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強襲アールヴイーター

 目の端に映る魔力ゲージがジリジリと減って来た。

 

 何故、焚き火をしないか? 

 答え、森林火災が怖いから。


 いや、実際は木を組んでいたんだよ。

 そこへ、コイシュハイトドリーマーホーンホースという白銀の獣人の魔物が襲いかかって来た。


 焚き火中に暴れられて火のついた木切れが飛んで――とか、逃げたり戦闘で火の消し忘れで大火災なんて笑えない。


 ガチ恋されて粘着されそうだったから、撲殺したよね。


 それでドロップしたのが純潔乙女という装備品一式(・・)


 Luck値が影響しているのか、童貞一角馬なんていう処女厨っぽい馬の魔物にガチ恋スパチャ的感覚で落として逝ったのかもしれない。


 ホルターネックのバックオープン戦闘衣。スカートは深いスリット。

 ガントレット、グリーブ、アンクルガード(足の甲も防御)、胸当てと腰当ては細部にまで意匠を凝らしたカッコ可愛いデザイン。

 白銀の鎧に純白の戦闘衣の見た目姫騎士っぽいものになった。

 

 何故、この装備を身に着けたかって?

 【Absolute Virgin Field】なる効果がある。

 フレンド登録、パーティー登録していない悪意、下心あるプレイヤーに対し、容姿認識阻害の効果がある。



 

