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第二話 鋼鉄の戦士に心は無い(Ⅲ)

(Ⅲ)で終わらせました、ちょっと区切る配分を間違えた結果です。区切る所を一切考えていないからこうなります。

「これより特殊事態対策班第5課、コードネームキャプテンについての報告を開始します」

『続けて、私にも時間がある訳ではありません、手短に』

 何か一つのミスで、人生の終わりを告げる冷徹な声が、突き刺すように報告を始めた人間に向って放たれる。早く次に移れと言わんばかりの間か、じっくりと話せという間ともとれる。畏怖か、それとも敬愛か命令を受けた人間は声を震わせながらも報告を開始した。

「はい、簡潔に申しますと、現状の状態でも可能性は多いにあると感じられます」

『ふむ、確実に寝返るとは言えないが、その可能性も無くはないと貴方は推測したと』

 冷徹な声の持ち主は、少し考えこみ、話題を一つ変える。

『来るべき日、もう一度日本に我々の復讐を再開します、標的は…………』

「恐れながら、その為の知識は現在の我々には…」

『だからですよ、貴方には期待しています、私の期待裏切らないでくださいね?』

「了、了解しました…」

 傍受の可能性は無い、誰かが近くに居て直接盗み聞かれた可能性もない、先ほどのまでの会話にこちらの落ち度は一切存在しない、それなのに話していた人間は滝の様な汗を流しながら、何とか忘れていた呼吸を思い出し再開した。


 アラームが鳴り始める前に僕は目を覚ます、目覚まし時計を見て日付を確認する。あの日以来悪夢が悪夢ではなくなった、正常な精神状態で睡眠を行う事が出来たている。リアルに出会ってからからというもの、何か心に羽が生えたよう感覚だ、どこへだって行ける気がする。僕が考えていた悩みなんてちっぽけな物だと思えるようになった。

 叶う事の無い幻想と言う名の夢、ただの夢ならば勝手に脳が忘れてくれる。けれどその夢は僕が恋焦がれた幻想を求め続けてしまう、その度に幻想と現実の乖離に苦しんだ。

 気分は晴れやかだ、幻想と現実との乖離に気づき死んでしまいたくなるなんて言う事はなく、思い描いた未来を夢想し生きている事を後悔することもない。でたらめな話だが、二度目の生と言う事を受け入れられなかった、受け入れてはいけないと考えてきた。けれども多分僕が望まれたのはそんな事ではないのだろう、誰かの祈りが実った結果が今の僕だ。だからリアルという人間に救われたという事で、晴れる事の無かった空模様は、リアルという風が徐々に雲を動かし、しばしば陽光が顔を覗かせる。その景色は恐らく綺麗だ。

 自分の悩みが解決し始め快復に向かうという事は良い傾向だ、けれどそれ以上の懸念事項もある、過去に一斉を風靡したスーパーヒーロー達の組織名は、世界から嫌悪されるテロリストに様変わりしてしまった。日本で言えば首相暗殺未遂に、市民の無差別虐殺。世界に目を向ければ歴史的建造物の破壊、それこそ無差別テロが横行している。けれど日本はあの日、アベンジャーズが名乗りを挙げたその日から1ヶ月間は平和というモノを謳歌している。ある政治家や他国にコンプレックスでもあるかもしれない人間は、どうだ私の国の防衛能力は凄いだろうと自慢する。各国が被害を受ける中、自らの国こそが一番だと平和万歳と自国も守れないのかと、煽るようにアピールするニュースが今日もやっている。

 僕はそんなニュースには興味が無く、逆に不愉快に感じニュース映像を切断し、自宅を後にする。けれど平和だからこそ緊張の糸は緩む、きっと今日も明智は退屈そうに探偵をして、マリーはその手伝い、サチアは武器のメンテに時間をかけ、ミライは屋上で空と街を眺めているのだ、心底ガッカリした顔をして…、きっとおかしかったのはあの日だけ、それ以外はいつも通りの第五課なのだろう、そして僕はリアルと合同訓練でもする。

