第三話 何処にでもいる、取り換えの利く探偵(Ⅲ)
小説ってなんで、思っている事と書いている事なんか違うなぁーってなってしまうのでしょうか?もっと練習すればマシになるのでしょうか?そもそも僕は起承転結ができているのでしょうか?それだけが私、気になります!マジで…
血だらけの死体の下にある、万が一が無いように防水処理された端末を拾い上げる、認証はされておらず、私が触った瞬間に端末は起動し、電話のコールがかかってくり。
『やぁ初めまして、特異点』機械を何重にも通した音声が、端末越しに聞こえる。
「やぁ初めまして、私が贔屓にしていた26人は処理済みかな?」
『えぇ、それはもう、まるでABC殺人事件ならぬABC偽装事件の全貌を暴いた時は、私もその目を疑いました』小馬鹿にしたよう電話の主は答える。
「短く済まそう、貴様は誰だ?何故私を標的にした?そして何が目的だ?」
『そこは探偵らしく推理してくださいよ、でもヒントは必要か…私は一介の学者にして、貴方のファンです、目的はそうですね…貴方が認知される世界を作るとかはどうでしょう?それと世界への挑戦状でもあります、貴方を一番理解しているのは私だと、断言するための』鼻で笑いたくもなる、答えが返ってきた、私を理解か…。それは…きっと。
「学者か、せめてサーカス団員か、怪盗であって欲しかった、それじゃあまるで…いやなんでもない、私は逃げも隠れもしないよ、さぁ貴様はどうする?他の寄生虫も殺すか?」
『……、いえ、私も殺しをしたい訳ではないので、1週間後指定された座標に来てください、私の要求はそれだけです』学者は座標を示したメールを送る、簡潔な愛の告白も無く。
「それじゃあ一週間後、私を一番理解していると自負する君を…、いや何でもない」
『…?…、えぇ、一週間後』電話は切れる、誰かもわからぬ死体と私だけが取り残される、全く酷い状況だ。仲間達に手を出される心配はないとは言え、厄介な事に変わりない。
私が神様なら、絶対に私を創らないのに、目の前の死体を前にしても思うのはそれだけ。
本社に何があったか報告をし、事後処理を任せる。世界から最も優秀とされる26人の科学者、研究者、学者が姿を消した、人類にとっての大損害であり、世界の発展はかなりの遅れを取るだろう。まぁ未来の技術を少し先取りした時代だったと考えればこの停滞も大して困る事ではない、少し位成長の無い世界も味わうべきだ、昔を思い出して…ね。
そんな事を考えながら明智は今この国で最も業の深い場所、臭いモノには蓋をするように隠し、来る者は拒まず、去ろうとする者は許さない、この国唯一の治外法権であり、アリジゴクと呼んで差支えの無いゴミだめに来ている。決してこの世界から逃げたくなったからここに足を運んだわけではない、ただ愛する人と、友人の家にお邪魔するだけ。決して家族が居る中で行う背徳感を抱きながら行う行為をやろうとしに来たわけではない。もう一度言う、決して明智と言う存在は愛する人の家族が見ているかもしれないという背徳感を抱きながら行為をしようと、彼女らの家にお邪魔する訳ではない。
「何考えているか、丸解りだぞ?明智」ミライがジト目でこちらを見つめていた。
「何を言うか!私には決してやましい気持ちなどありはしないよ、ただ純粋にサチアが自宅だとどのような生活が気になってたり、家族にバレるかもしれないという背徳感を……」
余りに煩悩にまみれていたので、私は盛大に口を滑らせた。いや本当にやるつもりはなかったのだ、本当に。興味が無いと言えば嘘になるし、彼女でそんな事を考えた事はないと言えば不誠実になってしまう。だからこそ私は、少々人に誇れる程の脳をフル活用する、どうすればここから完璧な言い訳を思いつくかの勝負だ、ミライが次の言葉を出すまでにかかる時間は1秒弱と言った所。その0・5秒で考えろ!私の脳よ!
