第五話 嫌いな家族の為に女スパイは過去の幸せを復元する(Ⅵ)
もう少しでガンダムエアリアルの二期が入りますね、楽しみです。特にスレッタとミオリネの関係性が崩れるのか、破綻するのか、それでもと花婿と花嫁として居られれるのか、ミオリネがスレッタを突き放しても、最後にスレッタ達がミオリネを庇って死んで、ミオリネが更なる絶望に追い込まれるとしても、それはそれで楽しみですね。本当に。
『僕がお金を出すのはいいが、何がそんなにおかしいんだい?』
「いえ?キャプテン、貴方一回、私達以外と会話した方がいいわよ、きっとね」
キャプテンの返答を待たずに、通信を切断する。それはキャプテンに対し嫌味を言ったという自覚があるからでは無い、どちらかと言えば私の今の言葉は100%善意だ。けれどそれでも通信を切らざるを得ない状況と言うのは、どういう状況か?答えは単純だった、接敵その二文字で表す事ができる。
「貴方達が実行犯兼幹部では無さそうね、囮?時間稼ぎ?まぁどちらでもいいけれど…」
ナイフと銃を構え、静の状態から、一瞬で動の状態へと移る。マリーがよくやる動きを私になりに真似をして出来るようになった、そこに殺意を加えてやればいとも簡単に、動かぬ骸の完成という訳で。戦争に長期戦は存在するが、殺し合いに長期戦は存在しない、殺し合いは、殺し終わるまで生き残るか、殺されて終わり死に絶えるか、究極に行ってしまえばその二択だ。その間に挟まるのは、殺すまでの動作と、殺してからの動作、そして殺された時の動作だけ、その三つしか選択肢が無いのに長期戦など起こる筈がない、それこそ映画や漫画の超人達だけが、殺し合いを長期化させる、その資格を有するのだろう。
「貴方達の相手をしている程…暇じゃないの」
サチアが賊の群れを通り過ぎたという事は、サチアが生き残った事を意味し、賊が死した事を意味する。あっけないという言葉はこういうタイミングで使うのだろう、けれどそれを使う時間を許してくる程、賊も暇を与える気は無いらしい。きっと爆心地に賊の本丸が居る、それを結論付けるには十分な賊配置だった。
改変すら必要ない雑兵、取るに足らない相手こんなものでも集まればマリーを殺せるらしい、この程度の練度でマリーを殺せるというのならば、マリーはもっと早くに死んでいるに違いない、だからこそ腹が立つ。
「殺す気も無いのならば、そもそも前に立たないでくれる?邪魔なのだけれど」
私を誘っているのか、それとも本当にあのゲームで予想以上に戦力が散っていったのか、私としては後者であって欲しい、とっととこのテロリストを壊滅させて、ゆっくり暮らしたい、それは許されないというのは分かっているけれど、自嘲気味に私の為に用意された道を歩む、だってそうでしょう?ミライの様に未来が解る訳ではないけれど、きっとこれは罠なのだろう、私を呼んでいるかは知る由もないが。
立ちはだかる賊の姿は見つからず、けれどサチアは確かに爆心地の中心へと誘導される、来る賊を拒まず、逃げる賊は許さない。世界を敵に回した馬鹿なのだから、それ位の覚悟があって、サチアという死神を通し自らの死を切望しているのか、それとも最初に語った通り世界に復讐するべく世界の味方をするサチアに一矢報いようとしているのか、どうにもそれが目的にはやはり思えない、賊の目的が一向に見えてこない。けれどそんな事を考えるのもこれでお終い、爆心地の中心には人が居た。
「マリー?」
間違えてしまう程に第一印象は似ていた、幸薄そうな顔をしていて、白髪で、どこまで言っても人生には絶望しかないと考えていそうな雰囲気。話してみればマリーは人生に希望しか抱いていなかったし、そもそもよく見ると賊の正体は男性だった。だからこそ私は問う、貴方は誰かしら?と。
「貴方が私を、態々招待してくれた、ご本人という事でいいのかしら?折角ラブレターを渡してくれたんだったら、名前くらいは覚えておいてあげるわよ?」
「嬉しいねぇ、そのお熱い目、誰と間違えたのかな?泥棒猫さん」
