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序章 自称革命家気取りの国家反逆者の末路(Ⅰ)

前作を再編した物になります。少し文字数が増えてますが、それ以外の流れは殆ど一緒です。あと新人賞に応募するにあたって、多分文字を削る場所があるので削らなかったバージョンとして残しておきます。

それと1話2万字以上と1話5000字程度ならどちらの方が同じ作品でも読まれるのだろうという実験でもあります。

「はっ、はっ」

 乱れの一つも無い呼吸音が二つ三つと連なり、電気の消えた無駄に権威をふりまく高層タワーの一角で、物騒なモノを持った目障りなネズミが数匹、私が事実上支配したこの場所に入り込む、まさに自宅に勝手に巣くうネズミの様に目障りだ。

 明らかに不審な動き、何も知らぬ人間がこの状況を見れば、どこかの諜報員や特殊部隊による隠密作戦、或は映画の撮影にも見えるかもしれない。しかしそれはそう見えるというだけの事。カメラの前をじわじわと、それでいて機敏に、その動きは間違いなく常人の動きでは無く、何か特別な訓練を受けてきた人間、言ってしまえばプロの動き、しかしそれを忘れさせてしまう程の、バラエティ豊かな服装の面々、というか四名

 一人は、この特殊任務とも捉えられる状況を表しているが如く、タイトに引き締められた黒のピッチリスーツに、邪魔にならないようにだろうか?髪を後ろに纏めたポニーテール、その風貌を端的に表現するのならば、女スパイとでも言うべきか、この面々の中で唯一ツッコミどころのない服装をしている女性と思わしき人物。

 二人目からは、もう既に訳が分からない、ファンタジー世界からの来訪者か、それとも迷い込んだのか、お姫様を彷彿とさせるヒラヒラが纏わりついた純白のドレスに、ふわふわとした白髪の髪。この状況における彼女の姿が、彼女の行動が、そしてこの場所が、全てが噛み合っていない。この場所はアニメに恋する者達が集うイベント会場ではないし、異世界ですらない、この世界におけるその姿は、まさにコスプレと言って過言ではない、そんなコスプレをしている人間が常人離れした身のこなしをしている、その姿は、そう、異世界から迷い込んだ、何故か前線に出ているお姫様の騎士。

 三人目は、それを何と形容するかは人によって変わるだろうが、一般的に言うなればロボ、メカ、マシン、パワードスーツとでも言うべきSF的外観の恐らく男性、中身を直接見た訳では無いので、確実に男性であるとは言い切れない。が、あの少年の欲望を全て積み込んだと言ってもいい、メタリックな外観と重々しさを感じるその姿は間違いなく、自分を鍛えるのでは無く、知恵を巡らせ他人を越える事を望む人間、その結果がその姿なのだろう。彼と私は同一思想をもつのではないだろうか?否、同じだと思いたい。そんなマシンな君の後ろを警戒するのは。

 探偵だ、四人目の風貌は間違いなく探偵だった、100人中100人が探偵と答えると思える程に探偵であった。探偵っぽい茶色な…、なんといったか親愛なる追跡者がどうとかと言ったような気がする。そんな帽子を頭に、チェック柄のロングコート、何故上がポンチョの様になっているのかは、知る由も無いし、知る気も無い。そしてと言うべきか、それともここまできたらやはりと言うべきか、口にはパイプを、手にはステッキを持っていた。この状況において男性か女性かは判別の利かない外見、その動きからは女性らしさも、男性らしさも、その両面が見えるような気がした。やはり探偵と言うだけあって素性を隠す術を持っているのだろうか?それとも探偵のフリをした怪盗なのかもしれない、この状況において唯一判別する事ができない、その事実を甘んじて受け入れ、私は賞賛し君をこう呼ぶことにする、探偵十二面相。どちらにでもとれるだろう?

