第三話 何処にでもいる、取り換えの利く探偵(Ⅱ)
書いていて思ったんですけれど、私の小説でクッソ下手くそな部分が少しわかった気がして、恐らく私の小説、状況描写が少ないと感じました、まぁ文法とかそれ以前の問題の方が多い気もしますが、それは僕のゴミの様な学が生んだ、生ゴミか衛生ゴミのハーモニーを、一般ごみのハーモニー位まで引き上げる事が今の目標です。もし状況描写のアドバイスとかありましたら教えていただけるとありがたいです。勿論ここがクソというアドバイスもありがたいです。
着替えを終えて、自宅を後にし、徒歩5分もしない所にある本社へ向かう、服装はいつも通りの私服。語る事があるとするならば女性ものよりは男性ものといった服装を明智は身に纏い、本社に出社した。
「それにしても、あの一件以来君達はスーツにハマったのかい?」
日本と世界を震撼させ、幾つもの人の命が失われたここ数十年で最も大きなテロ行為の序章、首相暗殺未遂と無差別市民虐殺。その事件にSPとして同伴したミライとサチアはあれ以来ずっとスーツを着ている、それもかなり上等な物。彼女らが自分の服にお金を使うとは到底考えられないのだが、なぜこんな上等な物を?
「あぁ、これね、首相からの感謝の印らしいわ」サチアは欠伸をしながら、問に答える。
「感謝の印がスーツとは、案外ケチなんだな、首相様は」
明智は失礼な態度を取る彼女らと首相の会話を想像した、サチアとミライには一つの共通点がある、それは欲に乏しい事だ。何故かまではわからないが、彼女らは人よりも欲という物を持っていない、サチアの方がまだ欲は残っているともとれるが、ミライに関しては殆ど無いと言っても過言ではないだろう、彼女らの欲がない事を証明する最たる例がお金だ、彼女らはお金を殆どと言っていい程使わない、使うのはいつも他人の為、自らの為に使っている所など、少なくても私は見た事がない。だからこそ彼女らは首相相手にも特に要らないですと突き通したのだと、私は推測したが。現実は少し違ったようだ。
「レニ、妹を外で暮らせるようにしてくださいって、お願いしたのだけれどね『努力はする、だが戸籍も無い者に特例を作るのは些か難しい』って言われたわ、じゃあ努力してくださいとお願いしたら、スーツをくれたの」実にサチアらしい答えだった。
「成程、君達にはそれがあったか、これは観察不足だったな」
「人を観察対象にしないで頂戴、っと」サチアは私に向ってコツンと頭を小突く。
「好きな人間を観察するのは、人間にとってごく自然の摂理だと思うのだが?」
「そうかもしれないけど、人に観察されるっていうのは、私あまり好きじゃないの、それじゃあね」サチアはそれだけ言い残し先に誰かが乗ったエレベーターに駆け込みそのまま5階にまで上って行ってしまった。
「怒らせてしまったかな?まぁいいか、いつも通りの彼女である事には、変わりない」
キャップの様に階段は使わず、エレベーターが再び1階に来る事待ちながら私はサチアを想う。いつもの様に自由気ままでありながら、厳格で、少し抜けてるそんな彼女を私は愛しているのだ、こんな事でめげる私ではないし、そもそもそんな事でめげていたら態々探偵になろうなんて、とてもじゃないが思わなかっただろう。
別に探偵が向いているから探偵になった訳ではない、明智と言う苗字だったから探偵になろうと思っただけだ、渋沢だったら私は多くの会社を設立し経済の根幹に居ただろうし、坂本だったら現代日本を改革しようとしたかもしれない、それこそ織田であれば私はこの国を統一しようとすら考えていたかもしれない、名は体を表すという言葉がある様に、明智と言う苗字だったからこそ私は、探偵になっただけの事。そんな事で己の人生を決められる程、私の人生も人格も果ては思想に至っても、私と言う存在はどうしようもなく薄っぺらい。そんな人間である私の代えを寄越さない、世界に今日も嫌気が差し地面を蹴る。
本当に薄っぺらい事で私は悩んでいる。思春期であれば自分とはと考える事もおかしくはないだろう、けれどもう大学を卒業している年齢でこんな事を考えている、私はどうしようもなく愚かで、そして幸福なのだろう、だからこそ床を蹴る程度で嫌気を発散できる。
くだらない事を考えながら待っていたエレベーターに乗り込み、確かな足取りで事務所へと歩みを進める、結局裏切り者のリアルと言う青年の事は推理が完了する前に、サチアとマリーに静止され、その証拠となる筈だったリアルという個体もキャップが派手に吹き飛ばし、もうどれが彼だったのかなんてわからない程の肉片に変貌していた。証拠を殺すのはまだ理解できる、けれど判別もつかない程に消し飛ばすなんて事は、証拠隠滅と捉えられても文句は言えまい。けれどその行為で彼なりの過去への決別がついたのか、彼はいつもより、いや、いつも以上に皆のキャップと言う存在でいる、前よりもごく自然に。
事務所へ向かおうとしている今、階段からキャップが現れる、態々ご足労なによりだ。
「良い顔をするようになったじゃないか、キャップ」思った事を私はそのまま伝える。
「そりゃあ、色々な物に一区切りつけられたからね」穏やかな表情で彼は答える。
「私は君が羨ましいよ」過去に区切りを付けて前に進める、君と言う存在が羨ましい。
「明智僕に言うのは構わないけど、他の人にその言葉を言うのは辞めた方がいいぞ」
「?」彼が言う言葉を理解できず、私は歩みを止めて思考した。
キャップが近づいたその時まで私は頭を傾げる、過去を払拭した君を羨ましがるのは当然の事ではないか?そもそも特殊事態対策班第5課の面々等、程度はどうあれ、過去に一物抱えたもの達の集まりだと、私は疑っていなかったのだが、違うのだろうか?
