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第一話 妹想いで、姉嫌い、そして見ず知らずの市民想いの狙撃手(Ⅱ)

物語を切る所は何一つ考えていません、これくらいで5000字かな?という所で切ってます、すみません。

 長いトンネルを抜けて、今度は上りのエスカレーターを経由して扉を開ける。目が眩む程の眩しさとゴミだめでは感じる事のできない心地の良い空気を吸う。ゴミだめにある会社が汚い事も、モルというゴミだめに相応しくない人間が居る事も直ぐに慣れたけれど、この光と空気はいつまでも新鮮な物に感じる。あそこでこの光と空気を味わう事はできないのだから、当然といえば当然かもしれない。

 本社に到着し真っすぐエレベーターに向い、職場の事務所がある5階を選択し、エレベーターは起動し5階に到着した。エレベーターの扉が開いた先には左右に3つの扉、その全てが清掃部門の部屋であり、手前から一番右が用具室、それ以外が他清掃班の事務室。

 きっと明智は寝坊、マリーはその明智を叩き起こしに、

サチアは未だ後方にいて、他の班は休暇中、となるといる可能性があるのは。

「キャプテンが居るかな?」可能性があるのは規則正しいキャップ以外居ないだろう。

「僕がどうしたって?」ミライと頭一つ違う男性が横から声をかけてきた。

「なんだ、階段で上がってきたんだ、珍しいねこの時間なら大体事務所に居るのに」

「昨日はスーツの改良につい熱が入ってしまってね、お蔭でこの様だ」

 やれやれとわざとらしく手を上に挙げ、首を振って見せるキャプテン。金髪碧眼の日本人離れした外見、男の自分にもそう思わせる、この人は絶対女性に好かれるのだろうと思わせる性格と見た目。我々と比べるのもおこがましい程の頭脳を持つ、ミライが務める会社の技術担当、趣味は自分のパワードスーツ弄りと、武器等の考案。恐らく天才と言われる人間の一人に入るだろう、なのに何故傲慢でプライドが高く、全てが自分中心のスケベ。人間が背負う七つの大罪全てを死刑執行レベルで犯す明智とは全く違ってどこまで言っても紳士、同じ天才でもどうしてこうまで違うのか。

「キャプテンはどうしてそんなに頭がいいの?」頭の悪さが露呈する質問をここで一つ。

 明智の様な異常な知性と知識も、キャプテンの様に専門知識も無い、だからこそ疑問に思う、どうしてそこまで頭が良くなれるのか。深い意味なんてない、ただの疑問。

「僕自身が、凄い優れているとは思わない、明智を見ているしね。でも理由があるとすれば好奇心という名の欲求かな?知らない事知りたい、作りたい物を創りたい。後あるとすればその感情だけで勉学に熱中してしまえる単純さかな?」

「簡単に言っているけど、俺には理解できないなー」事実好奇心なんて覚えた事がない。

「そんな事は無いさ?ミライには今そういう欲がないだけさ。その欲が明智の様に全能か、僕の様に一極集中か、それとも別の何かかは、ミライにしかわからない事だけれどね」

「欲求か…、この機会に探してみるか?」

 キャプテンの少し先を歩きながらミライは顎に手に当て考える、欲求なんてモノ深く考えた事も無かった、欲が薄いというのは自覚はしているし、その理由もわかっているのが少し質が悪い、けれど考えたところで浮かぶのはレニの幸せくらいなモノだ。

「難しい事は考えないに限るね、知恵熱が出る」

「知恵熱は赤子の頃に突然起こる、発熱症状で大人になってなるものではないよ、ミライ」

 へぇーそうなのか、また一つ賢くなってしまったと頷き、おもむろに事務所の扉を開く。

 一つ、囁く様な声と。もう一つ、抑える事の出来ない嬌声がドアを開いた瞬間にミライの両耳に入ってきた、相も変わらずうんちくを話すキャプテンには聞こえないであろう、小さな二つの声。先程自らの欲求にレニの幸せを挙げたミライだったが、恐らくそれは間違いで彼女らがやっているその行為こそが、欲求を示すのにふさわしいのだろう。ミライは音も立てず、光も入らせずに事務所の扉を閉めた、これが正しい反応だと信じて。