「やるのは勝手だけど、その姿をレニに見せたらサチア共々、家の外に弾きだすからな?」
「はい…」明智という天才の脳を以てしても、ここから挽回できる様な言い訳は思いつく事がなかった、だからこそ私は口にする。「邪な事を考えて申し訳ございません」
「それでよろしい」満足気にミライは頷いて見せた。
「こういってはあれなんだが、何故私は君と帰路を共にしているんだ?どうせならばサチアと帰りたかったのだが」
「昨日サチアが誰かさんの家に泊まりに行ったから」
無言の圧を感じるのは、私だけだろうか?家族に向ける感情にしては、大きすぎないだろうか?いや私が家族という物に疎いだけで、大体の家族はこのような関係なのかもしれない、そもそもミライは泊まりに行った事より、違う事に怒りを向けている様にも思える。
「まさかとは思うが、私はこれから拷問されるのかい?」
「する訳ないだろ、何を言ってるんだ?」
よかったと明智は心から思う、しかし長いオートウォークの上では、ミライとの会話も長続きしない、私は未だに彼がどのような事を考えていて、どんな目的があるのかが分かっていない。サチアの事ならなんでもわかると豪語するつもりも無いが、それでもサチアとは肉体関係もだが様々な交友を持って、会話をしてきたつもりだ。私がそういう気を持たないキャップですら交友という物は築けた、けれどミライとは同僚という枠組みから決して出る事はない。私ができないのでは無く、彼が拒んでいるという気もする。
そんな事を考えながら動く床から、上へ上がる板に足場を移した、私も初めて入る事になるゴミだめだ、好奇心7割色々な意味でのドキドキ感が3割と言った所か、こういう場所にはアングラな店が多いと相場が決まっている、決してそういう人間が集まりやすいからでは無く、そういう商売をしなくては生きる為の資金を得る事ができないからだ。わかりやすく例えるならばスラムが近いだろうか?
上りきったエスカレーターから、己の足で歩みを進める、そして少し重めの扉、きっと彼とサチアしか開ける事ができない扉を彼は開けた。出た先の第一印象は、とてもじゃないがゴミだめとは思えない、綺麗なエントランスに出て受け付けには、確かモルと言ったか、私達5課のオペレーターの様な役割を果たしてくれている人間だったはずだ、印象としてはまず顔がいい、体形もいい、こちらを睨んでいる様にすら見える鋭い瞳もそうだし、サチアとはまた違う綺麗なストレートの黒髪、これ程の美少女を見て私は情けない事に何も思う事が無かった。美少女である事は確かだ、けれど狙い過ぎているといえばいいのか、いや違う言葉がある筈だ、それを上手く言語化できない。
「モル、もう退勤の時間じゃないのか?」ミライは彼女に話しかける。
「はい、そうだったんですけれど、ミライさんを待っていました、前渡した本の感想も聞きたかったですし…、大変な事も起きてしまいましたが…」
「あぁ…、親指姫だっけ、感想はそうだな…俺としては運命的な出会いより、運命的な別れの方が好みかな?でもまぁ童話も面白いんだなって再認識できたよ」
「それは良かったです、次はご期待に沿える物を用意しますね、それとそちらは…、彼女さんですか?」モルという美少女が瞳をこちらに向ける、けれど私の心はときめかない。
「それは違うよ、モル君。私はサチアの愛人?恋人?セ…っ」
言葉を口に出しかけた所で、ミライの左手が私の右耳を掴む。口を慎めという事だろう。
「まぁ何より、安心したまえよ、私は…モル、君の邪魔はしないさ」
「明智何言ってんの?」ミライの返答に私は納得する、これは君の手に余る問題だな。
「それよりもだ、モル。君も本を読むんだね、それに親指姫か、アンデルセン好きかい?」
「いえ、そういう訳ではないんですけど、童話は特に好きです、幸せな物語が多いので…」
童話が幸せな物語か…、確かにそれも多いかもしれないが、どちらかというと残虐な一面を表している方が多い気もする。まぁこれも朝語ったように個人の裁量か…。
「まぁ、ミライに私が勧めるとしたら戯曲ロミオとジュリエットかな、あれ程の喜劇はそうそうない、時間がある時に媒体はなんでもいいから見て見るといい」
「えぇー、めんどくさい、モルにはお世話になってるけど、明智には別に恩は無いし…」
こやつは人の厚意を無下にする朴念仁だった。何にしてもここはモル君に…?
「明智さんには、ロミオとジュリエットが喜劇に見えるんですね、私はあれを喜劇には思えません、どちらかといえば悲劇ではないでしょうか?」モル君の言いたい事も解るが…。
「まぁ君の意見も否定はしないが、あの結末は喜劇だと思うがね、ロミオを信じ、毒を飲みジュリエットは仮死自殺を試みて、それを知ったロミオは毒を飲んで後を追い、その可能性も考えずに試みたジュリエットはロミオの短剣で生涯を終らせる、喜劇だろ、なぁ?」
「まぁ確かにそれの可能性も考えなかった、ジュリエットは浅はかだね。まぁそれまでの経緯を知らないからそれ以上の事は言えないけど」やはりミライ好みだろう?