その名前を呼ばれるのは心外だ、第一私は何も奪っていないし、そもそもその名前をマリー以外から言われるのは、心底腹が立つ。それこそ持っている銃のトリガーが軽くなってしまう程には、その言葉を見ず知らずのお前に呼ばれる程軽いモノでは。
「ないのよ!」
銃声が響き、心臓を二発の銃弾が貫く。確実に普通の人間ならば死んでいる、貫通だってしたはずだ、けれど相手の男はピンピンしている。
「そんなに血相を変えて、銃を撃つなんてどうしたんだ?」
それどころかサチアが喀血してしまう、意識が遠のき胸に違和感が湧く、胸に穴でも開いているような感覚に陥るが、胸を触っても決して穴が開いている訳ではない。けれど口から溢れ出る血は止まらない、ダメだ。一度過去を変えよう、もう一度確認する為に。
銃は撃たずに、一度気になる事を解消しようと思う、コイツがどこでその呼び名を知ったのか、それを知れればコイツに思い残す事は無い。
「どうして、その呼び名を知っているのかしら?私何も盗んでいないのだけれど?」
「そりゃ、ずっと言っていたよ?『帰らなきゃ…泥棒猫と約束したから』って足も腕も無いようなモノなのに、地べたを張って行っていやぁ醜かったねーゴキブリみたいでサ」
「あぁそう、それだけ聞ければ満足、じゃあ死んでくれる?」
今度は確実に脳天を狙い、銃弾を発射する。即死であるのならば何かをする暇もないであろうと予測しての行動だったのだが、これでもダメなようだ私の脳が崩れる感覚が残り、私の体は力なく前に崩れる、連続で使うと後が怖いというのに。では過去を改変しよう。
脳内にグチャグチャとした感覚が残り、吐き気がする。死んだという記憶が残るというのは嫌な事だ、初めての経験ではないけれど、脳をああも壊されるのは初めてだった。
サチアは考察する、相手の手品の種を見破る為に、けれど情報が足りない相手を行動させていないのだから、当然かもしれない。だから今度は殺さない程度に、殺す。
「ねぇお前の名前を聞いていないのだけれど、死ぬ前に教えてくれないかしら?」
「僕の名前かい?嬉しいねぇ同類にそんなに興味を持ってもらえるなんて、僕の名前は…」
即座に接近し、四肢の関節を斬り裂く、失血死させない程度に痛めつければ、口を割るだろうか?そう簡単に行く気がしない、何より私がお前の代わりに死んだ理由がわかっていない、死を肩代わりさせる能力か、受けた攻撃を反射させる能力か、その二択だとは思うのだが、果たしてどうなる事やら死ぬのは余り好きではない、誰だってそうか。
「あぁー、まだ名前も言っていないのに、どうしてそういう風に攻撃的になるかなぁ?」
ダルマになったのは私、スーツの下からは血が滲んでいないというのに、恐らく相手を刺した場所と同じ所が内部でスッパリ斬れている。賊は立ち上がる事ができずただ地面に伏せる事しかできない、私の背中に乗りながらこう言い放つ。
「僕達は同類だって話言ったでしょ?同じ様に人体実験によって、特殊な力に目覚めた、新たな新人類なのに、世の中からは迫害され隔離され、そんな人間は居ないように扱われる、それっておかしい事だと思わない?」
「少なくてもお前の様な人間が居るから、迫害され隔離されるのよ、それもわからない低能だからこんな無謀なテロを起こしたのかしら?それと女性を尻に敷くなって教わらなかったかしら?重いのだけれど」
「はぁ…自分の状況もわからない人が、僕と同じ様な新人間とは残念だよ、冥土の土産に名前は教える、プラント…名前だけでも憶えて死んでね?きっと地獄で良く聞く名前になるだろうから」プラントと名乗る人物は、サチアの喉笛に先ほどまで私が使っていた刃物を宛がう、人の物を使う時は了承くらい取ったらどうなのかとも言いたくなったが、私はこの言葉をプラントと名乗る人物に送ろうと思う、決して嘘ではないこの言葉を。
「さっき、会いましょう?プラントさん?」意味も解らないお前の顔を見るのは痛快だ。
喉元をざっくり切られ、血が大量に溢れる死ぬ感覚というのは、どうにも慣れない、慣れてしまっては、きっと死んでいるのと一緒だろう。過去を改変しよう。