 本社に入りエレベーターへ向かうが、生憎彼は僕を歓迎しない。だからこそ日課になった階段を使って5階まで上がるのだ、待っているのは性に合わないから、疲れるのは嫌いじゃないから、5階に丁度着いた時だった、サチアとマリーからの緊急要請が入る。これはヘルプのサイン少し前に明智の暇つぶしで使われた事を僕は少し怒っている、あの時は本当に心配したというのに、頼まれたのはお使いだった。

「大丈夫か―?」今回もそうだろうと、気だるげに第五課の扉を開けた。

 扉を開けた先には目の下に酷い隈を作った明智が荒れている、ヘルプの要請は嘘ではなかったらしい、探偵業が上手くいっていないのだろうか?まるで何も知らない赤ん坊の様な酷い荒れようだった。乱雑に吹き飛ばされた大量の資料と端末の数々、紙の資料は宙を舞い、遠くから見れば雪景色にも見えるかもしれない。丁度自分の手元に舞ってきた一枚の資料を空中ディスプレイに表示させてみる。

「見ての通りよ、自分の思い通りに行かなかった駄々っ子が荒れているのよ、なんとかできそうかしら?キャップ」明智に抱き着きながら、振り回されるサチアの姿は少し面白い。

「いや僕には荷が重いかな?同性であれば強引にという手もあるが…」そんな事を話しながら空中に表示された内容を見る。幾つもの推論、推測、推理、目的、条件、理念、証拠が書かれているが統一性はない、例えるならミステリーを考えている時のアイディアノートと言った所だろう。けれどその推理や推測に統一性が無いだけで、書かれている物事全てを見れば統一性はある全てここ1か月でアベンジャーズが起こしたとされるテロ事件の事だ、それがどういう意図があったのか等の推測それが端末数個分いつから調べていたのだろうか?少なくてもその素振りに僕は気づかなかった。

「最近ずっとこの調子なのよ、ここまで来たらもう強引に止めるべきね」

 サチアは明智の腰を少し反らせ、マリーが明智を羽交い絞め出来る様に向きを整える。

「明智、貴方にも無理な事はあるのよ、そんな顔じゃ折角の美人が台無しだわ、マリーも心配しているのだし、いい加減に…」

 それでも明智に言葉が、届く事は無い。ぶつぶつと動機や次日本で事件が起こるとしたら何処を狙うか、何時にするか思考しては却下している、何か閃いたのか急ぎ端末を取り文字を打ちこみ始める、ここまで行ってしまっては狂気だ。

「聞く気はないと…、解ったわ好きになさい、次に起きたらね」

 獲物を捕らえる蛇の様に、明智の首筋から口元に這いより、サチアは明智の体に巻き付き動きを完全に奪い、ついには明智の唇さえも奪った。この場で惚気ている訳ではなく、明智の体から空気を奪い取る気なのだろう意識を飛ばすには十分な時間のキスをする。普段は明智へのキスは譲らないであろうマリーも黙って拘束に徹している。少しの時間を置いて明智の動きは徐々に鈍くなり、意識は深い水底に沈む。

