第6話
吉太郎のにおいを探し回る。
いつも親切な角のお店のおじいさんには「猫は好かん!あっちいけ、しっしっ」って言われた。
花屋のお姉さんは忙しい中、にこって笑ってくれた。交番の怖いおまわりさんは、表情をでろでろにくずして「にこー!」ってしてくれた。
近所がまるで違って見える。
ひとまずさっきの行き止まりに戻ろう。そう思って赤信号で待ってた時。向こう側の歩道を吉太郎が走って行った。
「にゃ!」
見逃すわけにはいかない。
ぼくはとび出した。
パー!
車のクラクション。
そうだ、赤信号だった。
迫る車。
どうしよう体が動かない。
ひかれる!
首の後ろに変なものがあたった。
ひかれたんだ、ぼく。
でも、痛くない。
あれ?
おそるおそる目を開けると、ぼくは反対側の歩道についていた。
「ふー、まったく」
寅次だ。
ぼくの首ねっこをかんで助けてくれたんだ。
「にゃにゃにゃ……」
めいわくかけちゃった。しょぼんとする僕の顔を舐めて、寅次はなぐさめてくれる。いいヤツ。
「気にするにゃ。それより吉太郎はこの時間はいつもあの家にいるにゃ」
近くに、赤い屋根の家。
確かに吉太郎のにおいがする。
庭にまわると…いた!
吉太郎が座り込んでいる。
「にゃー!」
宿題をかえせ!
吉太郎はふてぶてしい顔をこっちに向けた。
「かえしてやってもいいにゃ。でも条件があるにゃ」
「にゃ?」
「亜由美ちゃんと友達になるにゃ」
あゆみちゃん?
「あの子にゃ」
吉太郎は家の中に顔を向けた。
ぼくはびっくり。