牛頭と馬頭
紗羅を守ろうとする従者が現れる。沙羅は、どこからきたのか?なぜ、死を司る事をしているのか。
灰色の空間が広がっている。湿った匂いは、古い土の匂いだった。天井からは、昨日、降った雨が滴り落ちている。
「随分と、やられてしまったわね」
古い棺の上で、横たわる沙羅に、体格に良い女性が声をかけた。
「いくらなんでも、酷いわよ。沙羅は、気を遣って、無理に生魂を盗っている訳ではない。枯れ果てた魂を、あの世に橋渡ししているだけなのに」
細面の女性が興奮していた。
「まぁ。。。所長、そんなに怒らないで」
体格のいい女性がなだめていた。
「所長?ここでは、そんなふうに呼ばないで、いつもの通りに、呼んで頂戴!」
「いいのね?馬頭」
馬頭と呼ばれた女性は、怒りが治らない。
「いい?紗羅。もう、遠慮はいらないの。構わず、仕事を進めるの」
「こんな時に、仕事の話は、やめなさいよ」
牛頭は、紗羅の姿に目をやった。刺された痕が、崩れていくように、少しずつ、内側に向かって、砂が吸い込まれるように、崩れていった。思わぬ形で、香木を打ち込まれ、紗羅の姿は、途切れてしまった映像のように、脆くなっている。
「時間が。。。ないわ」
牛頭は、紗羅の髪に手をやった。
「私達だけでも、これを破らないと」
紗羅の手が、牛頭の頬に触れていた。
「無理よ。持ち主を倒すなんて」
香木を打った相手を、次の月が登るまでに、闇に葬れば、沙羅は、元の姿に戻る事ができる。出来なければ、このまま、闇に帰り、元の黄泉路に戻るまでだ。
「元に戻るまで、、元に戻れば。。」
沙羅は、ハッとした。
「母さん。。。桜子。。」
忘れていた熱いものが、紗羅の目頭を熱くした。
「私達に、任せるべきよ。」
牛頭は、紗羅の手を握っていた。
「まだ、終わりと決まった訳でないでしょ」
沙羅は、目を閉じた。いつの頃か、忘れていた遠い日の思いが、瞼の奥にあった。
「紗羅?」
母親と思われる声が聞こえる。妹の声も聞こえてきた。
「牛頭、馬頭。まだ、やらなきゃいけない事があるみたい。」
砂となって消えていく、胸に沙羅は手を当てて言った。
「どうして、ここにいるのか、わかってきたの。。」
紗羅の目が悲しく光っていた。
僕は、紗羅の事をよく知らないが、沙羅は、僕の事をよく知っているようだ。