「分かってない顔だな…、それだけの才能を持って生まれて、それを活かす機会すらも与えられた人間が、他人を羨ましがるなんてことは、ただの嫌味だよ」
知らなかったのか?と聞き返す様にキャップは私を通り過ぎて、事務所に一足先に入る。
「その才能も、活かす機会もあったからこそ私は、君が羨ましいんだよ、例えそれが嫌味に当たるとしても、ね」
誰も聞いていない廊下で明智は呟く、自身が恵まれていないと思った事は一度たりとも思った事はない、私は恵まれている。どの点においても、自身が人より優れていると思わなかった事など一度たりともない、現実として私を理解出来る者は居なかったから。けれど自身が生まれてこなければよかったと思った事は、毎日考える。それだけでこの世界はもっと平和だったと思えるから。そんな事を考えながらもいつも通り私も第5課の扉を開く、彼らと居る時間は自分が普通じゃないという事を忘れられる、そんな気がするから。
「おはよう!」いつもよりも声を張りハイテンションで扉を勢いよく私は扉を開いた。
こちらの事を気にもせず各々が自らのやりたい事をやっている日常、いつも通りの光景の様にも見える、けれどいつとは少し違う、サチアは武器の手入れをしていないし、マリーはこちらに抱きついてこない、キャップは自分のパワードスーツの新しい設計図を作ろうとしていないし、なによりミライが事務所に居るというのが本当に珍しい。いや本来職場に出社したとするのならば、それぞれが決められた場所で決められた事をするのがごく一般的な職場だとは思う、そもそも職場に行く必要の無い仕事や職場が一定の場所に留まる事のない職種…エトセトラと一般論以外も出そうと思えば沢山だせはするし、私達がやっている仕事というのは仕事を言い渡されれば何処へだって行くし、仕事が無いのならば本社に留まれという、仕事柄いつでも体を動かせるような鍛錬を行えと言う訳でもなく、ただただ仕事が無いのならば本社から出るなと言う事だけが仕事の、正直会社を舐めているような事業態度であり、その所為で基本的暇な私達5階が職場のメンバーは大体が各々好きな事をやっているような職場だった。例えを上げるのならばミライの屋上に行く癖だ、ミライはいつも遠くを眺めているそれが彼の特徴だった。けれど、そのミライがこの場に居る、決して珍しい事でもないがこの場の状況が、現在の異質さを物語っていた。
誰一人、私の挨拶に返答しようとしない、そんな事はどうでも良かった。誰かの、恐らくキャップの端末を壁に投影し流れるニュース番組をサチア達は全員で眺めている、こんな事は今まで見た事がない、特にマリーがこのような事を気にするなんて、そこまで長い付き合いではないが初めての事だ。何がそんなに気になるのか、アベンジャーズ関連のニュースであれば、そこまで気にも留めないだろう。それならば、なぜ?
「サチア、どうしたんだい?そんなにニュースをマジマジと見て、君はそんなに世界の情勢に興味がある人間だったかな?」
そこまで皆が興味を持つというのは、大層な出来事なのだろう。一夜にして日本経済が崩壊とか、アメリカの人口がゾロ目になったとか、こんなご時世に他国に戦争を吹っ掛ける国が出たとか、スイスが永世中立国を辞めたとかそんな所だろうか?しかしこの中で全員が興味を持つ話題と考えると、やはりゾロ目か?
「お生憎様、今日の今日までニュースなんて興味はなかったわよ」
思ったよりも深刻そうな声でサチアは私の問に返答した、彼女が今日から興味を持つ事が何かあっただろうか?今日の朝話した事を、明智は思い返す。童話?露出狂か!?