「どうかしたか?ミライ」

「キャプテン一回、一階に戻ろうか、飲み物奢る。というか奢らせて欲しいさっきの授業料?講師台?として」

「ダジャレかい?それにあの程度の会話で授業料なんて、必要ないよ、いつもの事だろ?」

 まま、そんないつもの事でも敬意を示すのは大切な事なのだよと言わんばかりに、キャプテンの体をエレベーターに押し込み、一階のボタンを押し、少しの静寂の後キンコンと、到着を知らせる合図と共に扉がもう一度開いた。

「あらミライじゃない、てっきりもう事務所にいるモノだと思っていたのだけれど」

「事務所に入れない様な雰囲気だったもんでね、丁度いいサチアにも飲み物をば」

 キャプテンは右手で、サチアは左手で無理やりと言う形ではあるがミライは自販機の前まで引っ張り歩く。先ほどのマリーの嬌声の感じからして、もうそろそろクライマックスであるとミライは推測。たぶん、恐らく、きっと、自信はないけど、絶対。

「ミライ早く端末でお金払ってくれないかしら?奢ってくれるんじゃなかったの?」

「というか一体何を見たんだ?いきなりドアを開けたと思ったら閉めて、一階へって」

「あぁー、なんて言えばいいかな?とりあえず払うね、払います」

 端末を自販機にかざし、お好きな飲み物をどうぞと自販機の前から退く。それにしても何といえばいいのか、素直に肉欲を貪っていたというべきか、それともいつぞやに聞いた乙女の園がそこにあったというべきか、さてどうしたものか。

「まぁー、その…近くにありすぎて見えなかったと言いますか…ハハハ…」

「なんだそれ?まさか本当に知恵熱が出たのかい?どれどれ」キャプテンがこちらのおでこを自らの手で触り、自らのおでこと体温の差を比べる。手は冷たくて気持ちが良かった。

「ミライが変なのはいつもの事でしょう?そのまま頭の中研究してくれてもいいわよ、キャップ。それじゃあご馳走様」

 サチアはミライに自分が飲んだ飲み物のゴミを手渡し、一足先にエレベーターの方へと向かう。ゴミは自分でと言おうとしたが、先にエレベーターに乗られてしまっては待たなくてはならない、それは面倒くさい。

「ちょっと待ってー俺も乗るー、てかさっきのどういう意味だコラ!」

 ミライはサチアから渡されたゴミを後ろへほうり投げ捨てる。

「ゴミは投げるなって…、ってもう居ないし。それよりも僕は見もせず、見えてもいない、ペットボトルと同じサイズしかないゴミ箱に直接入れる事のできる、精密性と空間把握能力を知りたいんだが…まぁ天賦の才という事か…」

 全くと肩をすくめ、もう一度階段を使い5階への歩みを進めた。

「で、一体何を見たのよ、大抵の事じゃあ驚かないから言ってみなさいよ」

「背徳感が働いた結果生まれた、情欲の暴走かな?知らないけど」

「なにそれ?やっぱり熱でもあるのかしら?確認してみましょ」

 サチアはおもむろに端末を取り出しこちらに向ける。故にこちらもピースで返したのだが、今は邪魔と言わんばかりに、差し出したピースは邪魔と振り払われた。

「熱はないみたいね、というか当たり前ね、馬鹿はなんとやらとも言うし、あーあ、少しでも心配した時間を返して欲しいわー」

 失礼な事を言う奴だ、彼女達の名誉の為にこちら隠した親切心をなんと愚弄する事か、流石サチアだ。というか別に隠す必要もなかったのだが、サチアに言えばサチアを含めた第二ラウンドが始まる可能性もあった、故にミライの判断は正解だっただろう。といっても終わった後のマリーを見れば嫌でも察してしまうかもしれないが、まぁ知らないに越した事はないだろう話が余計にこじれるだけのような気もしなくない。

