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【小此見】回です。
虐めをしていた者、パワハラ、モラハラ、性犯罪、マウント、カースト、迷惑系配信者、害人。
中には真っ当なもんもあったが、とにかく粋り散らかしとった奴ら、正義感を振り翳しとった奴らの動きが重い。
まぁ、それもしゃあない。ゲームやからと舐め腐った連中が、忠告も聞かんとPKして、ホンマに死んだと、理解した途端に自分は悪ないってケツ捲って逃げて隠れよった。自分は悪くないって居直って太々しい態度で逃げるっちゅう意味や。
そいつらを街の中から燻り出すために考えたイベントが、「セーフティゾーンの消滅を阻止せよ!!」や。
最初は簡単に冒険者の町センヴァーリアをスタンピードから護れっちゅうイベントや。
真面目に攻略しとったら普通に着いとる町や。
せやからプレイヤーのケツを叩いたんや。期限までにたどり着けよってな。
ホンマやったらハイエルフの世界樹護る超高難易度のレイドイベントへの布石やったのに【ファントム】ちゅうプレイヤーにソロ攻略されよった。
ワケわからん。【ファントム】ちゅうプレイヤーなんかおらんのやから。生存プレイヤーは全員プレイヤー名が登録されとる。
死んだ連中もや。
ただ、一人プレイヤー名が空白のまま切断された奴がおるんやけど……プレイヤーが名前決める前に停電が起こったか、それとも誰かが接続を切ったんかはわからんが、生きては無いやろうから関係あらへんわ。
なら、何や。何もんなんやゲームマスターの俺が把握できん何かがあるんか。
いや、そんな筈あらへん。
島もマザーAIにも確認とったんや。どっちも否定しよった。
最初の絶望イベント。皆大好きゴブリンの姿でセンヴァーリアにほど近い森に俺は降り立った。
ゲームマスター権限でゴブリンを大量に出現させると、ユニット事に戦い方を設定する。
消炭色の腹だけが出た痩せこけた小鬼どもや。
俺は腹は出ているが筋骨隆々で背丈もある赤銅色の鬼。
「クソゲーになんかさせへんぞぉっ!! 告知もやった。それでも攻略せんのやったら、お前らの首を絞めるんはお前ら自身や」
配信も準備もバッチリや。面白い言うて投票した連中にも、放置した連中にも見せたらなあかんからなぁ。楽しんで貰わな。
リアルで控えているスタッフたちに配信準備をするように指示を出しつつ、下僕に餌を与える為に周囲を偵察、餌が在れば襲い奪い好きにしろと自由にさせる。
だが――
「ん? なんやコイツ? コイツだけスリーマンセルから離脱しよる」
挙動のおかしい個体。戻るように操作するが――
「命令が弾かれよった!? どういう事やっ!?」
ゴブリンの設定として自分さえ良ければ良いっていう性根付けにしたにはしたが、なんでGMの命令が弾かれるんや?!
「バグか? いや、コイツはGM専用のスキルや……俺がそんな凡ミスする筈無いやん」
なら、何でや――疑問に思って観察しとったら反応が消えた。
「な、何なん?! 何が起きたっちゅうんや!! 野生の魔獣か魔物に殺られたか?! そんな阿呆なことあるわけ無いやろ!! 雑魚のゴブリンや言うてもGM直々に引き起こすタワーディフェンス型レイドイベントのゴブリンやぞ!!」
突然の事に少々取り乱したが、良う考えると魔獣やなんやに殺られるなんて有り得ん。敵勢反応はカンストしとる【感知】に反応も無ければ、【透視】でも視えんかったんや。
せやから――
天が吼え、轟音、地響き、地面と森が砕け散り、目の前が漂白された。
「ア……ガ、ギ……」
な、何が起きたんや!! 落雷か? 落雷がGMの無敵を貫通したやとォォッ、そんな馬鹿なことあるかいッ!!
徐々に戻る視野。目に映るのは死屍累々の数百に及ぶゴブリンユニット。焼け爛れ、炭と化したゴブリンユニット。
そしてGMステータスのお蔭で生き延びた自分も炭化し、焼け爛れた有り様だ。
「レイドイベントのゴブリンやぞォ……ダメージカットバリアを付与しとんのやぞォ……天候の雷なんぞで殺られてたまるかぁ……ッ!!」
――クソったれが!! どないなっとんねん!!
心の裡で悪態を吐き、外のスタッフ――明石 珠子に連絡をする。
○
「あ、明石ぃ、モニターしとったやろ……」
『ええ。何があったの小此見くん。鉄壁のGMアバターが息も絶え絶えの瀕死状態じゃない。モニターしていたけど、一瞬、本当に僅かな時間だけどノイズが奔って、動作も重くなった』
「そ、それは何時や」
『何時って、小此見くんの呼び出した偵察ゴブリンが一体だけ逸れて死んだ辺りからよ』
「な、何やて!? 死んだ!? 何でや、こっちの【感知】にはなんも反応無かったで!!」
確かに逸れが居った。せやけど、ちょっと離れた位置に留まったまま動いとらん。俺の【感知】には生きとるっちゅう判定が出とる。それが死んどるやと!?