「ようやく静かになったわね、マリーは明智を縛り付けて大人しくさせる様に監視していなさい、多少強引に止めても構わないわよ?」

「でもぉ、マリーは、明智さんには逆らえないしぃー、頼まれたら断れなーい」

 それもそうだ、明智命のマリーが明智に甘い言葉で頼まれたら一瞬で落ちるというのは、目に見えているそれ程の忠誠心が明智とマリーにはある。幾ら明智の為といっても…。

「なら、明智を一日好きなようにする権利を貴方に用意するわ。その位の対価があれば貴方でも少しくらい私の命令を優先して明智に逆らえるでしょう?」

「はいぃ!マリーは頑張ります!」

 明智への絶対的忠誠心よりも、明智を好き放題出来るという欲望にマリーは一瞬で落ちた、先ほどの考えはすぐにでも忘れよう、無かったことにしよう、少し恥ずかしい。

「もしもーし、明智に呼ばれたんだけど、従って屋上行っていていいのー?」

 不意に後ろから既に開いた扉をノックする音と共に、ミライが現れた。しかしその明智は今は絶賛意識を夢の中に持っていかれている訳なのだが…。

「えぇ、大丈夫貴方はそのまま屋上に言っていて、頂戴」

 既に明智から何かを聞いていたのか、ミライの問にはサチアが答える、何故だろうか自分の知らない所で次々と話が纏まっていくこの感覚、少し嫌いかもしれない。

「へーい、マリーは明智を運んで、実働はキャプテンと俺。いつも通り後方支援していますのでご利用の際はどぞー」そう言ってミライはそのまま事務所を後にする。

 実働が僕?それと同時にミライから一通のメッセージが入る、どういう事なんだ?内容は少し二人で話したいから一旦屋上に来てくれという内容だった。

「キャップ今回私達は独断専行で作戦を行うわ、明智の推理を信じてアベンジャーズと深い関係を持つ人間を殺す、その役割をキャップに任せたいのだけれど、いいかしら?」

「それは別に構わないけど、といってもそれは誰なんだ?」やりたい事は理解したが、それでも説明不足感が拭えない。

「私は居るであろう別動隊の処理、マリーも間に合えば二人でするわ、まぁ私が死ぬことはないだろうから問題は無いのだけれど、もしキャップが厳しそうだったらミライに任せなさい、これは私達の独断専行。従うのも、従わないのもキャップに任せるわ」

「わかった、とにかくミライに聞けばいいんだな?標的の確認や居場所も」

「そういう事ね、ごめんなさいねいきなり、本当だったら私が行こうと思っていたのだけれど、別動隊の可能性はさっき明智も気づいたみたいだから」

 それで意識が奪われると解っていたから、ギリギリまで思考していた訳か、それなら説明すればよかったのではないかと思ってしまうが、それが明智の欠点なのかもしれない。

 既に覚悟は決まっている、使える人員は僕達第五課だけ。残念ながら確証も証拠もない独断専行を通してくれるほど、僕らの会社も暇ではないらしい、そもそもそんな信頼など会社は僕達には抱いていないのだが。言われた通りにミライが待つ屋上へ向かい、扉を開いた先には、まだ秋も遠いというのに、黒のロングコートを風に靡かせ、今にもタバコの一本でも口にしそうなミライの姿があった、黙っていれば、手に持っている物に目を瞑ればきっと年相応には見えないであろう、その姿はどこか殺気を漂わせている気がした。

「キャプテーン、遅いよー」

 その纏っていた殺気とは違う、子供らしい曇りのない笑顔でこちらに手を振るミライの姿がそこにはあった。大人びて見えるのは背格好と服装だけで、子供よりも子供なミライがそこには居る。

「すまないね、サチアと少し話していたら遅くなってしまった、それで目ひょ…」

 無邪気な笑顔とは裏腹に、こちらに向けた物騒な物を見て、言葉よりも先に体が先行する、直後に銃声が鳴り響き後ろの扉に着弾した音がする、どうやら空砲というドッキリでもないらしい、第五課は僕を用済みと判断したのか、それとも内通者とでも勘違いしたか。

「このロングコート、この前の事件の時に着ている人を見てカッコいいと思って買って貰ったんだけど、キャプテン的にはどう思う?」

 こちらの事を殺す気で撃っているというのに、ミライは世間話を続ける。僕の頭はまだ理解できていない、けれど本能で僕はパワードスーツを端末で起動し、自らの下へ呼ぶ。

「似合っていると思うよ、ただネクタイが少しだらしないかな?あと実戦向きな服装ではないね…っ!」呼び寄せたパワードスーツのパーツが僕の下へと集う、まずは片手分それだけあれば銃弾を防ぐことは用意になる、胸、足と次々と装着されていき、最後にヘッドパーツが完成した。インターフェイスが起動し、即座に動かせるかどうかの思考を開始して、OKのサインが出て、飛んでくる銃弾の予測を始めながら、スーツの中に居るAIが音声案内を開始する。