「そういえばレニは、何か言ってた?俺達の仕事に対する不満とか、何とか…」

「強いていうなら給料面…、嘘よ、言ってないわ、レニは私達と違って出来がいいからね。あったとしても帰りが遅い事や、残業の多さ、急なシフト変更それぐらいよ、多分ね」

「多分なんだ、サチアならレニに関しては絶対って言いきると思ってた」

「私は絶対なんて知らないわよ、生憎アナタと違ってね、それよりもモルに貸してもらった本読んであげなさいよ、憂慮してたわよ余計な事したかもってね」

 余計なお世話だ、言われなくても数少ない友人のモルを泣かせるような事はしない、けれど絶対は知らないか、サチアは可笑しな事を言った所為で少し笑いそうになる、この世界程、絶対に縛られている世界なんてないだろうに。それにしてもサチアも少しは姉らしく大人になったという事か、断言だけではなく、憶測という言葉も覚えたらしい。

 けれどサチアが今のレニの感情が解らないんじゃ、ミライには決して解る事はないのだろう、だってレニに対して一番真摯に対応しているのはサチアなのだから。

「自分の時は思わなかったけれど、子供の成長は早いわね、少し目を離したら…もうどこに居るかもわからなくなっちゃう」少し悲しげにサチアは上を見上げる。

「そういうもんか」故にミライは納得した「えぇ、そういうものなのよ」そしてサチアが軽く言い放つ、そうか、そういうものなのだと自分に言い聞かせる様に。

 何とも言えない静寂が二人を包み、若干の気まずさが混在したが、その時間も一瞬、何故ならばサチアが用具室に入った為だ、ただ一言「仕事の準備」だからミライも了解し、自らの仕事を確認の一つでもしようと、既にクライマックスを迎え、静寂に包まれながらピロートークでもしている二人の間に割って入りでもしようと考え、もう一度扉を開く。

 そこには素っ裸、尚且つ他人のデスクで熱いキスをしている女性が二人。

「いい加減にしろよ?このスケベ探偵がぁああああああ!」

 ミライの心からの叫びが、防音機能も付いている事務所に響き渡った。

 何の躊躇いも無く人の目の前で着替える明智と、物陰に隠れて必死に素の自分に戻ろうと必死のマリー。階段から上ってきたのか、やけに遅かったキャプテンも合流し、会社一の色男を目の前にしても尚、恥じらう事なく着替えを続行する明智と、キャプテンの到着で更に慌てるマリー、まるで成人映画とドタバタコメディー映画が混在しているような異質な光景だ、マリーもそんなに恥ずかしがるなら明智の言う事を無視すればいいのに。

「明智…、僕なりの意見だが、女性というのはもっと恥じらいを持つべきなのでは?」

 ごもっともな意見が明智に向って、直球ど真ん中に投げられた。

「ふぅむ、君なりのジェンダー論かな?だがそれは些か古いな、それこそ100年前の考えだ、女性が男性の望み通りの女性らしさを見せる時代は21世紀で終わっているのさ」

「そうか、それはすまない、一般論だと思ったんだが、そうかそうでもないのか」

「こんな所で天然発動しなくていいよ、キャプテン。間違いなくキャプテンの意見が正しいからね、マリーの反応が正常」こんな露出狂が世間一般の認識にされるのも堪らない。

 そのマリーも人様の机の上で、営みを行うというこれまた倫理観0なのが少し頭を悩ませる所だが、マリーは明智命という所もあるのだし、仕方ないかもしれない。

「マリーの事は放っておいてくださぃ、もうお嫁さんにいけないよぉ」

 消え入るようだが可愛らしい声が、仕切りを隔てた壁の向こう側から聞こえた。いや会社でしないで家でしてろよと言うのが個人的な感想だが、そのマリーの見せた一瞬の隙を見逃さないのが、ここにいるスケベ探偵の嫌な所だ。

「そんな事はないさ、マリーは素敵なお姫様だ、いつ何時何があってもね、私が保証する」

「うわぁーん、明智さぁん、大好きぃー」

 まだ着替えの終わっていない両者が再び抱き合う、もういいやと言わんばかりにキャプテンは自らの仕事用具を持ち外へ向かい。ミライも、もう勝手にしてくれと言いたげにため息を残し事務所を後にした。仕事では頼りになる二人だが、日常ではこんな感じ、ここに酷い時はサチアも加わるのだから、もうこちらとしては手の施しようがない。

