10.ファントムアタック
広範囲の索敵領域内――その四方ににポツポツと赤く丸い点が灯り、それは徐々に増えていく。
「フレイヤさん」
私が静かな重い声で名前を呼ぶと、プレイヤさんは一瞬はっとした表情となり、来るべき時が来たのですね、と息を飲む
「来たよ。迎撃に向かって敵の出鼻を挫こう、とガーリッツさんに伝言をお願いします」
「分かりました!!」
フレイヤさんは急ぎガーリッツさんが居る作戦本部へ向かった。
「ほう? 物見がまだ警鐘を鳴らしていない内から、敵勢力の接近が分かるとはな。感知ではなく索敵――それも広範囲に領域を展開出来るレベルにあるな」
「流浪の中で身に付けたんです」
隠形とか隠蔽とかこの索敵とか絶対に私に根付いた“逃げ”から来てるよね。
息を潜めてなるべく存在を気薄にする。
自分を語らない。
警戒する。相手の動きを予測する。気配を察知する。
これらは虐められていた時や、なるべく絡まれない様にする為に身に付けた生存戦略だ。
それが【天元】さんによって強力なスキルに昇華した――と私は思っている。
千羽天剣流なんてのも私が母さんから武術を学んだから。剣術主体の流派なのに、拳撃や蹴撃となっているのは使った事が無い刀剣や槍といった刃物の類いを使った戦技を習っていないから。
それにこのゲームを始めて料理や縫い物、歌なんてしていないのに【料理(-)】【ぬい】【詩歌】なんてある。
【料理】にマイナス補正が付くのは私の料理が目分量や私の味覚だより、市販のお湯ら水、具材に混ぜれば、絡めれば完成する調味料をつかったり、うま味調味料を使うから。
料理ガチ勢やうま味調味料アンチからすればマイナスだろう。
あとは私の特定の料理には○○風が付くような作り方だからだ。あと、インスタントラーメンにトッピングを付けなかったり。
初期スキルは現実の趣味、特技や性格、深層心理に基づいているという事が今判明した。
閑話休題。
「嬢ちゃん、反応は四方だけか?」
私は頷く。
「地下には反応無し。四方で騒乱が起こってから……もしくは私の索敵をレジストするだけの潜伏スキルを有しているか、だよね……それも軍隊を隠せるほどの……」
私が最後に斃したコブリンよりも上位の相手ということになる。
常に看破と併用して発動させて居れば可能だけれど、見たくもないものを見たいとは思わないし、見続けたくはない。
「地下だけに意識を向けて拡げてみるかな」
「ソウジュ、お前の索敵範囲がどれほどかは分からんが、目に見えない地下。その深度の程度もあるが、それほどの精密な魔力操作は出来るか」
「やってみます。出来なければ終わってしまう」
私は窓から屋根へと飛び移ると魔力――私の場合は精霊力となっているけど、それを地面に穿つイメージ。
そこから深さと範囲を拡げていく。
いくつかの生体反応が在る。地中や下水道に棲息する獣や虫の反応だ。
反応点の色や形で決まっているようだ。人は○。虫・獣は◇。一纏めに魔物は△。
フレンド――味方は◇で蒼。
味方にはライフバーが表示されて緑→黄→赤と状態が判る様になっている。
敵は灰色が通常で黄色が警戒、赤が敵対的、好戦的。さらに色の濃さで私より強いか弱いかが判る。
地中に灰色△の反応が索敵範囲に触れた瞬間、黄色に変色して動きが止まった。
「地中に反応あり」
「敵は進軍を続けているか?」
私は首を横に振る。
「警戒して止まってる」
「どのくらい時間が稼げる?」
「直接敵の姿を見ていないから、相手が何か分からないからはっきり言うことが出来ないかな」
警戒して立ち止まったものを怒鳴り、進軍を再会させようとする短気なものが居れば足止めなんて出来ない。
微弱な精霊力で警戒するほど繊細か神経質かは知らないけど、そんなに敏感な反応をしてくれるなら、嫌がらせでもしてみる?
網目のような索敵。それは無害なものだ。
ワイヤーやレーザーなんかでサイコロ肉になる罠っぽくして迫って来たら敵はどんな反応を示すだろう。
撤退するかな? それとも犠牲を出そうとも進軍をしてくるかな?
「アルシェさん」
「なんだ?」
「地中の敵の中の魔物とかって目が退化してたりしますよね」
「ああ。それがどうした?」
「それってどうやって地上の敵を狙って襲うの」
「生物の魔力だな。魔獣や魔物は強さを示すために魔力を隠す事はない。人も魔力の強さをひけらかしたり、魔力制御が甘い奴が狙われる、がそんなことを聞いて何をするつもりだ?」
「私の【索敵】に警戒している敵は敏感だと思うんです。その敵を斬り刻むように魔力をぶつけたら、驚いたり、攻撃されたって勘違いして暴れて仲間に被害与えてくれたり、暴れたことで掘った穴が崩れて生き埋めになったりして軍隊に被害が出て壊滅したりしないかなって思ったんです」
「……ソウジュ、お前、可愛い顔して中々悪辣なことを言うな。だが、悪くない。此方に被害が無ければ無い方が良いのだからな。例え全滅でなくとも敵が減れば私たちに余裕が生まれるのだからな。殺れ」
アルシェさんはニヤリと笑い、フレイヤさんとシルヴァラの面々は引き気味になっている。
「殺ります」
私は精霊力を鋭く研ぎ澄ませ、まだ見ぬ敵へと向ける。