 暖をとるために少しだけ木を貰うね、と目を瞑り、精神統一してカッと目を開いて正拳突きを打つ。

 素人でも木を拳で折れるほどスキル【天元】さんは優秀だ。


 瓦割りならぬ大木割りで薪を量産していく。


 並列型に並べた所で、ザッガササ、という足音と枝葉が擦れ折れる音に薪を組む手を止めて警戒する。


 木々の間からヌッと現れたのは立派な一本角を有する白馬に宝石の様な眼、淡い青みがかった紫の鬣の馬頭が現れた。

 何やら薄っすらと光を纏っている。

 夜道も苦は無いだろうな、とお


「んふぅー……っ! 匂う匂うと香すぃ匂いを辿ってみたるぁなんと大当たるぃ!!」


 ふぁさぁ、と前髪を掻き上げながらバチコンッ☆とウインクして来た。


「うわぁ……ないわー……引くわー……白馬が王子様なんて一人二役……ないわー」


 自分を王子様だと酔ってるナルシストドリーマーは苦手だ。


「ふふ。そこな処女おとめ。私はこの夢幻の森を縄張りにしているユニコーンさ」


 ふぁさあぁ、と髪を掻き上げる。


「いちいち、うっとうしい……あと、匂いを嗅いでってキッ……モ」


「ふふ。照れて居るのかい? さぁ、その美しいお御足で膝枕して私のたてが――」


「人が作った物を壊したらまずは……謝れえぇっ!!」


 瞬動で接近し、2メートル近くある顔面目掛けて拳を打ち下ろす。


 この馬鹿面。よりにもよって薪を組んでたのに踏み荒らして鬣ファサファサしながら近付いて来たのだ。


「――ぶうるぇあっ!?」


 顔面にヒットした瞬間にユニコーンの名前が現れて、ライフポイントバーが六本現れ――


「ぶぇらぁぁぁっ!! あべっ!! あばっ!! ぷげらぁっ!!」


 ユニコーンの身体がスピンしながら地面に叩きつけられ、バウンドして錐揉みしながら飛んで行った。


 因みに【嚆矢の一撃】が乗った為にユニコーンのライフバーが吹き飛んでいく。


 ユニコーンからすれば何が起こったか分からなかっただろう。


 因みにユニコーンではなくコイシュハイトドリーマーホーンホースというネームドボスだったたらしい。ライフバーの多さからレイドボスだったのかも。


 暫くすると硝子が割れるような音が聞こえて、コイシュハイトドリーマーホーンホースを倒したとリザルトが現れた。


『プレイヤーNamelessによってエリアボス夢幻馬コイシュハイトドリーマーホーンホースが討伐されました』


 これは全プレイヤーに対しての告知だろう。


 ん? 首を傾げる。プレイヤー名は――ッとよく見ると、ユーザー名は登録しているけど、プレイヤー名は登録してなかったことを思い出す。


「【双樹】と」


 不登校、引き篭もりの顔なんて誰も覚えてはいないから大丈夫。言っててチベットスナギツネみたいな表情になるけど……。


 泉をのんびり眺めながら仮想現実って良いよね、と思う。


「リアルの観光地なんて無法地帯って聞くからね」


 神社仏閣では害人が施設の物を壊したり、ぶら下がったり、騒いだり、動物を虐待したり、糞尿したり自己主張強めの動画撮ったり、写真スポットでは写真撮るのに邪魔だと文句言われたり、突き飛ばされたり、割り込まれたり、自分が撮る為なら迷惑も考えない常識の無い撮り鉄とか、観光してると害人に切れられたり、煽られたり、物投げられたりと治安が悪い所もあるとか。


「仮想現実なら報告で即アカバン、現実では即バンなんてされないし、ね」


 そんな事を考えてると、索敵範囲に感有リ。


「お客さんみたいだね」


 暫く待っていると――


索敵範囲に感が有った時は【????】表示だったものが、視界に捉えた瞬間に【アールヴ イーター】変化する。


【アールヴ イーター】:精霊種族アールヴを主食にする捕食者。

 その手指の鋭い鉤爪でアールヴを裂き捕らえ、刃の様に鋭い爪を肌に喰い込ませながら締め上げる。

 足指も鉤爪でアールヴの身体を貫き、地面に縫い付けて、動けなくしたアールヴを頭からバクリと食べてしまうぞ!!

 その剛腕、巨岩の様な手で、膂力で殴られると一溜まりもない。城壁、城門を粉砕する。

 その反面脚は巨体を支えバランスを保つ為に決して速くは無い。

 

 

 見上げなければならないほどの巨体。虎顔にヒヨコの体形、羽の代わりに和毛を生やした胴体に比べてやたらと長い剛腕、鱗肌、脚はティラノサウルスの様な脚。乱杭歯が並び牙が有る――が私を見下ろしている。


 ライフバーが六本。


 三本はエリアボス 四本が基本的にダンジョンボスのライフバー。六本はレイドボス。


 ――エリアボスにレイドボスが出現する超高難度エリアだったの!? 


 冷や汗が出る――ように感じる。

 本能的に右足が一歩後ろに退る。

 

 ――いくら【天元】さんが有っても流石にレイドボス相手に【嚆矢の一撃】は効かないよね……。

 

 【嚆矢の一撃】でライフバーは半分削れたとして、次の攻撃は?

 さらに言えば凶悪な敵は変身能力が有っても変身する度にダメージも回復してしまうし、強さも桁違いに上がる。


 問題はライフポイント値がプレイヤー、敵ともに表示されていない。ライフポイント値だけではない。ステータス全てだ。


 全て『感じろ』だ。


 せめてものお情けがライフバー表示。


 因みに空腹、喉の渇きでもライフバーが減ってる。


 真剣な闘い。ひりつくような駆け引きを体験させる、と小此見と島はインタビューで語っていた。


 何でも手を引いて貰わないと駄目な大きなお友達がSNSでクソゲーだ、もっと分かり易いように作り直せって駄々を捏ねてたのが話題になっていた。

 

 ――私一人でどうしろと? いや、それよりレイドボスのイベントキーはなんなのさ。そんなの私、知らない。まさかとは思うけど、あのコイシュハイトドリーマーホーンホースを斃す事がイベントキーだったとかないよね? 一人、でいのかな? あの白馬の王子様みたいなウザキャ――勘違――んんっ、仕切り直して、と。キラキラしい白馬だったもん。