「ミライさんがそういうなら、そうなのかもしれません…」
「おいおい、そう簡単に自分の意見を、他人の意見で曲げるべきじゃないよ、反論した私も私だが、君の意見も大変貴重な意見と言う事を忘れてはいけない。それが…例え、いやこれは君がいや…、ミライが気づくべき事か…、まぁ頑張りたまえ、二重の意味でね」
「それもそうですね、頑張ります…しっかりと理解して貰える様に…」モルはこちらに向って微笑みながら、返答をする。少し先ほど言語化できなかったものが分かったかもしれない、彼女は不釣り合いなのだ、この職場に居る事も、この場所に居る事も、そして私達と対等に話そうとするのも、全てが違和感を持つには十分な要素だ、彼女に闇が無いとは言っていないが、そういうものからは縁遠い人間が居るとしたら、彼女の事を差すと思う。
「外はもう真っ暗です、また明日このフロントでお待ちしていますね、お休みなさい。ミライさん、明智さん」この場に不釣り合いな少女は、この世界の闇に消えていった。
そう言ってモル君は職場を後にする。ならば私達もこの場に居る意味はない、早速向かおうとしようか、サチアが育った家というの物を、この目で見たい。彼女がどう生き、どう育ったのかを、どれだけ大変だったのかを、この脳があれば推測はできるだろう。
「そういえば、明智はどこで寝るんだ?布団は3人分しかないぞ?」
「そうだな、私はサチアと抱き合って寝る事にするよ」無言の圧力を感じるが、まぁ最悪の場合私一人夜通し起きるのも別に問題は無い、できれば睡眠はとりたいが。
「嘘だよ、枕の一つでもくれれば、押し入れでもどこでも寝るさ」
会話はそれで終わる、明智は辺りを見渡す、先ほどの内装が嘘の様に、辺りは廃墟と、ゴミの巣窟であった、これが生ごみや衛生ゴミでなくて本当に良かったと心から思う、人気が無い訳ではないが、確実に人数は少ない、このメインストリートを離れる様に暮らしているのかもしれないが、それにしても静かな場所だ。不気味なほどに。そして一度送られた地図アプリを開き、学者から送られてきた座標をうち込む、そしてやっぱりというべきか、何故ここをというべきか送られてきた座標はこのゴミだめの端を差していた。
「明智着いたよ。ここが俺達の家」
「ここが、君達が育った家か、なんというかどこもそうだが廃墟だな」失礼な事を言っている自覚はある、けれどこの今にも崩れそうなアパートだっただろう廃墟を廃墟以外の言葉で例える事はできない。きっと解体寸前のビルの方がまだ住み心地がいいだろう。
「実際廃墟だよ、一室だけまともに使える場所があったから、使ってるだけだし」
「まぁ家の形はどうだっていいんだ、早く部屋に案内してくれたまえよ」
少し階段を上り、少し先を進んだ手前から二部屋、それがサチア達が住む部屋だ、部屋の中は外観からは想像できない程古さは隠せないが、しかし汚いとは言えないよう、よく手入れが行き届いた部屋だ、そして玄関から入った私を歓迎したのは、サチアでも後ろに居るミライでもなく、一人の小さな天使が私に抱き着く、トタトタと足音を鳴らしながら。
「いらっしゃいませー、我が家へようこそー」
興奮により、心拍数が増加する、決して根拠は無いが興奮によって鼻血がでるかもしれないと思ったのは初めての経験で、故にこう例えるのが正しい判断だろう「天使だ」と。
「私の妹を邪な目で見ないでくれる?」サチアの声トーンが一つ落ちる。
「外出るか?」ミライが扉を開けたまま、普段見せる事もない笑顔で外に指を差す。
「わ、私は決して、彼女を邪な目では見ていない!事実無根だ!」
明智の切実な弁論は天使の心に響いたのか、サチアとミライの妹、レニ君と言ったか、彼女は私の手を引き、部屋の中央にあるテーブルの前に案内した、やはり彼女は天使だったのだ、正直者の言葉を聞き入れ、悪の言葉に耳を貸さない正に天使の名が相応しい。
「えーっと、明智さん!」彼女は緊張しているのか、大きな声で私の名前を呼ぶ。
「なんだい?レニ君」だからこそ私はその緊張を和らげるために、優しく言葉を返す。
「あ、明智さんは天才だとお聞きしました!わ、私に勉強を、お、教えてください!」
精一杯の勇気を振り絞った彼女のお願いは実に可愛らしいもので、それでいてどこまでいっても真面目な物だったこの場所にいて暗い方向へ思考が向かうのではなく、未来へ、幸福を掴む為に彼女は行動しているのだ。それはどれだけ美しい事か明智は理解できる、だからではないが、彼女の想いを、理想を、願いに近づける手伝いを私はしたいと思う。
「あぁ、構わないよ、私から何を学びたいんだい?知っている事なら全て教えるよ」
その言葉を聞いた彼女の顔は何処までも、純粋で美しかった。そうしてお泊り会と称したレニ君の為の勉強会は夜も更けていく、彼女の睡魔が限界を迎えた時、この楽しい時間は終わりをつげるのだ。それは悲しい事ではないが、もう終わってしまったのかという虚無感を胸に抱えて、私は楽しかった今日を終わらせる為に寝床に付く。
ここまで読んで頂きありがとうございました。