「キャップ、これ発信源特定は?」露出狂の位置特定?
「数分あればできはするだろうが、恐らく無駄だと思う」そりゃニュース=逮捕だろうさ。
「やっぱり、そうだよね」ミライとキャップは何かぶつくさと話をしている、ニュースの情報源の特定ましてや発信源なんて凡そ決まっていると思うが、一体何を話しているのやら、私には皆目見当もつかない、そんなどうでも良さそうな事よりもいつもの日課を。
「マーリーぃ」明智はマリーを抱き寄せた。
いつもの彼女であれば、初々しい反応を返してくれるものだが、けれど彼女は頑なにニュースから目を離そうとしない、嘘だ、信じられないと言わんばかりの表情で。
「マリー、どうしたんだい?私よりニュースの方が恋しくなったかい?」
「マリーは明智さんが大好きですぅ、けどぉ、けどぉ、あの名前ってぇ」
「そうかそうか、私も愛しているよ、マリー。それで名前って?」
明智が目を向けた時に真っ先に目に入ってきたのは、頭にズタ袋を被らされた、白衣を着た少しふくよかな体系をした恐らく中年、顔を隠されている為、年齢の確実な把握はできないが見える限りの骨格からは男性と言う事が分かる。それよりも目が行ったのは彼に装着されている装置の様な物、この朝という時間に流してはいけない、夜でもコンプライアンス的に許されるかわからない血液の量、それも少量づつ抜かれ続けるという、拷問ともとれる映像が目の前に映っていた。
「私は英語が読めないから自信がある訳でも、確証がある訳でもないわ、でもこの名前って貴方の部屋にある名前と同姓同名だと思うのだけれど…」
「アダム・ジョンソンでしたよね?明智さぁん、あ、あの額縁に飾ってあ、あったぁ」
私がよく知る人物が、今その場で、その画面の中で、命が奪われそうになっていた。何があった、彼はこのような事をされる様な不祥事を過去に起こしていたのか?いやそれはあり得ない、それは私が総力を尽くして調べ尽くした、彼も、そして彼以外もだ、それに例外はない。ならば研究成果を妬んだ人間の犯行?
「キャップ、今の状況をできるだけ詳しく、正確に教えてくれ」
「詳しくって言われても困るんだが、僕がこの部屋でスーツAIの調整をしようとしていたらいきなり、端末に映ったんだよ。明智と話終えてすぐだから、映ったのは直近かな?それからこの映像と怪文書が一定間隔で字幕に流れるって感じだ」
「怪文書?」気になる単語が出てきたが、一定間隔で流れるならば今は放っておいていい。
ほんの数分前から放映されている映像。けれどこんなものを公共の電波で流せる訳がない、ならば確実にジャックされている。明智は端末を開きSNSアプリを起動した、これが局所的に行われている物か、それとも全国的、世界的な物なのかを確かめる為に、様々な国籍に設定してあるアカウントを使い確認した。これが局所的なジャックではなく、完全に無差別に全世界を対象として無差別攻撃という事はすぐにでも理解出来た。
「明智、また流れたぞ、俺に意味はわからんけど22世紀がどうだって」ミライが話す。
「『22世紀という技術的特異点とも言える時代に生きる事を許された諸君、おはよう、それかこんにちは、或はこんばんは。早速だがこの時代は素晴らしい、次々と可能かもしれない、いつかは辿り着くかもしれないと言われていた事が次々と達成されている。食料問題やエネルギー問題、資源に、環境、医療、対極に至る軍事的な産業に至るまで…、祖母の結果飢餓で苦しむ人は居なくなり、その事で影響を受けると思われた環境も十分に維持されている、それこそ100年程前に世界が温室効果ガスだの地球温暖化だの脱炭素だのとを騒いでいた人類を嘲笑うかのように、22世紀になり台頭を表した数々の研究者のお蔭で世界は劇的に改善した。だがこの進歩は人類には早すぎたし、彼らの研究成果は紛い物と罵るつもりは無いが、偽物だ、さぁ人類の発展を止めたくなければ、全力で私を止めて見たまえ。それこそ人類の発展に多いに貢献したその頭脳を持って…ね、私は待っているぞ?技術的特異点?』か、私の熱烈なファンの犯行だな…これは」
そこで字幕は途切れるのと同時に、流れている映像に映る人間は脱力させ、動きを完全に止める、死ぬまでの時間を計っていたかの様に彼の拘束が解け、座っていた彼はそのまま正面に倒れ、彼の顔が露わになった。その人は間違いなくアダム・ジョンソンであり、彼の表情はどうしようもない程、死という恐怖に怯えていた……とても残念だ。