 アレがイベントキーで、本来は助っ人キャラクターだったとしたら、私は協力者を殴り斃したお馬鹿さんという事になる。馬を斃しただけに。


 アールヴイーター――その名の通りアールヴの捕食者は、アールヴでは無いと認識しているのかぐる゛る゛る゛る゛る゛と唸って、私を威圧している。


 どうやらまだ襲う気はないようだけど、のがす気はないようだ。

 

 ――それも時間の問題かな。それなら――


「私は柴犬派なんたよぉっ!! キメラは鼻血ぶち撒けて死ねぇっ!! くそがぁぁぁっ!!」


 何故鼻か? それは身体の正中線に有るからだよ。


 【嚆矢の一撃】がアールヴイーターの鼻頭を撃つ。


 ただ、攻撃は鱗皮膚が堅固だった。その上ざらついてヤスリのようになっていて、物攻・物防ともに【天元】さんのお陰でプラスされているはずのガントレットのフィンガー・ナックルガードが削られて傷付いていた。一部砕けて欠けてさえいる。

 そして私の攻撃は【嚆矢の一撃】と【天元】が発動していても鱗一枚、その表面に罅を1cm入れられただけだった。


 それにしてもアールヴイーターの歩みは遅い。その一歩が大きいせいで、距離はアールヴイーターの腕の届く間合いから抜け出せない。


 腕の振り回し攻撃。掴み攻撃。爪の切り裂き攻撃。掬い上げ攻撃。その度にバランスを崩している。


 避ける。逃げる。魔法を放つ。それもアールヴイーターがバランスを崩した時に嫌がらせの様に。


「ほらほら、どうしたの? 中ててみなよ。アールヴは捕まえられても、私は捕まえられないね」


 ニヤリと笑い、指で来い、と誘う。


 挑発さられ、嘲笑されたことに加えて嫌がらせの様にバランスを崩した時に何度も何度も魔法を放たれたことに頭に来たのだろう。

 アールヴイーターが吼えた。


 グッと地面を踏み締めて――


 突進突撃。タックル、ラリアット、ダイビングエルボー、ダイビングタックル、押しつぶしか。


「まぁ、何だって良いけど、さ。巨体を揺らして走るのは良い。頭、腕に手――爪に魔光の輝きを纏ってるけど――」


 バランスを取りながら無理矢理に速度を出して走って――


「止まれるの?」


 飛びつき掴みかかり、喰らおうとするアールヴイーター。


 無理に一足飛びに攻撃なんかするから余計にバランスを崩すことになっている。


「こっちだよ」


 私の声に反応してバランスを崩しながらも、振り向く為に脚を上げた瞬間――


「『クエイク』」


 地に足がついている方を泉に向かい揺らして、更なにバランス崩しを行い、アールヴイーターの揺らぐ身体に蹴りを加えて押してやる。


 アールヴイーターは吠えながら大きな波飛沫を立て、泉へと没していく。


「深さはどれほどか判らないけどさ。私の目にキミのライフバーがまだ映っているってことは、私はまだキミに標的にされているってことだよね。それは私からもロックオンが出来るってことだよ。でもわざわざ、機雷を撒くほど私はマメじゃないんだ。だから『グラビテーション』。溺死しろ」


 ――キミが溺死するのが早いか、私の魔力が尽きるのが早いか勝負だよ。


 ズオッ、とアールヴイーターの片腕が水面から伸び上がり、岸に手をかける。


 『グラビテーション』にあらがうアールヴイーターの腕の筋肉、骨がギヂギヂ、ミ゛ヂミ゛ヂ軋みを上げる。


 手に耐久値バーが表れる。


「なるほど、泉に沈めて、伸び上がった腕を叩き潰していくのが正攻法なんだね。なるほど、なるほど。それじゃあ――」


 アールヴイーターが浮上して来るのも時間の問題だろう。

 それならそれで、一人でもアールヴイーターを斃す為の準備をしなければならない。


 別に腕を破壊しなくても良い。


「『エクスキューショナーレイ』」


 ビィィィィィッ!!と光線がアールヴイーターの左手の指を全て切断した。


 再び沈んでいくアールヴイーター。


 一本、ライフバーが効果音とともに消えた。

 