「続きは着替えてからやれよー」ただそれがミライの切なる願いだった。

 用具室に向い、サチアに今日は一人で何処の仕事に行くのか、少し気になってはいた。というか流石にアレだけ騒げばきっとサチアの耳にも入っているだろう思い少し、扉を開く手が重い。愛に狂う人間は多いらしい、だからこそあの三人が泥沼の三角関係に…、はならないな、何故だろうか?その事に関しては確固たる自信がった。そう思えば気が楽だと扉を開いたけれどそこは人気も無く、明かりも点いていない、もう既に仕事に行ったか?と考え、手癖で横にある電灯のボタンを押したその時だった。

「手を頭の後ろに組み、地面に伏せなさい。逆らえば空っぽな脳みそを撃ち抜く」

 酷く冷えた視線と、しもやけを起こしそうな声色で、頭に棒の先端に中央に穴が開いた筒状の何かを当てられる、言われた通りに、手を後ろに地面にミライは伏せようとする。

「あら?随分従順なのね?朝の威勢は見せかけだったのかしら?ちょっと拍子抜け」

「サチアが相手だろうと、誰が相手だろうとこの状況で逆らうのは馬鹿じゃないっ…っと」

 言い訳を言い終える前に、ミライは後ろにいるサチアの足を引っ掛け重心を崩す、転ばせてしまえばこちらのものだ、こちらに向けられていた何かを奪い取り、向きを変え今度は先程までのご主人様に向ける、勝負あり、どちらの勝ちだとしても勝負ありだ。

「私の勝ちと言う事でいいかしら?いくら武器を取り上げても私はミライを三回殺せた」

「そんな事言ったら、ここに入る前にこの部屋を爆破していたら、俺の勝ちだよ」

 自慢げに勝ちを張る胸も無い癖に胸を張るサチアに対し、ミライは露骨に不満げな表情を見せた、それよりも流石に銃の変わりにドライヤーは無理があったのではないだろうか?もう少しマシな何かなかったのかと言うのが今の感情。初めから脅しでも無く、訓練ですらない、ただの遊び心だったという訳だ。そもそも遊びじゃなくサチアが本気で殺しに来ていたとすれば、サチアの言葉に偽りは無く、ミライは三回殺されていただろう、脳天に一発、心臓を一突き、頚椎骨折のトリプルコンボのパーフェクトKOだろう。殺そうと思えば殺せた、それが満足だったのかサチアはルンルン気分で事務所に向かった。

「あ、サチア、今行ったら…」

 サチアが扉を開けると共に、サチアの怒声が聞こえる、それも行為対する叱責ではなく、何故私は混ぜないという怒りと言う形で、本当に今日誰も居なくて助かった。

「まだ終わっていなかったのか?流石に自分のデスクで仕事をしたいんだが…」

「ごめんねキャプテン、多分これから第二ラウンドが始まるよ」

「そうか…、もう暫くここで粘らせてもらうとするよ」改めて端末に目を落としたキャプテンを見てミライは小さく「身内もだけど班そのもの恥だね、あれは」そう呟いた。

「まったくだな」苦笑いを浮かべながら、キャプテンも納得し。端末に表示されている莫大な情報量を処理していく、その殆どが自身のパワードスーツの事だろうけど、とてもじゃあないが理解できるとは思えない、本当にどうしたらそこまで頭が良くなれるのやら。

「第二ラウンドが終わったら教えて―メンテしてくるー」

「わかったよ」決してこちらを向いたりはせず、第一は自分の作業。けれど優しい声色でキャプテンは了承してくれた。神は人に二物を与えないと言うが、こと天才に限っては二物も三物も与えている、不平等じゃないかと愚痴りたくなる気持ちをミライはぐっと抑え用具室に再び入る事にした。ていうか今日のサチアは仕事があるんじゃなかったのか、第二ラウンドを今から初めて仕事に間に合うのだろうか?否間に合わないだろう、けれどまぁいい、別にこの仕事に誇りを持っている訳ではない、要は汚れ役と言う事に変わりはない。清掃という業務に終わりはないのだ、結局は掃除したその人の独断と偏見による程度の問題だ、誰かにとってのこれくらいでいいや、誰かのこれじゃあダメだはイコールではない。きっとこの世界で幸せに生きるコツは妥協を覚える事、これに限る。


ご一読ありがとうございました。

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