 それにしても楽しみだ、私と言うこの世界に抗う者、この世界を正しく導こうとする者、そして、そして今日この日本の首都にそびえたつ世界で一番高くて、一番綺麗で、一番醜い想いが詰め込まれた、この世界で我が国こそが一番と象徴するような、この傲慢さの塊に恥辱限りを与えて見せる、その工程はほぼ全て完了している私にどう抗うのか。

 全ては私次第、その事実が最高に堪らない、条件は全て揃えたこの時代を改革する唯一の力と術はこの手とこの身に宿している。

 180階という途方もない階層を、己が足で非常用階段を駆け上がる事しかできないこの状況で、この私が待つ最上階に無事辿り着くのか、それとも私が用意したフロアサービスの前にくたばり果てるのか、本当に楽しみだ。

「出来る事ならば、実際に会って賞賛させてくれたまえ、そして私の前で無様に死んでくれたまえ、そして私の可愛い操り人形として遊ばせてくれたまえよ?革命の前に今日崩れ去る事になる、世界の本質とは無縁な旧体制の下僕達よ」

 手元の端末から目を離し、最上階にある唯一の部屋で黒焦げになった、縦幅170㎝前後、横幅50㎝程、高さ30㎝と見積もった黒い塊を椅子にし、私は足を組みなおした。


 160階辺り


「クリア」

 銃口を虚空に向けながら、後ろにいる面々に伝わる様に、私は単語を告げた。

「もう休ませてくださぃー」

 ゆるふわお姫様の姿をした女性から発せられた、100点満点の可愛い苦悶の表情と可愛い声、そして5点以下の愚痴に反論するように私は、その言葉に続けた。

「休んでいる暇は無いのよ、いつ爆発されてもおかしくは無いの、それに休息なら100階の時にも、しっ……」口うるさいかもしれないが、私は愚痴に正論を吐く。

「わかってますけどぉ」

 彼女は了承した風に魅せた用で、その実一切の了承をしていない、なによりの証拠として彼女の手が私を、お姫様とは無縁そうな怪力で動かそうとしない。

「とは言っても、この緊張状態を維持するのは、流石に体に毒だと思うが、どうだろう?」

 ボイスチェンジャーに通したようなメカメカしい男性的な音声でこちらに弱弱しく意見するのは、メカ、メカらしい見た目をした人型の巨体、勿論中身は人間。

「キャップ?そういう事は機械を通さず直接目を見て言ってきたらどう?そのマスク外せるのは知っているし、そもそもその外観で自信を持てないのはどうかと思うわよ?」

「ぐぅ」キャップはバツが悪そうに黙り込み、すぐさま違う方向を向いた。

 キャップもしくはキャプテン、鋼鉄のスーツを身に纏った、紛れも無い人間ちょっと気が弱いが頭もいいし頼りになる、なにより大人だ。キャップはいつもそうだ、言っている事は的を射ている事が多い、しっかり周りを見ている人間と言える、疲れが出てきているのも確かだ、けれどそれ進言するには、口調が弱すぎる、今はこうだからこう!と自信もって言うべきだと思う。キャップの言っている事は正しいのだろう、けれど休む時間が残されているかと言われれば、それはNOだ。タイムリミットが告知されている訳でも無いが、このイベントには間違いなくタイムリミットは存在する、私はそう確信できた。

「まぁまぁ、そう慌てる事はないさ、私の推理だと時間制限による爆破は無いよ、きっとね」どこからか出した紅茶を優雅に啜るのは、顔と頭の良さが売りの探偵風の女。

 このお気楽者の言っている事が嘘っぱちだったことは一度足りともない、ならば私がここで取るべき選択肢は一つ。

「そう、なら私にも紅茶を一杯」私も隣に腰を掛け紅茶を頂く事にする。

「「えぇー」」

 男の機械音声と、女のアニメ声が生んだため息と言う名の合作がここに誕生した。しかし彼女らも分かっている筈だ、このお気楽者が探偵っぽく推理として私達に披露したのだ、それが外れる事はあり得ないだろうし、外したら笑い話にも出来る。彼女の名前は明智、下の名前は知らない、語らないのだから知る術が無い。けれど明智という苗字に相応しく明智は探偵をしている、昔見た小説の名探偵からインスピレーションを得たらしい。明智曰く『探偵は全てを知っている、だが今話すべきではない』らしい。自身が飲んでいた紅茶を一度テーブルに置き、こちらに新たに注いだ紅茶を差し出しながら、今回のイベントの主催者に付いて明智は語り始めた。

