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死神の守人  作者: 蘇 陶華
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その家、悪霊の住む家

市神に紹介されて行く家は、いわく付きの家だった。僕は、試されようとしている。

僕は、メモを片手に市神に言われた家に車で向かった。後から、八も来てくれると言う。いろんな意味で、八が来てくれるのは、安心する。会社のオンボロ車で、午後には、その家についた。いずれ市神も関わってくれると言う。まずは、状況報告と言ったところだ。同業者は、この過程を嫌う人がいるけど、僕は、平気だった。知らない家に入る時に、大体は、玄関を見るとわかってしまう。僕は、あと、神格的な所も確認する。というか、見てほしいと案内する誰かが、現れる。古い人達から、聞き取りを行い、どんな最後を望むのかを聞いて、イメージする。今回も、それがいいんだろうけど。市神が、絡んできた以上、そうでないんだろうな。。と、悲観的に考えていた。とにかく、気が重い初回の訪問。引きこもりの長男がいるのも、気になる。あれこれ悲観的な事を考えていると、町外れにあるバカでかい家の前についた。よくある人達のパターンで、庭木は、死んでいた。よく生い茂っているけど、何も語りかけてはこない。無言のまま、生い茂っており、僕の目には、緑というより、灰色に見えている。道の端っこに車を止めて、車を降りた。メモを何度も見返し、よしっと思っていたら、背後から、声がかかった。

「気をつけな!気をつけな!」

今、気配はなかったよね。僕は、思いっきり、飛びすさった。古い花柄のエプロンを身につけた白髪の老婆が、僕の顔を覗き込もうとしていた。

「戻れなくなるよ。あんたは、戻れない。昨日と明日は、違うよ」

灰色の目が、皺だらけの顔に埋没していた。口元からは、聞き取れないたくさんの言葉が、溢れていたが、聞き取れた言葉は、それだけだった。老婆は、後ずさる僕を追いかけてこようとしていた。

「あんた、だよ。あんたを待ってる。行きたきゃ行きな。戻れないよ」

状況から、彼女は、僕が行こうとしている医院の妻の様だった。認知症を患っていると聞いていたが、僕には、認知症とは、思えなかった。彼女の言うことは、僕の今置かれている状況に当てはまる事だったから。

「こんにちは。。」

僕は、恐る恐る声をかけた。

「ヒィ」

老婆は、慌てて耳を塞いだ。

「止めてくれよ。私は、何もしていないんだ」

オロオロと自宅の前を、行き来した。

「来たよ。。。ついに来たよ。うちに来たんだ。」

サンダル履きの、まま、自宅の玄関と道路を行き来する。

「帰れないよ。。帰れないよ」

そう言いながら、ドアノブをガチャガチャ回す。

「母さん!」

戒める声が2階から降ってきた。引きこもりと噂されている長男だった。

「ご飯だから、手を洗って。中に入るんだよ、わかるね」

僕は、目で挨拶を交わし、

「あの。。。市民センターから、きました。高野です」

気弱い感じの声をあげた。

「あぁ。。お待ちしていました。今行きます」

噂とは、異なり、しっかりとした受け答えをし、長男は、中から、玄関を開けた。老婆を奥に追いやり、意外と綺麗に片付いた居間に、僕を導いた。

「お待ちしていました」

長男は、椅子に腰掛けるように促した。

「意外と、思われているんでよう?」

僕の心中を察した様に、長男は答えた。

「引きこもり。。。て言うか、その方が都合が良いんですよね」

長男は、僕の両目をまっすぐに見つめていた。

「都合がいいって、いうか。。。それもあるんだけど」

奥の部屋を彼は、気にしている様だった。昔、医院をやっていたらしき建物は、自宅が棟続きになっていて、裏に医院がある設計になっていた。奥の部屋に外に出る通路があって、ちょうど食堂を挟んで、医院と自宅がある。今は、やっていない医院は、陰鬱としていて、市神の医院の2階と同じ雰囲気がしていた。その食堂の隣、つまり奥の部屋からは、カリカリと板を爪で引っ掻く音が聞こえており、長男は、それが僕に聞こえるのを気にしていた。

「今日は、まだ、気分がいいみたいなんです」

早速、本題に長男は、取り掛かっていた。僕は、この空間から、いろんな情報を集めているのに、長男は、待ってくれなかった。

「あまり、知る必要はないと思いますよ」

僕が、あちこちの探りを入れているのを知っている様子だった。

「さあ、行きましょう」

長男は、奥の部屋に行く事を促した。

「あなたしか、出来ない事だと、思うので」

「僕にできることなんて。。そんなないですよ」

僕は、謙遜して気弱そうに言った。何度も、ズリ落ちそうなメガネの位置を直して見せた。長男の後ろをついて、バカでかい家の廊下を進んだ。あちこちから、スススと、黒い煙の様な物が出たり、入ったりするが、何なのか、わからない。人の気配がしない。

「さあ。。入って!」

長男が、湿ったドアを思い切り開けると、中から、鼻をつく古い血液と粉の匂いがした。それと同時に、小さな鬼どもが、飛び出してきた。

「!」

思わず、声を上げそうになった。ドアの奥には、ベッドに横たわる包帯だらけの大きな芋虫が転がってる様に見えた。赤や黒い色が、所々に滲み、両手と思わしき棒が、2本。壁を行き来して、あの音を立てていた。

「あなたが、会いたい人でしょう?」

長男は、僕に優しく微笑んでいた。

僕は、何となくこの世界で、身を隠すように生きている。本当の僕を誰も知らない。

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