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第三話 何処にでもいる、取り換えの利く探偵(Ⅰ)

おまたせー、しましたー、流石に三話以降の文字数を全部再編するのは地獄なので基本は同じです。変えたところも結構ありますが…、ネタバレではないので言いますが、戦闘描写を書くのがもう下手くそ過ぎると自分で理解できたので、戦闘描写等入れなければいいのでは?となって思いっきり削りました。

 私と言う存在を端的に説明しよう。探偵兼掃除屋、この世で最も聡い人。姓は明智、名前は何と言ったかな?けれど覚えている事はただ一つ、私と言う存在はこの世で一人だけしか居ない、家族であろうが、他の誰かであろうと、私の変わりは居ないそんな人間だ。

 私を全く知らない人間から見れば、きっと私は少し頭の良い人に見えるだろう。私をよく知っている人間から見れば、きっと私は頭の良いスケベ魔人探偵に思われるだろう。私が私を見れば、きっと私は存在してはいけない人間だと思うだろう。

 ソクラテスは無知の知という、知っているという思い込みをしている馬鹿どもと違い、私は自分が知らない事がある事を知っていると語った。私も彼の様に、そう自覚できる存在であれば、私と言う存在は万能の天才に等ならなくて済んだだろう、世界という機械の備品の一つにでもなれたのかもしれない。私は自分が知らぬ事を許せず、全て知ろうと考えてしまった、そしてそれが出来てしまった。万能になる事を許された人間は、毎日膨大とも言える知識をため込み、毎日膨大な数の試行を行った。自分を完璧に魅せようとするあまり、自分が壊れているという事に気づかなかった私の失敗。私自らが代替の利かない世界の歯車になった時、この世界に私の居場所は無くなり、用意されたのは空の玉座一つ。

「故に私はこう考える。私という歯車の代替品を用意する、それだけが明智という人間に許されたたった一つの償いであり、人生だと…」

「また癖が出ているわよ」

 裸体をシーツと言う薄皮一枚で隠している彼女、サチアに私は指摘をされる。これは私の悪い癖だ、彼女との行為が終わった後にこのような考えをしてしまう。強く快感を得た事により起きていた興奮状態から、一度興奮を抑える為のごく自然的な脳の働きだと思う。

「悪い癖だとは、認識しているんだけれどね、どうも君とするとこうなってしまうんだ」

「少し前にマリーと一緒にした時はなってなかったわよね?」

 誰との行為でもこのような現象だけなら起こる、マリーとだってそう、片手では数えられない彼女達とした時もそう、興奮状態を抑える為の働きは起こるのだ。けれどその働きは相手によって変わってしまう。一人になりたかったり、更に相手を求めたり、どうしようもない倦怠感だったりと、そのどれもが漠然とした物なのだが、サチアとだけは具体的自分の本質を考えずにはいられなくなる、サチアの前でなら弱さを見せられるのだろう。

「そう、サチアだけがこの現象を発生させる、私の所為では無く君が原因なのでは?」

「私にそんな特殊能力はないわよ、なんなの行為後に哲学を語らせるって、馬鹿らしいったらありゃしないわね、神様が居るなら私が直接返すわよ、そんな能力」

「君からそういうフェロモンが出ているかもしれないという可能性だって否定はできない。机上の空論でも安易に否定するものでもないよ?そして神様は居ないよ」

「はいはい、否定してワルカッタワネ…生憎誰かと違って学は無くてね、ていうかアナタって無神論者だったのね以外だわ」

 シーツを滑り落とし、私の物だと知ってか知らずか、彼女の一番近くにあったYシャツに袖を通す。だが私はそれを許さない、明智と言う存在は面倒くさく、ねちっこいくて、それでいて人肌が恋しい人間だ。兎は淋しいと死んでしまうという造言だが、私と言う存在を動物に表すなら、兎だろう。発情期等無くても発情できる兎なら神など意識しまい。