「まず今回のイベント主催者改め、高層タワー乗っ取り愉快犯君、そうだな仮にBとしよう、彼もしくは彼女は、どうやら観察が趣味のご様子だ、私達の優雅なティータイムも覗きたいほど…ね」

「なんでBなんですかぁ?」お姫様は疑問に抱いたらしい、それに対する答えは明智が語るのは、恥ずかしかろうだから私が答える「ただのイニシャルよ、まんまね、まんま」

「うるさいなぁ、マリーこっちにおいで」明智はマリーと呼んだお姫様に手招きをした。

「良くわからないですけど、明智さんの言う通りにー、はぁーい」

 ゆるふわお姫様通称マリー。お姫様と言えばマリーだからマリーらしい、外国人なのは確かだが、それ以上の事は知らない。手招きされたマリーは明智の膝の上に対面で座り、ハグをして、そのままキスをするのではないかと思う程に顔を近づけ、猫の様に摺り寄せる。お姫様を自称するだけあって、顔は100点だし、ぶりっ子を発動しなければ、欠点らしい欠点はないマリーが、私とほぼ同じ背丈を持つ明智という女性的でありながら、男性らしさも持つ彼女が背の小さいマリーと抱き合えば、傍目にはカップルが衆目を気にもせずイチャつくそんな様に見えるだろう。

「すまない、用を足して来てもいいかい?」キャップは我慢していたのか申し訳なさそうに断りを入れる、もしくは居心地が悪くなったのかもしれない。

「キャップ…君は美人と美少女による生娘達の花園の中身が目の前で繰り広げられているというのに、目を背けるとはどういう了見かね?」

「生娘ww」

 明智の言葉に私は紅茶を噴き出し、気管に入ったのか咳込む、少なくても私を含めだが、その言葉を使ってはいけない人間の最たる例が、自らを生娘と自称するとは。

「なにかな?マイプリンセス?それともハニーがいいかい?」

「その呼び方は辞めて貰える?アナタの女になった覚えもないし?そもそもヴァージンでもない、アナタ達が生娘を自称しないでもらっていいかしら?」

「それは君もだろう?」

 それは、そう。そう言われるとは若干感じていた、けれど私は自身を生娘と自称はしていない、けれど反撃をしようとすると自爆する気がしたので、戦略的撤退。

「それにキャップ、君には仕事がある、だからあー…、トイレはその後で」

「そうか…そうか…」どうやらキャップは本当に用を足したかったらしい、悪い事をした。

「まぁキャップそう落ち込むな時間は幾らでもあるさ。話を戻す、Bは観察が趣味だ、あるいは観測まぁどちらでもいい、それだけは確定しているよ」

「何故、確定していると?」キャップは質問する、どうやらキャップの脳でも分からないらしい、ならば私とマリーが分からないのも無理はない、頭から煙を出していないだけヨシとする事にする。

「キャップ質問は最後まで聞いてからする様に、しかしそう疑問に思うのも無理はない、まぁと言っても簡単な話だよ、キャップはそのまま階段に照準を、そして……」

 そう言って明智は目配せをした、ただ一点だけを注視し、指を銃の形にする。私はすぐさま明智がやりたい事を把握し、ホルスターに入っている拳銃を右手に構える、けれど指の先は見ない、あくまで明智の瞳を見るだけだ、その方角を見るのに首を回すのが面倒くさい。するとハグをしていたマリーが首をこちらに向けて、あっかんべーと舌を出して見せる、それに対する私の回答は左手での投げキッス。集中できないから明智の方を向いておけと言わばかりにキスを送った、それと同時に明智の指の銃は自ら上に弾き、私の右手にある拳銃の撃鉄は降り、大した音もせず何かが壊れた音だけがこの空間に残った。


ここまで読んで頂きありがとうございました。

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