『オペレーティングシステム起動…対象ヲ補足…武装セーフティ解除シマス』

 排除はしない、この状態になってしまえば、ミライの横にあるライフルでコアをぶち抜かれない限り、こちらにダメージが通る事はない。けれどもミライはお遊びが少し過ぎた。

 首を掴み、上に持ち上げる。明智よりも大きい筈なのに明智よりも軽く感じるのは、このスーツ故だが、それでも今ミライの首を折る事や、あの時明智の首を折る事も容易な事には変わらない、何を間違ったのかは分からないが、とても残念に思う。

 今日まで仲間であったって殺す事に躊躇いは無かった、少しぐらい躊躇いを持ってくれよと自分に思いたくもあったが残念だけど、それよりも優先するべき事が僕にはある。

「ミライ、残念だよ君とはいい友人関係を築けていると思っていたんだが」

 息が出来なくて、ミライは掠れた声しか出す事はできない。しかしミライは抵抗を辞め端末のメッセージの部分に指を差す、どういう事か理解できないが、理解する必要は無かった、なぜならその意味は今届いたからだ。

『明智サマヨリ…一通ノ…メッセージガゴザイマス…開キマスカ?』

 AIの案内通りメッセージに視線を落とし、アプリケーションを起動し、ミライがこんな事をしてきた理由が解り首から手を離す、どちらかと言うと内容に驚いて手を離してしまったという方が正しいかもしれない。ただ一文だ、それが真実とは限らない、僕を騙している可能性すらある、けれどそれが真実であるならば、ミライの行動も説明が言った。

 書かれている文章はただ一文「リアルという青年が裏切り者である」という一言だけ。

「テストでもしたかったのかい?僕が唯一無二の友人を殺せるかどうかの、そしてそちらに着く可能性が無いかどうかの」僕は少し声を震わせながら、ミライに問う。

「ぴん…ぽーん…、当タりぃ…、その様子ジャ…大丈夫そオ…ダネ」

 掠れた声を出しながら、僕の問に答えるミライはどこか楽しんでいる様にも見えるが、今はどうでも良かった。ただ一言言わせて欲しい。僕はミライの首から手を放し解放する、僕が裏切り者という確証があるのなら僕を殺してもいい、必ず僕は抵抗して生き残る自信もある、例え僕にとって辛い作戦であっても、それが例え唯一無二の友人が標的でも僕は構わない、けれど僕に何も知らせないのは止めて欲しい、それだけが僕の願いだ。

「ミライ、こういう事は最後にしてくれ。もう何も知らずに納得するのは懲り懲りだ」

「……了解、ごめんね」一呼吸の間を置いて了承と謝罪をするミライを見て僕は納得する。

 足に付いているスラスターを吹かし、僕は空へと飛び立つ、モルから届く情報と僕個人で収集できる情報、けれどリアルの姿は見つからない。最後まで信じて見ようかと悩む。明智達が間違っていて、リアルは今日も僕との合同訓練を6階で待っているのではないかと、灯台下暗しと会社内に居るだけでは無いのだろうか考える、けれどその願望を否定するかの様に、たった一度リアルが映った映像が僕の下へと届いた。

 最近同時爆破解体をする日程が決まった廃ビル群がある所在に、一人で侵入するリアル、街中の監視カメラにたったこの一度しか映らないのは、余りにも都合が良過ぎる。やましい事が無いというのには無理があった、廃ビル群向いに近づいた段階で背部に収納されている小型ドローン群を展開する、僕が下す命令は一つだ、たった一つ僕の命を脅かす者は、どんなに仲の良かった友人でも、二度と会えないであろう唯一無二の親友でも。

「索敵…見つけ次第無力化か排除。どちらも無理ならば、データだけを僕に送れ…、散れ!」

 ドローン群は僕の命令に従って空へと飛び立つ、廃ビル群と言っても一つ二つで済む量ではない、一区画丸々の全フロア探すとなると少し時間がかかるだろう、だから僕は何も考えずに己の直感のみを信じて、ただ通信を開始した。

