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死神の守人  作者: 蘇 陶華
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惨劇は、翼を広げて

紗羅の記憶は、もう遠い所にあって、自分が、何者なのか、忘れかけていた。人の魂を送り出す事を生業としているのか、存在自体が、否定的になっていた。

 その日、沙羅は全く何も考えず、訪問に行った。ちょっと癖のある一人暮らしの老女と聞いていた。信徒の事は、何も聞いていない。車を止め、あたりに迷惑を掛けないか、気にしながら、門をくぐった。いりとりどりの、花が咲き乱れていた。紅い薔薇や黄色、ピンクと華やかに、門を彩っていた。

「ふん」

沙羅は、鼻を鳴らした。薔薇は、好きではない。特に、紅いばらは、あの長い棘に傷つき、永遠に血を流し続ける錯覚があるから。

「こんにちは」

いつもの通りに声をかけた。余命は、いくばくもない。いずれは、自分の手に落ちる。いつまでも、この世にしがみつく魂を輪廻の輪に戻してあげる。沙羅は、いつの間にか、それを生業にしていた。いつからだったのk、もう、覚えていない。ただ、自分は、輪廻の輪に戻してあげるだけ。そう信じていた。自然の摂理に沿って、旅立つ人もいれば、本人の意思に関係なく、しがみつき、魂をすり減らし、怨霊化していく物達。自分は、自然に戻れるように、ちょっと手を貸すだけ。

「こんにちは」

返事がないので、玄関から中に入る事にした。独居では、よくある話し、中で、倒れている事もある。

「あぁ。。叔母なら、中にいます」

突然、奥の部屋から、姪と名乗る女性が顔を出した。気づかなかった。沙羅は、姪の顔を振り向きながら、見上げた。表情のない顔だった。

「具合が、悪いみたいで、ちょっと、見てあげて下さい」

半ば、強引に奥の部屋に、通された。あかいい絨毯が、敷き詰められていて、奥には、暖炉のレプリカが置いてあった。信徒らしいな。紗羅が、そう思った時、足元がに違和感を感じた。砂利を踏んでしまった様な、ジャリジャリとした感触があった。

「古いやり方だと、思わないで、下さい」

姪は、後ろからくると、隠し持っていた、白い筒で、床に何やら描き始めた。

「古典的ですけど、これが正道ですよね」

床に書かれた陣だった。後ろから、紗羅を奥の部屋に、誘導し自然に人の中に追い込み、陣を完成させた。白い筒は、

「塩なんです」

姪は、白い筒を少し、舐めてみせた。

「お前は?」

姪は、ふっと微笑んだ。

「見てほしいって、言いましたよね。まだまだ、続きはあるんですよ」

部屋の中央に、陣は描かれていた。レプリカと思われた暖炉は、紗羅が陣の中央に追い詰められた瞬間、炎が、舞い上がった。

「あなたが、ここにいるように、私もここにいるのよ」

紗羅が、目を細め、姪の顔を凝視した。

「その顔。。」

見た事のある。顔。声。それは。。

「市神のいる。。」

医院の看護師長。そう。市神の側で、寄り添う様にいた。

「やっぱり!」

市神は、油断ならない。

「そうかしらね。。。まだ、大丈夫なの?」

三那月は、細い指で、暖炉の上を指差していた。

「待って」

沙羅は、叫んだ。暖炉の上には、息も絶えだ絵の老婆が、太い梁に縛り付けられていた。

「市神め!」

沙羅は、吐き捨てた。

「勘違いしないでほしいわ」

三那月は、手の中に隠し持っていた細いナイフの刃先を、紗羅の頬に、すり寄せていた。

「あいつは、あいつ。全く、思ったほど、力はないの」

紗羅の頬から、うっすらと紅い血液が流れていった。

「まだ、紅い血が流れるのね」

「そんなので、私が、倒せると思うの?」

「思わないわ」

三那月は、胸のポケットから、市神が使っていた細いペンを取り出した。

「診察でも、使っていたけど。これって、何で、できているのか?わかる?」

香木だった。紗羅の顔色が変わった。

「悪く思わないでね。どうしても、確認したい事があるのよ。深ーい事情があるのよ」

三那月は、香木のペン先を、遠慮なく紗羅の胸に、振り下ろしていた。

いつまでも、執着を持ち続けると、人は、化け物になる。紗羅のこの世から、縁を切る白金の鎌は、魂を次の世代に送り出す。純粋な使命を沙羅は、忘れかけ、黄泉の使い魔となっていた。

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