「殺ったんは誰やっ!? 殺ったプレイヤーは捕捉出来たんかっ!!」
『それが出来なかった。死んだ瞬間は観たわ。確かに観たのよ』
明石はサボったゴブリンが何者かに圧し倒されたかのように、突然、地面へと頭を打ち付けて死んだという。
そして“何者か”と言及出来んかったんは、プレイヤーのアバターが存在せんかったから――いや、モニターには反応は有ったっちゅう。
「そんなん、透明人間やないか……何なんや、何者なんやプレイヤーは……っ」
『此方ではそのプレイヤーこそが謎のプレイヤー『ファントム』なのではないかとの結論を出したわ。小此見くんを攻撃した雷撃も『ファントム』の仕業と見て間違いないわ』
「ふ、巫山戯んなやっ! ソイツはまだ周辺に居るんかっ!!」
『小此見くんのカンストさせた【感知】でもレジストされてるのよね……。GMアバタースキルの【感知】をレジスト出来る程に【隠蔽】をこの短期間でカンスト出来るものかしら? 無理よ。いくら【隠蔽】をカンストしてもGMの【感知】をレジスト出来る力は無いもの』
明石の言う通りや。俺の【感知】を潜り抜けられる奴なんか居らへんのや。
その時や。【感知】に引っ掛かるもんが有った。
――阿呆が。どないな手を使うて俺の【感知】をブチ抜きよったかは知らんが、枝葉に引っ掛かる音までは隠せへんかったみたいやなっ!!
「阿呆が死にさらせや!!」
ゴブリンキングのアバターとは言えGMアバターのカンスト魔法攻撃力や。ただのファイヤーボールでも威力は半端やないで!!
木蔭に有った反応へと魔法を放つ。
周囲の木々を焼くヘマはせん。
基本は破壊不可オブジェや。
見てみい。木々は燃えとらん。戦場効果で木々に火が着いとるように見せかけとるんや。戦闘が終わったら自然に鎮火するようになっとる。
落雷での麻痺、焼け爛れは治った。やが、体力と生命力が戻りきらん。
体力っちゅうんは活動出来る限界値。
生命力っちゅうんは命や魂の数値。
魔法やスキル発動に必要なんは精神力。
――ガワだけは修復することは出来たっちゅうのに、何でや何で体力と生命力が戻らんのや……。
GMアバターで感じる筈の無い身体の重さ。引き摺るように歩く。
「何処の阿呆か知らんが、待っとれよォ……直ぐに正体暴いたるからなァ……」
潜んどった場所に着き――
「正体晒せや『ファントム』ッ!!」
瞬間、息を呑む。
「な、何やコイツっ!! ホーンラビットやんけッ!! 巫山戯んなや!! クソボケがっ!!」
得体の知れんもんに襲撃され、キレ散らかす。
『落ち着いて小此見くんっ!!』
明石が何か言うとるが知るかっ!! プレイヤーどもは一向も遊ばん!!
わけ分からんプレイヤーに超高難易度のレイドイベントやった筈のエルフイベントも、今回も潰されよった。こんなもん許せるかいっ!!
その時や、スキルの【感知】では無く、生存本能が警鐘を鳴らしたんは。
「――ッ!?」
ソイツの気配を目で捉えた時には、懐に飛び込まれていた。
ソイツは沈み込むように俺の間近に居った。
全身のバネを活かしたジャンピング掌底アッパーがアバター体を抉りながら俺の顎を撃ち抜く。
アバターの巨体が浮き上がる程の威力。
俺の体力は消し飛んだ。残りは生命力だけや。
堪えたぞ……堪えたったぞ……正体暴いた――
回し蹴りを喰らい、蹴り飛ばされた。生命力がものっそい速さで減少していくのを感じながら、目はソレを捉えた。
メタクソに殴られながら……。
■
噎せながら意識が覚醒した。心臓は早鐘を打つようや。冷や汗、脂汗が噴き出て収まらん。
「女……女や……顔は認識阻害されたんか知らんが判らんかったが、『ファントム』の正体は女や』
「間違い無いわ。小此見くんが目で捉えた瞬間にモニターに姿が映ったわ。此方でも小此見くん同様に顔は解析出来なかったけど。アバターは155cm前後。でもスタイルは抜群のアバター。MOD出もない。それはAIも認めてるわ」
余計分からんわ。
「MODや無いてAIが判断したんやったら、【感知】で捉えられんスキルは何やねん。そんなスキル、隠しでも入れてないぞ。嶋はなんて言うとるんや」
「島くんは一度入ると超時間、芋状態だから此方からの連絡は無視してるわね」
明石は場所だけは捕捉してモニターしているというが……。
「アイツ、ガッツリプレイヤーに混じっとるやないけ。それに何やねん攻略クランの長って」
「そうやって、プレイヤーを戦場に連れ出すつもりでしょ。それで後ろから刺して悦に浸るのよ」
島のやりそうな事や……。
「島のことはまぁ、置いとくとして、今は謎のアバターや。プレイヤーIDや【COCOON】ナンバーで辿れんか?」
「そんなこと、小此見くんが目覚める前にやってるわよ」
紙を渡してくるのを受け取る。
「どういう事や……生死不明って……ダイブ(ログイン)反応は在るのにアバターが存在せんって……」
「搬送先は千葉零聖病院ね」
アカン、彼処はセキュリティ厳重や。
他人がどうこう出来ん。
「聞くけど、俺を殺った後、『ファントム』はどうなった? 捕捉し続けとんのやろ?」
「アバターを殺った後、反応は綺麗に消えたわ。でも、プレイヤーならセンヴァーリアに向かうはずよ」
「なら、一休みしたら俺も向かう。準備頼む」
「はいはい、おまかせ〜」
見とれよ。忘れてへんからなぁ。女子供や言うても容赦せんぞ!!
俺は再びダイブする為に回復に努めた。