喉元を確認するが、斬られていない、先ほどよりも若干離れているのは、動けなくなるという事を改変したからこその判断だろう。けれど死ぬ感覚という雑念を払い、再度攻撃を仕掛ける、今度は急所を狙わない、擦り傷の様な傷でもない傷を残す。
「どうしたのかしら?反撃しないの、プラントさん?」
「どうして僕の名前を、君が知っているのかな?僕は口を滑らせたかな?」
動きに若干の動揺が入り、思ったよりも深い傷がプラントに入る。
「えぇアンタは口を滑らせたのよ、自分の事を新人類なんて言ったりして、笑わずにいる事で必死だったわよ…っと」
サチアは擦り傷を作る作戦を切り替え、一度ナイフを突き立て腹部を刺突する、内臓を壊す勢いを持ったまま連続で、放っておけば失血死するだろうという致命傷を負わせる。
けれどプラントは全く気にも留めず、逆に私の腹部や手足に痛みが走る、これで確証がいったプラントの能力は自らの傷を他人に移す能力であるという確証を手に入れた。その対象を選ぶのがプラント本人だとしても、私を選択するという事を私が過去を改変して変えてしまえばいい、後は能力の射程があるのかどうかの問題だが、それは今から確かめていくとしよう。だから私は過去を改変した、自らの望む今を手に入れる為に。
何度もプラントを殺す、プラントは私を選択して、受けたダメージを私に与える、ならば私は私以外の誰かにそのダメージの移し替えが行くように過去を改変する。そしてプラントが移し替えの対象として選択できるのは、精々が100mという事も殺していく内に解っていった。
「そろそろ、降参してくれないかしら?私の良心も長くは持たないのよ?プラントさん?」
「人を何十回と殺してよく言うね、自分に攻撃が移っていないという事がどういう意味か、理解しているのかぁ?」サチアはニヤっと笑う、それは恐らく腹黒い笑みだった。
「えぇ理解しているわよ?私が殺したら、貴様は私以外の誰かに自身の傷を移し替える、瞬間的な臓器移植とでも言った方がいいかしら?故に私が貴様を殺せば殺すほど、罪の無い人間も死ぬという事でしょう?」
「それを理解して尚、僕を殺せるのは…さては君、世界の味方じゃないね?」
今更気づいたのかと、サチアは呆れる。だってプラントが自ら思っていた事ではないかと、自分達を迫害する人間の味方なんてする訳がないって。えぇそう、プラントと私達は完全な同類と自分で言っておきながら、それを気づいていないなんて、本当に呆れかえる。
「私はね…レニの未来の為に戦っているのよ、だからレニに傷がつくかも知れない事をしている、貴様達を殺したくて、殺したくて、堪らないのよ…だから死んで頂戴な」
『なら彼は私が貰っていきますね?』何処からともなく聞こえた何重にも重なった様な声を聞きサチアは振り返った、けれどそこには誰も居らず、前を見るとローブの女性?が立っていた、その手には片目を抉られたミライを抱えて。
「何をしているのかしら?今すぐ離さないと」殺意をローブの女に向けて放つ。
「言っていたじゃないですか?レニちゃんの未来以外は要らないんですよね?」
レニちゃん…そう呼ぶのは限られただけ人だけだというのに、なんでこの女はその呼び名を知っている?プラントと同じ経由か、それとも情報がどこかから流れているか、それはどうでも良い本当にどうでも良い、ミライを傷つけたこの女を私は…。
「殺す!」サチアの出せる限界の出力を出しミライを傷つけないように、女に向ってナイフで斬りつける、喉元裂くでも心臓を抉るでも、方法は問わない。そしてその攻撃は確かに命中したはずだった。けれどナイフは女には届かない。
「怖いですねー、そこまで返して欲しかったら、返しますよ?ほらちゃんと受け取ってください、落とさないでくださいね?」女は簡単にミライを手渡す。
「お楽しみの所申し訳ないですが、プラント少し話があります、よろしいですか?」
賊が仲間内で他の事をしてくれる、内容が気にならない訳では無いが、ここは一旦戦略的撤退を図らせてもらう。