「逃がすか…」明智はYシャツに袖を通し終えた、サチア手を引きベッドに再度押し倒す。

「あら、ライオンさんに襲われちゃう、私はマリーの様に半日以上も耐えられるかしら?」

「誰が、ライオンだ、誰が。……私は可愛い、可愛い兎さんだよ」

「随分自己評価が低いのね、貴方は…っん」

 サチアが言葉を紡ぎ終える前に、明智の口で彼女の口を塞ぐ、言葉を紡ごうとして紡げないその姿、息を吐けずに必死に空気を求めるその姿は、私の劣情を催した。どこまで行っても性行為を本能として行うようにプログラムされている人間と同じ様に。私達はどうしようもなく本能丸出しの獣だった、夜は始まったばかりで朝にはまだ程遠い、部屋に嬌声が響き渡っても、窘める人間はここには居ない。今日も人間らしく欲に溺れよう。


 昔話をしよう、ある子供が私に率直な疑問をぶつけた「明智さんって変わってるよね」と、私は何を言われているのかがわからなかった、だからこそ私はこう返答する。

「君も私も大して、変わりはないだろう?」率直に何も考えずに明智はそう答えた。

 ある友人だった人間が私に悩みを打ち明けた「明智さんみたいになるにはどうすればいい?」と、私は当たり前の事を答える。

「君は私にはなれないよ、だって君は君だろう?」当たり前の事を、当たり前に答えた。

 ある研究者が私に一つの提案を持ちかけた「私達は君の才能を一番理解している、どううだろう?その才能を私の下で活かさないか?」と、私は率直な疑問を研究者にぶつける。

「貴方が私から学ぶ事があっても、貴方から私が学ぶ事は無いよ」真実を私は告げた。

 それらの回答の後に続く、彼ら、彼女らの反応は決まって逆上だ、私は一切の虚言を吐いていない、それだけは信じて欲しい。といっても誰が信じるのかと言う話だが。私の返答に逆上した者達が、私に少なからず抱いていた感情を今の私ならば理解できる。それは劣等感だ、その劣等感に押され彼ら、彼女らは私を中傷する、その事にはなんの感情は湧かなかったのだが、最後の一言がどうしようもなく私を苛める。

「「「お前は人間じゃない、バケモノだ!」」」

 彼ら、彼女らが私に劣等感を抱くように、私も彼ら、彼女らに劣等感を抱く事を知る由もないのだ、自分が持っていない物を持っていてズルいとしか思えないのが人間と言えば聞こえはいいが。しかしそれ故に、私を理解しているつもりで私の事を一切理解できていない人間が嫌いだ。私を理解出来もしない癖に、理解した気でいる人間が本当に嫌いだ。

 明智はアラームの音を頼りに目を覚ます、横には煩いアラームを気にもせず、サチアが肌寒さを誤魔化す様にシーツを手繰り寄せ、眠りについたまま目を覚まさない。私は近くにあるくしゃくしゃになった下着とYシャツを手繰り寄せ袖を通す、サチアが目を覚まさないよう、音を立てずに部屋の外へ出た。それにしても昨日はとても情熱的な夜だった、余りにも情熱的過ぎて殆ど記憶に残っていない程度には、情熱的だったのだろう。

 パイプ煙草に火を付け、コーヒーメーカー任せにコーヒーを淹れ、後は勝手に注がれる事を待つだけ、暇を潰す様に私は、端末を開き適当なニュース映像を前面の壁に出す。

 煙を吐き出したと同時にニュースを切り替え、保存しているクラシック音楽を流す。今日も世界は、当たり前にアベンジャーズの事を報道し、この世界の存亡がどうとかと話していた、実にどうでも良い事で。その反応に少しの嫉妬心が芽生える、彼らはきっと今世界で一番認知されている存在だ、いい意味でも悪い意味でも。認知されるという事を恐らく知らなかったからこそ、彼らはこの蛮行を続けるのだ、己の復讐にはぴったり舞台で。