 水中に没していくアールヴイーターの影が見える。


「一方向じゃなくて、全方向から重力で圧していくのはどうかなぁ」


 影に手を向けて、『グラビテーション』を放ち、グッと手を握り締める。


 すると、一方向――下に向かっていた重力圧が多方向から中心に向かうようになった。


「それでもレイドボス。抗ってるなぁ。握り込む手に抵抗感がある。内側から押し拡げて破ろって? させないよ?」


 握っていたてを開く。圧が弱まるが、押さえつけるように左手を被せる。  

 そして、上になっている手の平と指に角度をつけて曲げ、下になっている手で受けてリズム良く回転させながら、キュキュしていく。


 ザッバンザバンッ!!と水面が荒ぶる。


 何度も掌で転がしていると、2本目のライフバーが減衰し始めた。


「フッフッフ〜私はおにぎりは具材をたっぷり入れる派なので、ふわふわだと崩れて具材がこぼれ落ちるからねある程度締めないとなのです」


 減り始めれば、あっという間にライフバーが割れた。


「基本は重力で潰す。でも、それ一辺倒じゃ駄目、と。それじゃあ、具材を変えてみよう」


 わざと『グラビテーション』を止める。


 舐めプじゃないよ。効果が無いんだ。


 右手に『グラビテーション』。その『グラビテーション』を球状にしたものに左手に水、風、氷、雷、樹火、大地の属性を次々と生み出して——


「レッツ混々《まぜまぜ》! 握々《にぎにぎ》! はい! 出来ました!」


 手のひらに浮くソフトボール大の魔法球。


「これで終わりだぁぁああぁぁっ!! アールヴイーターぁぁああぁぁっ!!」


 ガバァァァッ、と馬鹿みたいに大口を開けて浮上して来たタイミングで投げ放つ。

 鮫が海面の獲物に食らいつくように、もしくはシャチが流氷上のアザラシを襲い喰らうように。バッグンと食べた。自分ならこの程度の魔法なら余裕で噛み喰らえると判断したのだろう。


 ゴギュンと大気が鳴り震えた。


「内側から内側に圧縮されたらどうかな? どんなに魔法に対抗出来ても体内で発生した現象には抵抗出来ないでしょ」


 アールヴイーターのライフバーが割れ、アールヴイーターの身体が圧縮された。


「なんとなくで狙ってみた相生効果が発動するかは判らないけどさ」

 

 暴れ哭くアールヴイーター。


「今までどれほどのアールヴを喰い殺して来たの? お前は、お前が喰らったものが泣いて助けを、許しを請うても嗤って喰って来たくせに、自分は好き勝手助けを請うなんて、さ。お前に喰らわれたものが戻るわけでも無いし、私が討ったところで浮かばれるかは判らないけど、さ。今此処で私がお前を討つことでこれ以上の嘆き悲しみは起きないわけだ。だから、さ。死ね」


 虐めを行う奴は豆腐の角に頭ぶつければ良いんだ。


 グボッグギュン、ギュグンッ!! と私の怒りに呼応したかのように圧縮速度が上がり、アールヴイーターのライフバーを割り切った。


 落ちるアールヴイーターが小さく圧縮された玉。赫灼と高熱を放っている。


「こいつ、繁殖とかしてたりするのかな? それも狩らないと駄目かな?」


 アールヴイーターが現れた場所を見る。その奥には道が出来ていた。


「一旦休息をとってから確かめてみるか……」


 泉の近くで休むことにした。


 

豆腐の角に頭ぶつけてしまえば良い。

豆腐は何に乗せる? それを何処に置く?

その豆腐に頭ぶつけたら豆腐はどうなる?

潰れた豆腐のあと、頭はどうなるでしょうか?


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