「キャプテン?キャプテン?応答して、大至急なによりも優先して私の元に来て!」キャプテンに無線を送る、ミライの目が無くなるのは避けたい、だってミライの能力は目を通して発動するモノだからこそ、ミライには新しい目が必要だった、その為ならば私は。
「どうした、何があった?っこれは!?」キャプテンは息を詰まらせた。
「キャプテン、貴方なら今ここで眼球を取れるわよね?」それ位の装備は付いているという希望的観測を持ってキャプテンに問う。
「流石に無理だ、そんなオプションは付けていない!それに一体誰の眼球を…」
付いていなかった、けれどミライは普通の人間とは違う、ただの人間の目がミライに適合するとは思えなかった、プラントが言った新人類という言葉を信じる訳ではないが、同族でしかミライの現状を変える事はできないという、確証もない推測がサチアの中にはある。戦線を放棄するか?それ以外の選択肢が思い浮かばない、ミライという人間が居なくては今日も勝てるかがわからない、だったら無茶かもしれないけれど、試した事もないけれど、愚行かもしれないけれど、サチアと言う人間がどうなるかわからないけれど、行う価値はある作戦が一つだけ、サチアの脳裏に浮かぶ。
「キャプテン、何か月前に着手すれば、今日この日スーツにそのオプションを付けられる?」
「どういう意味だ?そんなたらればを…」私の能力を明かしていないキャプテンには意味不明かもしれないけれど、今は時間が惜しい「いいから答えて!」サチアは強く言う。
「3ヶ月もあれば、今回の事件には間に合うと思うが…なぁサチアこれは一体?」
キャプテンの問に答えている時間は無い、精神を集中させる。半日という期間限定の過去改変、けれど今は以前ミライが過去に言った事を試すいい機会だ「なんで俺はずっと先まで見られるのに、サチアは半日だけなんだ?」ずっとミライが後に出来た実験の完成品だからと思っていたけれど多分違う、私が私じゃなくなるのが怖いから半日という制限を私が勝手に作ったんだ、ミライと私のデメリットは真逆だから、それを知っていたからこそ私は私で居なくなるのが怖かった。けれど私は3ヶ月の過去を改変する、改変できる。
頭痛がする、気持ちが悪い、けれど意識ははっきりとしていて見えるのは、硝煙に塗れた空だ、この感覚…過去改変は成功したのだろうか?それを確かめるのは、自分自身だ。
「リーダー、眼球の摘出は出来る?」サチアはリーダーに問うと、キャプテンは頷く。
「?…一体誰の目を使うんだい?そんな都合よく拒絶反応を起こさないドナーなんて…」
「サチアの目を繰り抜けばいいのよ、出来るでしょ?」サチアは何の躊躇いも無く、リーダーに提案する、私の能力は目に起因するのもではないからこそ、眼球の一つ位は捨てる事ができる、だってそれがあの子の未来になるのだから。
「本当に覚悟は出来ているんだな?というかサチア、今自分の事なんて言った?」
「自分の事?サチアだけれど?そんな事はどうでもいいの、とっととやって頂戴!」
サチアは横になり、全てを受け入れる態勢でリーダーを待つ、リーダーも現状の緊急性を理解したのか、サチアの目にスーツから出た機械を宛がう、起きたまま目を抉られるというのは初めての経験という事もあって、心臓が跳ね上がる。けれども最新の医療技術様様と言うべきか、施術は簡単に終わってしまった。右目の中がスカスカという感覚と痛みが残るという事以外は大して、影響のない事であっけなくサチアは感じてしまう。
「それじゃあ、リーダー後は任せたわよ」リーダーに抱きかかえられる、アイツの手に触れ、私の最後の望みを託す様にアイツの手をサチアの頬に当てて、サチアは口に出す。
「今は変えたわよ、だから未来は任せるわね」それがサチアの願いだから。
急ぎ爆心地のプラなんとかが居た場所に戻る、そこにまだローブの奴もいるのならば、ついでで殺す、居ないのならば居ないで賊を殺す、サチアにできるのはそれだけだから。
「ローブは居ないみたいね…それじゃあ殺すわね?」
「あー、最悪な事を言っていきやがったアイツ、変えてやるよそんな未来は!」
