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内島アキラを知ってるか?  作者: 三丈夕六


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第11話 新川悠3

 今日、月岡が再び訪ねてきた。いや、今後は下の名前で表記しよう。彼は月岡という苗字を好ましく思っていないようだった。かといって今の名前で呼ばれることにも随分抵抗があるようだ。内島アキラ。そんなに悪い響きでは無いと思うけど。



 あの日からアキラと連絡を取ることもなかったので、再訪には随分驚かされた。

 アキラは満面の笑みで部屋に入ってくると高卒認定に合格したことを告げてきた。これほど早く合格したことも当然驚いたが、何より僕の出した条件に真面目に答えてくれたことに感動した。



 彼は得意げに言った。元々高校中退後も勉強を続けていたそうだ。きっと目標は無いと言っても、ぼんやりと大学に行きたいという思いはあったのだろう。

 ここまでして貰った上で彼の申し出を断ることはさすがにできない。僕達は二人で大学を目指すことにした。



 アキラと今後のプランについて話し合う。週に数日、アキラが家に来る。そこで二人で勉強するという流れとなった。それに加えて週末は僕が外に出るのを手伝ってくれる。勉強があるので長時間は出ることはできないが、家の近くの公園から少しずつ行動範囲を広げていく。外に出て人と接することは不安だったが、アキラと一緒ならできる。そんな気がした。

 今日はそこで解散になると思ったが、アキラは試しに外に出てみないかと言う。突然の提案に戸惑ったが、もう夜九時を回っていたし、家の近所は人通りも少ないと説得されて思い切って出てみることにした。



 部屋を出てリビングを通ると、父さんと母さんが驚いた顔をしていた。普段は極力顔を合わせないようにしていたから二人の顔を真っ直ぐ見るのは随分久しぶりな気がした。大学に行かせて欲しいと頼み込んだ日以来かもしれない。アキラが事情を説明すると、二人は何も言わずに見送ってくれた。



 扉を開ける時の緊張は鮮明に思い出せる。ドアノブを回す手が震えて、上手く回せないと一瞬焦った。アキラは僕の肩に手を置くと、ゆっくりと頷いた。僕は一度深呼吸をして勢いに任せて扉を開いた。家の前には誰もおらず、民家から溢れる光が夜の闇を照らしていた。

 アキラに促され、少しずつ歩いていく。ずっと室内にいたから外の空気が澄んでいるように感じた。



 横を歩くアキラがどこに向かおうとしているのかなんとなくわかった。途中、人とすれ違うが、暗がりで顔は見えない。普通なら顔が見えないと怖いものだけど、自分にとってはそれがありがたかった。印象的なモニュメントが見えてくると、目的地までもうすぐだ。やってきたのは懐かしい公園だった。



 子供の頃、アキラや友達と一緒によくこの公園にやってきた。あの日々の光景が甦る。夏の暑い中皆で鬼ごっこをしたり、中央の丘でダンボールを使ってスノボのマネをしたな。

 ベンチに腰掛けると公園の中が見渡せた。子供が遊ぶにしては随分広い場所だ。この広場でみんなサッカーや野球をするんだよな。遊具は道路を挟んで向かいのスペースにあるので小さな子供を気にすることもなく全力で遊ぶことができた。



 思い出に浸っていると隣のアキラが気になった。アイツは悲しそうな顔をしていた。そうだ。アキラにとっては良い思い出ばかりでは無かった。父親の件で相当な苦労をしたはずだ。側から見ているだけの僕でも思い返すと胸が苦しくなる。あの時僕はどうすることもできなかった。……まぁ、高校で思い知らされたが。どうにかしようとしても結局無力だったのだ。誰かを守れたと思っても後で手痛い仕返しをされてしまう。今の僕がその結果だ。



 アキラは僕の視線に気づくと恥ずかしそうに笑う。アイツは言った。良い思い出があった事実は変わらないと。なんとなくだけど、納得できる考え方な気がした。

 その後はアキラと思い出話をした。自分でも忘れていたようなことをよく覚えているものだなと感心したが、それはアイツにとっても同じだったようだ。お互いのことを良く見ているものだなと思う。



 もしかしたらアキラ自身も良かった頃の思い出を確かめたかったのかもしれない。楽しかった子供の頃が本当に存在していたのかを。

 かなり話し込んでいたようで、公園の時計を見ると夜十一時を過ぎていた。その後は二人でゆっくりと家路に着いた。


 帰り道はもう、動悸がすることは無くなっていた。

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