 コール音が僕のマスクに響く、別に呼び出しに応じても、応じなくても構わないただの確認だ、その確認さえ完了すれば、僕は平常心を保てるだろうから、通信を繋ぐ。

「リアルかい…今日の合同訓練は延期してくれ、第5課で急用が入った」

『あぁそうかー、わかった今から6階に向おうとしたんだけどな、まぁいいまた今度な』

「あぁ、また今度やろう、今度はこんな辛気臭い場所じゃなくて、ちゃんとした部屋で…」

 リアルの返答を待たずに、スラスターを全開で吹かし目の前に居る人影にぶつかる、確実に首を抑えて身動きを取れないように、頚椎を確実に折る形で。

「痛いじゃないか、キャプテン。それにしても残念だ、お前ならこっちに付いてくれると思ったんだが…、なぁこの世でたった一人しか居ない20世紀生まれの22歳?」

 即死とまではいかないかもしれないと思ったが、そもそも喋れる程ピンピンなのも僕は驚いた、そこに居るのは確かにリアルの声はするが見た目はもう人とは言えない醜悪な筋肉の塊、膨張した筋肉で骨格もおかしい事になっている。それよりも驚いたのは、アベンジャーズと名乗るであろう彼らが僕の情報を知っていた事、世界は隠し通すのが下手だ。

「俺はお前にも、復讐者の適性があると思うぜ?お前はお前じゃない、今から5年前に適当な理由を付けて戸籍を用意された誰でもない自分。この世で唯一自分を名乗る事を許されない人間、それがお前だろう?用意された名前も拒絶して今じゃキャプテンか」

 笑いながら答えるリアルを見て、僕は笑う。やっぱり君はそういう風に思ってくれている、きっと根はやさしい奴に変わりは無いのだ、納得してしまう僕が嫌になる。僕は何処まで言っても甘い奴だと認識せざるを得ないから。

「脆いものだ、無かった事にされた17年も、用意してくれた17年も簡単に見破られて、僕という存在は今ここに確定したぞ、文句の一つでも言ってやらなきゃな」

「あ?」意味が解らないのか、疑問符をリアルは浮かべる。

「君は僕という人間の人生を否定されたからこそ、世界に復讐する権利があると思っているんだろう?生憎だけど、僕にそれ程の欲は無いよ、今生きている。それだけで幸せだ」

 過去を無くされた、確かに存在したはずの人間が世界から突然消された、それは歴史的な大罪人でも無く、世界に都合の悪い事を暴いてしまったジャーナリストでもない、ただ家族と友人に生きられる道があるのであれば、生きて欲しい…そう願われただけの存在だ・最初は楽観視していた、皆が生きている間にもう一度目を覚ませると思っていた、けれど起きたら世界は変わっていて、知り合いは誰も生きて無く、ただ眠らされていた人間がこの世界にとって都合の悪い存在になった。もう一度会いたい、自分の価値観で会話をしたいそう何度も願い続けた。母に父に友人に、皆に背中を押されて眠る為のサインをした。死にかけで辛かったのも事実で、起きたらびっくりするほど体調が良かったのも事実だ。けれど僕が今を生きて、過去の皆の願いの為だけに生かされて思う事は。

「リアル、最後に質問だ…君は、唯一無二の親友が死にそうな時、未来に託すかい?それとも少ない最後まで付き添うかい?最後まで友人と話を続けるかい?」

「愚問だ。俺なら絶対に、そいつの最後まで傍にいるさ、そいつが寂しくないようにな」

 その返答を僕は105年前に聞きたかった、例え短い命でも良かった、絶対に納得ができた、その選択に後悔は無かった、皆と一緒に過ごして、皆に囲まれながら土に埋まりたかった、家族と友人、後輩先輩、教師に囲まれながら、アイツはこうだったと語られながらこの世を去りたかった、最後に盛大なサプライズでも用意して…。

