1
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません
草原に出来た轍跡の道をゆっくりと飛ぶ精霊鳥の後を歩いていると、消炭色の肌をした痩せこけている身体。しかし腹は膨れている小鬼を見つけた。
「“餓鬼”に似てる」
しかし【看破】で表示された名前はゴブリン。
【ゴブリン】:他責思考が強く、加害行為を正当化出来れば理由は何でも良い。
:他者から物を略奪し、そのまま使用するか真似たりする程度の知恵はあるが、自ら研究、研鑽、発展させる思考は持ち得ていない。
:仲間意識がある様に思えるが、実は無い。他責の場合のみ利害が一致し、団結するが、基本的に他人などどうでも良い。利用出来るなら使う。利用出来ないなら捨てる。
:見敵必殺[推奨]
【索敵】には道から外れた森林の中に数多の反応がある。
「ゴブリン一体見つけると、近くに同族が数多潜んでいるというし、ね」
ゴブリンはまだ私に気付いていない。
一歩、接敵、二歩、間合いに入り、三歩で相手の体勢を崩し――
「暁降」
ゴブリンの顔面を掴み地面へと頭を打ち付けるように斃す。グシャリと地面に打ち付けたゴブリンの後頭部が弾ける。
ゴブリンは粗雑な棍棒を落として逝った。
このゴブリンは斥候かな?
斥候にしてはツーマンセルでは無い。
一向二裏の戦術かな? とも考えたけど【索敵】にも反応は無いし、気配も無い。
「自分だけが美味しい思いが出来れば良いって種族だからなぁ。欲に気が逸ったかな」
【看破】の説明通りなら、集まっているゴブリンたちは、この一体が消えた所で気にはしないだろう。利用出来ない奴は要らないのだから。
ただ、この一体がお宝を一人占めしていたら、と考えるなら悔しくて怒り狂うだろう。
「ゴブリンの集落か何かかな? それとも何処かを襲撃するつもりなのかな」
どちらにしても私には関係の無い話だ。無視してセンヴァーリアの町に向うのが一番だ。
リーゼには途中に村はあるけど寄らない方が良いって言われているから町へ急ぎたい。
村の人たちは冒険者や旅人を見下すきらいがあると教えてくれた。
空を見上げれば風精霊鳥は頭上で旋回して待ってくれている。
水は魔法で生成出来る。リーゼから貰った木ノ実やドライフルーツはある。だから少しくらいの寄り道は出来る。
「バラけて無い。一塊。私は気付かれていない。【索敵】で位置もバッチリだ」
お前たちの立つ場所が不変だといつから勘違いした?
足下に【狙撃】とゴブリンたちを囲うように範囲を絞った結界を展開の魔法陣を展開。さらにゴブリンたちの足下を脆く崩落する様に地魔法を発動さて細工した。
「千破矢降」
足下の魔法陣に向けて拳を振り降ろす。
一極に束ねられた雷が地上から天へと昇り、地が揺れ、地響きが轟き、森林の奥から絶叫が聞こえて落ちるように小さくなって、消えた。
ゴブリンたちは結界で逃げ場の無い状態で、雷撃に撃たれながら地面に空いた穴に落ちた筈だ。
「緊急討伐依頼とか出てたり、私の報告が初めて齎された情報なら証拠も必要だしね」
ゴブリンの状態が半死半生か死体でも情報と証拠は生活や活動資金になるだろうという打算だ。
アールヴイーターの様に圧縮してしまっては証拠にはならないしね。
私は森林の中に入った。
【索敵】に反応があった場所に着くと木の陰に隠れて観察する。
地面はドロドロと熔解し岩漿と化していた。
その中に片腕を欠損させながらも、片膝を着いた状態の腹は出ているが他は細マッチョなゴブリンが一体。
「アレは……システムウインドの光?」
ゲームの敵キャラが、プレイヤーのようにステータスなどを確認したりアイテムを使用するかのようにシステムウインドを展開している。
「ゴブリンのアバター? もしかして鬼種族のアバターを選んだプレイヤー? そのプレイヤーがゴブリン束ねてボスに収まった……とか? 悪役の立ち回りをするプレイヤーなのかな」
初級とは言え【天元】に至った雷撃魔法を束ねた攻撃を耐える高レベルになったプレイヤーが既に存在してたんだ。
あのプレイヤーが【索敵】と【看破】を使ったのか、私の【隠形】がそれをレジストする。
「……精度が低い? 【索敵】じゃなくて【感知】と【透視】?」
そこだっ! と言って見当外れな場所に火玉を撃ち込んでドリルの様な角を持つ兎を焼き殺した。
「な、何か焼き兎肉に、凄い当たり散らして荒れ出した……」
確かに飼いゴブリンを斃したけど、キレ散らかさなくて良くないかな。見敵必殺が推奨されてる魔物だよ?
悪役ロールプレイしてるなら覚悟の上じゃない?
だって、貴方だってプレイヤー襲ったりして楽しんでるんじゃないの?
テイムした魔物でもバトルすれば負けて死ぬこともあるはず。
「上手くいかないとキレる世代なのかなぁ……」
煽るのは得意だけど煽られるのは我慢できないとか?
自分が優位に居る時は余裕や大物振るけど、追い詰められたら小者になってしまう。
弱体化したら途端自爆したり、命乞いから騙し討ちしようとしたりするのを私は知ってる。
追い詰められた奴は何をするか分からない。さっさと仕留めてしまおう。
一歩、二歩、お腹だけ出た細マッチョゴブリンが私に気付くが遅い。跳ぶように接近する。
三歩目で細マッチョゴブリンの体勢を崩し、技を繰り出す。
気付かれた所で相手がファイティングポーズまたは、私が雷撃をしたと気付いていなければ【嚆矢の一撃】が必ず入る。
「【天照】」
細マッチョゴブリンの出っ腹を抉る様に下から上へ突き上げる打撃は胸元も抉り、身体のバネを活かし拳を撃ち込む。顎を捉え、浮き上がる細マッチョゴブリン。
「星環」
浮き上がった細マッチョゴブリンに回し蹴りをお見舞いする。
くの字になって吹き飛ぶ細マッチョゴブリン。
抗物理攻撃が働いたようだ。しかしそれを打ち砕いた。
「ぁ……が……ぎ……ッ」
致命傷の筈だ。それでも耐えているのは素のステータスが高いからだろう。
【九曜】
連撃で滅多撃ちにしていると、フッと相手が白目となったので、攻撃を止めると、細マッチョゴブリンは力が抜けた様に崩れ落ちた。
細マッチョゴブリンの亡骸を見下ろす。
「弱攻撃とは言っても【天元】に至った私のステータスの攻撃を耐えるほどの高ステータスがあったのに……」
高レベルプレイヤーとは思えないほど、戦闘感がまったく無いプレイヤーだった。
【星環】で蹴り飛ばした際に見せた、空中での立て直しの挙動の不自然さ。
【九曜】の連撃を受けている時も倒れそうになると不自然に起き戻って来た。
「アレは何だったんだろう」
結晶化して砕け散らないで遺されたままのアバター。
謎は尽きないけれど穴の中のゴブリンを確認しなければならない。
「グロ……」
麻痺どころか感電死、落下で骨が複雑に折れての死、圧死。そのどれもが焼け爛れている。
そこに細マッチョゴブリンの亡骸も蹴り入れると、穴を井桁格子で蓋をして、その上に地魔法で作った土蓋を被せ、目印として柱を立てた。
「待たせてごめんね。案内お願い出来るかな」
私は上空の風精霊鳥に声をかけた。
ひと鳴きして風精霊鳥が飛ぶ先へ着いていく。