未来?何を言っているのかがわからない、アイツの様にローブは未来に関する能力を持っているのか、それともそうなる可能性が高い事を伝えたのか、そいつは都合が良い、お前が変えたい未来という事は、サチアはお前を殺す事ができるのだから。けれどただ殺すだけじゃツマラナイ、だから彼女に伝えられるかはわからないけれど、一つ試してみたい事が今のサチアにはある。
「ねぇお前っていつから、実験動物だったのかしら?ただ殺すのもアレだし、知っておきたいのよ、教えてくれる?ねぇ…いいでしょう?」
「よく殺そうとする相手に悪びれも無く、そういう事が聞けるな、2年前だよ、2年前の中国。そっちはどうなんだよ?」サチアの事が気になる?残念だけどサチアには大好きなあの人が居るから。その気持ちは受け取れないの、ごめんなさいね?と謝る前に過去を改変した、3ヶ月の次は2年間もうサチアが保てていない事はわかっていた、サチアがサチアで無くなっているという事は分かっているから。せめてもう少しだけ情報を集めよう、サチアがサチアで無くなっても、きっとまだ戦えるから。誰かに恥じない為に…。
「ねぇ、昔一緒の実験施設だった好で教えてくれないかしら?貴方達のリーダーは…誰?」
「あー、誰かと思ったらサチアか、本当は教えるのはダメなんだけど、まぁサチアならいいか、俺達のリーダーはツクロだよ、そうだそれよりもサチア俺と一緒に…世界を……」
貴方と2年前一緒にモルモットをやっていたという過去に改変した、死がもっとも近い場所で築く事になった友情の前では、きっと主犯の名前も簡単に語ってくれる。だからサチアはもう一度過去を改変する、元の世界に戻るように過去を元に戻す。
誰かに近づく、名前も知らない誰かに、近づいた。
一歩歩む度に私は髪を切る、これは私だったモノじゃない。
一歩歩む度に私の体を斬り刻む、これは私の体じゃないから。
歩みを進める度に眼球を、耳を、臓器を、私を形成するニセモノを私は自ら壊す。こんなのは私じゃない、私じゃない、私じゃない、私じゃない、私じゃない、私じゃない、私じゃない、私じゃない、私じゃない、私じゃない、私じゃない、私じゃない、私じゃない。
じゃあ私は誰なのだろう、心臓を貫いた時、私の命は終りの砂時計が下を向き、砂が零れ始めた、残されたタイムリミットは何秒だろう、周りに人は何人だろう?
誰かの心臓も貫いた、だって交換できるパーツがなければ誰かはただの人だから。
私じゃない私は願う、私だったはずの人が願っていた事を、私ではない私が叶える。
私じゃない私が願う、私が欲しかった唯一の望みを、私が叶える事が私の幸せだから。
大好きな誰かと南国で、白いドレスを互いに来て、砂浜を歩く、たったそれだけの夢を私は私に見せた。
大好きな誰か、大好きな誰か、大好きな誰か、名前も覚えてない、見た目も覚えていない、顔にモザイクがかかった様に大好きな誰かの顔は見られない。けれど私だった筈の私は、大好きな誰かを最後まで大好きだった事を忘れる事は無い。
大好きな誰かとの一緒の夢は最高に幸せだった、現実出来るものなら現実にしたい程に幸せな夢だった、夢を現実にする術は持っている筈なのに、私は夢を夢だと認識してしまえた。私が作った夢だから、この夢から目を覚ます、眠くて開きにくい眼を開けて現実に戻ろう。それが正しい筈だ、それを現実に選べる私は、もしかしたら狂ってしまっているのかもしれないけれど、私だった私が作ろうとした未来に私は要らないのだから。
私は目を覚ます、知らない天井で目を覚ます。もう私は私だった私ですらないけれど、アイツが道標に向かう為だけの光になる為にこういう未来になる様な今に賭けた。それならきっと最初の私も本望だ、あの子の為に未来を紡ぐはずのアイツの光になれたのだから。
意識が遠のく、私が終わりを迎える、結末がこれでも…、約束を違えたこの結末でも、もしかしたら私が大好きだった貴女は私を許してくれるかしら?許してくれるといいな…。
ここまで読んで頂きありがとうございました。これで第五話は日記を残して終わりです。