「キャップ、四日前に入国した研究者がいたね、今すぐ名前と泊っている場所、客室もだ、特定してくれ」私が寄生したカタツムリはついにカラスに食べられてしまったという訳だ。
「そんな事を言われても、名前はまだしも客室はクラッキングしないとわからないぞ?そもそもそんな場所も公開されていない要人なら…」キャップは現実的にやるべきではないと判断を下す、けれどもそれを特定しないといけない状況に先ほどの字幕で陥らされた。
「チップは弾むさ」明智は自身のPCを開きできる限りメールを送る、それで防げるものがあるかもしれない、空いた片手で電話を掛ける、それで防げる命があると分かっているからこそ、電話をかける。それが悪手なのは分かっているが、私の拡声器を壊されないには一番の方法だというのも事実だ、それに私の予想だと、恐らく少し遅い。
「わかった、ここからそう遠くないホテルの40階のスイートルームだ」
「場所は君が案内してくれ、空は君の専売特許だろう?」
そうやすやすと使っていいものじゃないんだが、下の様に渋滞が起こる可能性が存在せず、圧倒的に快適な空の旅を提供できるのは、この場ではキャップしかいない。
「マリー、今日の夜は予定は全てキャンセルだ」
「そんなぁー」マリーは涙目になりながら、こちらに抱き着いてきた。夜を提供できない代わりに今は、キスの一つでもしておくか?と頭の中が煩悩にまみれるが、それどころでは無い事をサチアとミライの冷たい視線で思い出す。
「それとマリー、今日は本社で泊まるんだ、いいね?サチア、ミライ、今日泊まらせてもらうよ、ミライにはもう一つキャップから情報を貰って、その部屋のガラスをぶち破ってくれ、私が侵入できる穴を作ってくれ」
「マリーを捨てて、あのイキリヤンキーに浮気するんだぁ、うわーん」
マリーの涙は止まる事を知らず、服に涙が滲んでいく。弱った…、しかし今はそれどころではないと察したのかサチアが助け船を出してくれる。これがツンデレという奴だろう。
「約束するわ、今日は手を出さないって、そもそも自宅じゃレニの目もあるしね」
「本当ぉ?」マリーの涙が一瞬にして引っ込む、よくやってくれたサチア。今日の夜に、何もできないのは残念だがそれはそれだ、そんな中行うというのも趣が…。
「本当、大マジ、明智のいざこざが解決したら二人で相手してもらいましょうか?」
「うんっ、それでいぃ!」
私が口を挟む前に、大事な事が決められている気がするのだが…、まぁそんな事はどうでもいい、全ては終わった後の私が何とかしてくれる筈。任せたぞ、終わった後の私。
「モテる人間は辛いねぇー、やっぱモテないのが一番だね、キャプテン?」
「別に僕はモテない訳じゃないが?」
その一言にミライは度肝を抜かれ、ショックを受ける、その場で石化し崩れ落ちる程に。
「そこ!漫才をやっていないで、ほら、行くぞー?」
キャップは私の声掛けに無言で頷く事で了承し。ミライもミライで石化して風化しつつある体を渋々屋上に向かう事を私が確認した、私は事務所の窓から飛び降り空を飛ぶ、5階からの紐無しバンジージャンプ、死ねそうな感じがする、とてもいい気分だ。
「少しのGは気にしなくていい、なるべく早く飛んでくれ」
「了解」キャップのその言葉と同時に背後から銃声が聞こえた、目標までは2キロ程度、それも当てるだけならばミライには朝飯前の事だったかもしれない、あとはしっかりと私が入る穴が開いているかどうかだが、それも気にしなくてはいいだろう。
1分経ったか経たない程度の時間で目的のホテルの40階に辿りつく、人ひとりは余裕で通れる程の穴を通り抜け、明智はホテルに降り立った。
「キャップ…いや、もういい、わかった」既に手遅れ、あの時点で全ては終わっていた。
「付き添いいるか?」彼なりの気遣いだろうが、私にとって余計な人員は邪魔になる。
「構わない、一応他の部屋の確認をしてくれ」周りに被害を出す事は無いと思うが、一応。
「了解だ」キャップは、空へ再度飛び立つ。自由な翼を持つ彼が少し羨ましい。
音がするのはバスルームから、ベッドには無造作に脱ぎ捨てられた衣服と数日過ごしたであろう、日用品の数々。しかしこの場所からは決して、人が過ごしたと思える形をしていない。作られた空間だ、その証拠が端末だ。彼は通信端末を酷く嫌っていた。
バスルームのドアを開ける、そこに居るのは予想通りの人間だった。私の知っている人間、私が譲った研究成果で富と名誉を得た人間、そして彼らを使っている事を、この犯人は知っている。それを体現するかの様にそれは置いてあった。
ここまで読んで頂きありがとうございました。