1話 殺された夢
「殺してやる!」
こうしてわたしは殺された。
なぜ殺されたかって?
それは私も聞きたい。
「なんだそれ」
目の前の男が眉をひそめたあと、ポテチを一掴みして口の中に放り込む。
「知らん」
足を蹴り飛ばす。
人が死んだ夢を見たというのになんだその態度は。
「イテッ。何すんだ!」
「幼なじみのくせに、大丈夫〜? とかの一言もないわけ?」
「大して可愛くもねぇお前に言えるか!」
目の前の男がクッキーを何枚か食べる。
「そんなんだから、モテないんじゃないの? くそデブ」
「うっさ。お前だって、モテたことないくせに」
「後輩にはモテてました〜! 残念でした〜! や〜い! ボッチ根暗くそデブド陰キャ!」
「さすがに酷くないか? つか、そこまで言うならオレは帰らせてもらう!」
あ、やべ。
言いすぎた。
「ごめんごめん。本気でごめん! 許して! 優馬!」
「はぁ……はいはい。じゃあ、続きやるぞ」
「はぁい……」
また、クッキーを摘む優馬。
そんだけ食べてよく太らないよなぁ。
モテてないとは言ったけど、やっぱり優馬はイケメンだとクラスの女子の間では話題だ。
「この二次方程式にはたすき掛けとこの計算使うからな」
a分の-bの二乗プラスマイナスルート……
「意味わからん。なんでいきなり分数?」
「知るか。覚えろ」
横暴すぎない?
「えっと、ここの問題は……?」
あれ?
なんでだろ。
見覚えがあるような?
「なんだ? さっさと解けよ」
「う、うん……」
試しに解いてみる。
解き方がよく分からないので時々優馬や教科書を見つつ進める。
「あー無理無理!」
「そんなんで明日からの定期試験大丈夫かよ」
「知らね。定期試験などわたしの記憶から抹消した」
「抹消したらだめだろ」
◇◇
「それではテスト開始」
翌日。
わたしはテストを受ける。
1教科目は数1。
苦手教科なことには変わりない。
「えっと、ここは……」
たしか昨日やった。
ん?
ここの問題どこかで見たことが……
ま、気のせいか。
◇◇
テスト後。
仲良しの神宮美央と帰えっていた。
わたしと同じく勉強ができないので近くの公園で問題用紙を見て項垂れる。
「ねえ、今回の数1めっちゃ難しくなかった?」
「わかるぅ……かなりだるい問題、多かった」
a分の-bの二乗プラスマイナスルート……
わけ分からん。
あんな問題、正解させる気があるの?
「桜はいいよねぇ。頭のいい幼なじみがいて」
「あいつは頭だけだよ。美央こそ、頭のいいお兄ちゃんいるじゃん?」
「あの人は頭だけで全然勉強教えてくれないよ」
「え? ないの? 教えてもらったこと。この間、結構親切にしてもらったけど」
「ないないない! あれは外面が良いだけ。名目上は一応生徒会長だし」
「ふぅん……」
そんなものなのか。
美央のお兄さん、結構優しかったから彼氏にしてもいいなって思ったけど。
「でも、美央のお兄さんモテるよねぇ。昨日見かけたよ? お兄さん、知らない人に告られてるの」
「あーあったねぇ。毎年女の子から大量にチョコ貰うからわたしに見せるだけ見せて、『良いだろ』って言うだけで全然くれないし。あ〜あ〜! チョコであいつの顔にニキビできるかデブにでもなれ!」
「なかなか酷いこと言うねぇ……って、美央、後ろ」
「へ? ……って、お兄ちゃん!?」
後ろにはニコニコ笑っている美央のお兄さんの神宮玲央こと会長。
「美央〜。なかなか酷いこと言うねぇ。なんだっけ? ニキビ? デブ? だっけ?」
「うるさい! というか、いきなり後ろから近づかないでくれる?」
「えぇ〜? 僕はただ妹を見かけたから、近づいてみただけなんだけどねぇ」
「学校では、いつも睨んでくるくせに」
「はいはい」
会長が美央を撫でようと手を伸ばすけど、美央は避けた。
「触んないで。髪の毛が崩れる」
「はは……」
怒る美央をひたすらニコニコ笑って見てるだけの会長には苦笑しかできない。
顔はかなりいいから、彼氏にしてもいい気はするけど。
「キミは……確か、美央の友達の日野桜ちゃん?」
ち、ちゃん!?
いきなり?
「は、はい……!」
「いつも美央と仲良くしてくれてありがとうねぇ」
「い、いえ、こっちこそ……」
顔が良すぎて、直視できない!
なんで、こんな顔がいい生徒がうちの学校なんかにいるの?
芸能人とかじゃなくて?
「あ、それで、この間は書類を拾って頂きありがとう、ございます」
「いや、いいんだよ。ちょうどキミが困っているように見えたし」
「あ、いえ……」
あーもう、顔よすぎるから、どんな言葉でも惚れてしまう。
熱くなった頬を両手で覆う。
「桜を口説こうとしないでよ! バカ兄!」
「ふふ。口説いてる訳じゃないよ。バカと言えば、美央じゃないの? 今回のテストどうだったの? まさか、また母さんに叱られるような点数じゃないよねぇ?」
「うっ、うるさい!」
なんだかどんどん美央の立場が逆転してきてる気がする。
━━ガサリっ
美央が手に持っていた問題用紙を落とす。
「おや?」
会長が拾おうとすると美央が慌てて止める。
「触らないで! さ、桜! 早く桜の家行って勉強しよ!」
「う、うん……」
美央に手を引っ張られ、ちらりと後ろを振り返ると、会長は何故かニコニコとしながら
「ふふ。またねぇ。桜ちゃん」
━━ゾクッ
なぜだか、その顔に見覚えがあって背筋が凍るような気がした。
「……ら、……桜?」
「……あ、美央……」
「あ〜、あのバカ兄は放っておいていいから」
「う、うん……」
気のせいだよね?
生徒会長だし、何度か顔を合わせる機会はあるんだし。
デジャブってやつかな?
そうだよね!