「ふぁぁああああ」サチアが大層大きな欠伸をしながら、寝室から出てきた。

「おはよう、サチア。いい夢は見れたかい?」

「お生憎様、良い夢は起きている間に見てしまったわ」

「それは、よかった。私にとってそれは一番の誉め言葉だ」

 明智はクスっと笑みを浮かべる、そんな事は知ってか知らずか、彼女は私が用意していたコーヒーを無許可で手に取り、口に含み、横に広がる壁を改めてマジマジと見つめる。

「それにしても見事に全部他人の賞状ね、貰って嬉しい?この、あー、あー、アデム?さんの、それも三枚もあるし」

「そりゃあ私の功績だからね、うれしいさ。それとそれはアデムじゃなくて、アダムだ」

 壁一面に貼られ、置かれているのは数々の研究、開発の成功、実用化にあたって世界から賞賛され認められたものが貰える賞状。いわば世界から認められた証拠になるモノ。

「自分の名前で欲しいとは思わないの?それに日本語で書かれている物は一つもないから、私じゃ何をしたのか、分からないわね…判りやすいのは無いのかしら?」

「君の学力はさて置き、書いている事はバラバラだよ、食糧問題に関する物だったり、資源問題に対する解決策だったり、あとはまぁ色々だよ」明智は興味無さげに答える。

 他にもあった気はするが、寝起きの働いていない頭では思い出すのも億劫になる。あぁそう言えば肝心な質問に答える事を忘れていた。

「それと、日本語で書かれた物が無いのは、私が日本で生まれたからだよ」

「なにそれ、愛すべき自国家の発展には貢献したくないのかしら?非国民ねアナタ」

 サチアは思ってもいない事を、正しく棒読みでこちらに説いてくる、愛国心なんてものは私達とって最も縁遠い言葉だというのに。しかしそうだな、愛すべき自国家の発展に私が何故貢献しないのか、か。まぁもう十分に貢献したのもあるが…。

「そうだな、それは私が、しあわせな王子であり、裸の王様だったからかな?」

「しあわせな王子?王女じゃなくて?裸の王様は貴方ピッタリの名前だけれど」

「君、馬鹿にしているだろ?」明智はジト目でサチアの目を見る。

 サチアの目は視線に耐え切れず、徐々に横に背いていき、ついにはこちらを見る事を諦め、目を閉じる。やれやれと言いたげに悪びれもせず彼女はこう続ける。

「悪かったわよ、それで?スケベ王子と幸福の王様がなんだって?」

 この短い時間の間に、しあわせな王子は変態にされ、はだかの王様はもっとも幸福な人物へと物語が変わってしまった。はだかの王様は実に満足だったかもしれないが、しあわせな王子は恐らくサチアに対し、助走を付けて殴りかかる準備をしているかもしれない。彼は決してそんな事をしないとわかりきってはいるのが、少し悲しい所だ。

「しあわせな王子は、自分の出来る限り人を公平を配ろうとした人、いや銅像か。そして裸の王様は、たった一人の正直者の話だよ、どちらも童話だが…、見た事ないかい?」

 しあわせな王子が公平であったかは議論の余地があるかもしれないが、私の考えでは彼はどこまでも公平を配った、弱者を救い、強者と同じ環境にしようとした偉大な銅像だ。

「見た事無いわね、残念ながら読書をできるような環境で育ってきていないもので」

「それは、すまなかった」ここに居ると忘れそうになるが、サチアとミライはあのゴミだめの出身だった、と言っても本当にあそこの出身と言っていいのかはわからない、捨てられていた可能性もある、まぁそれでもまともな教育が受けられていないのは事実だろう。

「いいわよ、気にしていないし、それであなたのどこが正直者で公平主義者なの?」

「昔の話だけれどね、私は人に言われるがままそれを正しいと信じ行動し、全ての人が公平になる世界を目指していた、それだけさ。今は少し違う思想を持っているが…」

「それがなんで、自国家の発展に貢献しない理由になるのかが、分からないのだけれど…」

 それも説明しなくてはならないのか、少し、いや、やや面倒だが時計を見てもまだ出勤までの時間はある、丁度良い暇つぶしにはなる。語りたくなるのは、今日見た夢の所為だ。

「どちらから聞きたい?君の好きな方から教えるよ、それぞれの童話に沿って話すよ」明智は端末で童話のあらすじを確認する。別に覚えてはいるのだが、それでは自己流解釈まみれの新たな童話を私が作ってしまうから、作品に敬意を込めてその可能性は排除する。