「そうか…やっぱりあの時、素直に死んでおくべきだったな、こんな思いは二度と御免だ」

「こっちからも質問、お前は何の為に戦う?世界が憎くないのなら何故世界を態々守る?」

「その答えは簡単だよ、ただ生きてくれと望まれたから、僕は自分というモノが無いから、誰かに望まれた人にしかなれない、だから最後に僕として望まれた願いを遂行する為に、僕は世界を守るよ、火種をちゃんと消せば絶対に火事は起こらない」

 僕には愛国心なんて無い、そもそも日本生まれでもない、愛の反対は無関心というように、僕は無関心を貫く。ただ自分が生きていける地盤を自分で作る事ができるから、こうしているだけだ、けれど少しだけ最近の生活は気に入っている。

「歳の割に子供の様に無邪気な弟と、歳の割に背伸びをしたがる妹に、スケベだけど頼りになる姉に、誰よりも優しい心を持った末っ子。それと最近できた唯一無二の親友、今の生活は案外気に入っているんだ、だから守りたい」

 息を吐くように真実を混じらせた、嘘を吐く。5課の皆を家族の様に思った事等無い、けど見ていて飽きない奴らだし、どう生きていくのか気になる奴らだ、でもアイツら自分で自分の命を守る術を持っているし、僕の様に誰かに決めてもらって生きるのではなく、自分の生き死には自分で決めるべきだ。

「そいつぁ、残念な事をした、選択を少し……」

 大きな爆発音を響き、その場にあった筈の廃ビルは崩れ去る、一つ後腐れが無いように、そして絶対に生存出来ない様に、これ以上大切な思い出を汚さない様に、持てる火器の全てを放ち、リアルという人間だったモノが僕に降り注ぐ、どうやったのかは不明だが、一時的に隆起させた筋肉で一部防いだのだろう、驚きだ。だから消し炭にできなかったのだろう、蒸発してくれれば後腐れなんて残らなかったというのに。

「リアル…排除、モル…サチアとマリーはどうにかなったかい?」

『キャプテンさん!無事で何よりです。サチアさん達は日本の国防装置の破壊を目論んだ、アベンジャーズの構成員と見られる人間と接敵し,交戦を開始、無事に排除完了しました』

「了解」ただ一言告げて、回線を切る。独りで考えたい気分だった。

 それはなによりだ、国防装置に細工をしようとしたのか、だから武器に特化した人間である僕を、リアルを使ってアベンジャーズに引き入れようとした、けれど僕の手でも国防装置に傷をつける程度が出来るだけだろう、でも確かに狙いは面白い。外から日本を壊すのは無理だが、国防装置という一つの破壊を成功させたら日本に守る術はない、それに依存しているからだが…。その程度で壊せるなら誰かがきっともう壊している、それでも壊せないから国防の機能として働いているのだ。

「利用しようとする人員を間違えたな…、それは明智の作品だよ…リアル」

 どこまでも優しい人間だった、誘った理由はそれもあったが、僕という存在しない生涯を見て、少しでも同情してくれたのだろう、だからこそ一緒に復讐しないかという確認をした、ただ拉致すれば良かったんだ。こんな場所に誘き出して、最後の会話をするなんて殺してくれと言っているようなモノだ。

 僕は大きくため息を吐く、こんな状態でも自分というモノを持てない自分が嫌になる、あの日以前はもっと人間らしかったのに、あの日以来はどこか人間らしさを失っていた、明智の言う通り第5課の僕達は人間として何かしらの欠落があるのだ。

 硝煙と砂塵、降り続く赤い雨、防水、撥水加工でスーツから弾かれる赤い雫数々。

 愛国心も無く、人間らしさもない、ただ過去にそう望まれたからという理由だけで生きて、その願いしかやる事が無く、その為に火種を排除する事を生業にする事を選んだ鋼鉄の戦士。

 その鋼鉄の戦士のマスクに防水、撥水加工を逃れ目元に付着した赤い一滴が頬を伝う、鋼鉄の戦士はその事には気づかない、壊れた心が快復しつつあると自らが、気づいているのにもかかわらず、鋼鉄の戦士はその事に気づかない。


ここまで読んで頂きありがとうございました。

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