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 殺意は人間らしい感情の中に含まれているだろうか。きっと、含まれているだろう。男は目の前の存在に、それはそれは純粋な殺意を向けていた。苛立ちで済ませていた彼の寛大な心は、あっけなく決壊してしまったのであった。


 男が罵声を浴びせてやれば、彼も浴びせ返してくる。殴ってけん制してやろうと思ったら、奴の方も殴りかかってくる。実際に殴ってやると、奴は拳を重ねて来るので一切の攻撃が通らない。このような攻防を一か月続けてみれば、誰も彼もが苛立ちを抑えきれず、目の前の彼に殺意を抱くであろう。


 ある時男は、この冗長な攻防に飽き飽きしてしまった。どのような手段を使おうと殺してやることが出来ないので、半ば諦めていた。その諦めの顔すら奴は真似してきやるので、苛立ちは最高潮であったに違いない。その苛立ちのまま頭を掻きむしってやると、奴も同様の動きをした。


 しめた、男は思った。奴はどんな時でも、自分とまったく同じ動きをしている。頭を掻いたら、奴も頭を掻く。これを利用してやれば、奴に攻撃が届くじゃないか。どこかの学会で発表したくなるほどの発見をした興奮を必死で抑えながら、台所に丁寧に保管されてある包丁を持ってきた。興奮が冷めやらぬうちに、男は自身の心臓めがけて包丁を突き刺した。


 見よ。奴の苦悶の表情を見よ。これこそ男が見たかった、奴の死にざまであったのだ。一か月の末に、男は目的の人間を殺害することに成功した。男は喜ぶと共に、自身に刺さった包丁で絶命した。憎き人間が居た鏡には、今でも部屋の壁紙が反射し、写っている。

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