「そうね、それじゃあ、裸の王様の話を教えて頂戴?勿論貴方がどう裸踊りしたのかを…ね」サチアの頭の中では、はだかの王様は裸踊りをした変態に置き換えられてしまっているようだ、まぁそういう行為をしても問題は無いから王なのだし、それも間違いではない。

 明智は一呼吸置き、記憶に検索をかけ、古い書庫から引っ張りだすようにストーリーを思い出す。彼ほどの正直者は居ない、それが見栄だとしても、私は彼を尊敬する。

「裸の王様…新しい服が大好きな王様が居た…そこに馬鹿には見えない布を持ち、その布で新しい服を作れると言った織屋がやってくる…王様にその馬鹿には見えない布は見えなかったが、彼は王だ、馬鹿と思われる訳にはいかなく見えるフリをした…そして服が完成する、けれど王様にはその服は見えない…故に一番の忠臣にも確認させ、彼は見えたと言った…故に見えないという訳には行かないので王様はその服を身に纏いパレード開く…そこで王様は裸である事を大衆に笑われる、そんな話さ」

 明智が語り終えると、サチアは馬鹿にするように語った。

「ただの見栄を張った王様が馬鹿なだけの話しじゃないの?それ」

 サチアは面白い笑い話を聞いたかの様に、飲んでいるコーヒーを噴き出さない様に必死に堪えていた、彼女の考えは正しい。王様は最初の織屋の言葉など信じず即刻処刑にでもすればよかったんだ、それだけの地位も、それに文句をいう家臣も居ないのだから。

「そうだ、この話は馬鹿正直な王様が見栄を張った結果、痛い目を見るそれだけの話しだよ、けれどねサチア、王様は最後まで信じたんだ、見えない布の服がある事を、決して裸で自信満々に歩いた訳ではない、自分には見えないけれどそこにある物だと信じて、無い筈の服を着た。けれど真実を話してくれる人間は居らず、物語のオチで皆は王様を笑い物にするまで誰も真実を話す人は居なかったんだよ、ほら王様だけが、一人の正直者だろ?」

「まぁ確かにそうかもしれないけど、でも見栄を張ったから馬鹿にされた事に変わりは無いと思うのだけど?」サチアの考えが間違いではないし、サチアの意見こそ正解だろう。

「しかしそれが童話の良い所だよ、簡単な物語でありながら、見る視点によっては様々な解釈ができる、サチアが言ったその認識も決して間違ってはいないし、何なら私の語った考えは異端なのかもしれない、けれど初めて裸の王様を見た時はこう思ったのさ、なんて愚かで、それでいて愚直なんだろうとね、私も笑わたとしても最後まで、自分が信じた物、それこそが真実だと信じたいとね」

 明智は笑いながらサチアに語った、決して王様が素晴らしい人間と褒め囃す訳でもなく、ただその馬鹿正直さに私は見惚れたんだと言わんばかりに。

「しあわせな王子の話もしてもいいが、それを語っていたら遅れてしまうな、着替えるとしようか」

「その話はまた今度ってことね、まぁ私が覚えていたらだけど」

 そうつれないことを言うなよと明智は口に出そうとしたが、その言葉を出すのはやめておく、私達が明日生きている保証はどこにもないし、語る時間を用意できるかも定かではない、もしかしたら数週間後になるかもしれないし、明日かもしれない。そんな確約できない事を、私達は好まない、それを確約できる人物がいるとすれば、きっとミライだけであろうと私は考えた、けれどこの考えも私は口に出さない。だって彼の話をしたらサチアは家族の事で頭がいっぱいになり私になど、構いはしなくなるだろうから。


ここまで読んで頂きありがとうございました

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