルの処理落ちさせて使えんようにする。
その乱戦の最中、地下を行き町中へと奇襲を仕掛ける。
順調や。センヴァーリアに居るっちゅう【ファントム】も、四方から一斉に仕掛けられて、敵味方入り乱れる中、俺らの潜入には気付けんはずや。
それがどんな優れたスキルやろうとも、俺は運営や。権限使うてゲームマスター専用の新しいスキルをなんぼでも実装出来るんや。
俺だけが変やない。巣を突かれた蜂や、巣に水を流し込まれたアリがどうなるか観て楽しみたいんは俺だけやない。羽根や手脚をもがれた蝉が喰われゆく様を観て愉悦を感じんのは俺だけやない。
【ファントム】が死ぬのが見たい。グチャグチャになる場面が見たい言うアンチもぎょうさん居るんやで。
順調に進んどったドリルワームの動きが止まりよった。
「どないしたんや? 町まで目と鼻の先やぞ」
あんまりにも動きよらんから、進めや、と蹴ったった。
けどドリルワームはグズるように胴体をくねらせるだけや。何しとんねん。
そん時や。
『ギギュゥギヂヂッ』
『ぐげぎゃあぁぁああっ』
「な、なんや!? 何があったんや?!」
ドリルワームとゴブリン軍勢が怯え苦しみ藻掻き暴れ出した。中には泡を吹き倒れ、踏み殺されるもん、脚を取られ転けるもん、転けたもんのをワームの胴体が圧し潰す。
「あ、暴れんなや!! な、何があったちゅうんやっ!!」
ドリルワームが暴れれば暴れるほど硬化しとらん穴からパラパラと土やら石やらが落ちて来よる。
『ぢぃぎゅぅぅぅっ』
ドリルワームは見えない何かに抵抗するようにドリルを回しながら暴れ始める。
「見えん何かやと……ッ! 【ファントム】か!? コレもお前の仕業かっ! 舐め腐りやがってあのガキィ……何処やっ!! 何処に居んねん! 隠れとらんで姿晒せやっ!!」
うんともすんとも返事もない。探索や!! カンストさせた探索スキルで居場所を暴いたる。
だが、何処にも【ファントム】の反応がない。どないなっとんねん。スキルのバグか? いや、そんな筈はあらへん。
「【ファントム】や無いん――は?」
いや、何や? 今、ドリルワームの胴体を網目状の線が――
「―――――――――――――――――――――ッ!!!!!!!!」
網目状のレーザーが迫り、俺の身体をサイコロステーキ肉に変え――
「い、生きとる。サイコロステーキ肉になってへん……な、何やったんや……今のは?」
けたたましい音に自身の身体が無事なのを確認しとった顔を上げると――
「なあっ!?」
のたうつドリルワームの胴体が反転しよった。
上壁の土を削りながら迫るドリル。
その回転にアバター体が削られていく。
筆舌に尽くしがたい痛みが襲う。
頭の中がスパークしよる。視界は明滅し、アバター体ではありえへん生々しい血が撒き散らされる
血臭が漂う。右半身を削られて、血の池に倒れる。
な、なんや……なんで、死エフェクトに変わらんのや……? そ、それにこの激痛は……ペインアブソーバーはどないなっとんや……明石の奴、ちゃんと設定しとるんか……?
視界が暗くなり――
■
『あ~あ……情けないわねぇ、最後はワームの胴体に潰されて死ぬなんて。それにしてもどんな手を……スキルを使ったのかしら? うーん……此方でも反応は無し、スキルを使った信号も無しなのね。これはもしかして……」
小比見の発想力は大したものだ。観察、実験癖にも共感した。
「小比見くん。何でも自分の思い通りになると、神にでもなったと思い込むところは相容れなかったけれど。まぁ、それも閉鎖的な田舎の大地主の倅なら仕方なしかな。田舎なら何でも思い通りになったでしょうし。小比見くんは何処まで勘違いしたまま世界を彷徨ってくれるかしらね」
小比見くん。貴方の敗因は相手にも考える力が有ると言う当たり前のことを失念していたこと。地下道を掘って奇襲するというのが誰でも思い付くことだと考えが及ばなかったこと。早い話、人を見下し過ぎたのよ。貴方は。
小比見くんのリスポーン位置を設定する。
砂漠の墓の洞窟跡にでも設定しましょうか。
「もう、現実肉体も必要無いわよね?」
酸素供給装置、生命維持装置をOFFにする。
【COCOON】の中で小比見くんが藻掻き苦しみ、やがて溺死するのを見届けながら、ボイスチェンジャーを使用し、対策室へと通報する。
もう一方の【COCOON】は空だ。
島くんは既にあちらに転移済みだ。
【ファントム】ちゃんも同じだろう。
「あぁ、楽しみ。世界の扉が開く。ようやく繋がる。どうせ巣を脅かすなら世界規模じゃあ無いと駄目よ。小悪党に成り下がる小比見くん。じゃあね」




