鏡の向こうにいる人。
蓮は、包帯男に襲われた瞬間、体の中に電気が走るのを感じていた。何かが、発動されるのを必死に抑えていた。今、ここで、全てを表すわけには、いかないのだから。
「まぁ。。とりあえず」
頭を掻きながら市神は、僕の顔を見た。とりあえず、診察は、終了。訪問看護は、紗羅の所に依頼する事になり老人の皮膚状況は、まずまずと言った所だった。難治性の病気で加齢もあり、完治の見込みはないとの事だった。最後は、痣に全身が覆われて亡くなる。市神のお見立ては、そうだった。表面上は。
「そうじゃないだろう?」
僕の中で、誰かが声を掛けてきた。
「本当に、そう見えるのか?」
いや。。。僕は、首を振った。
「ここでは、そう納めよう」
僕は、答えた。あれは、長年にわたって蓄積されたあの老人に掛けられた呪。根本を解決しなければ、彼の魂は、救われない。このまま、呪に覆われ、寿命を終える。僕は、それを見送る仕事をこなすだけ。この世にしがみつく魂を送り出すだけ。
「じゃ。。僕は、これで」
僕は、市神に頭を下げた。
「蓮。帰るのか?」
八が声を掛けてきた。
「ここに来るときは、俺も同行した方が良さそうだな」
片手で、僕の背中を押した。
「状況は、把握できたので。あとは、調整して連絡します」
振り返り市神の顔を見上げた。
「ご苦労様」
含みのある笑いだった。市神は、笑っていた。
「期待した解決法とは、少し違いようだけどね」
何を意味して言っているのか。心の中で、小さな炎が燻っていた。先ほど、噛まれた肩が疼く。カリッと爪を立てて、鎖骨を描いていた。小さな鱗が落ちるのを見て、僕はハッとした。
「帰るぞ」
小さく八が呟き、僕の手を引いていた。少し慌てていた。
「あ。。おい」
市神が声を掛けたが、八は、無視した。もう、慌てすぎなんだな、僕は、そう簡単に姿を現さないから、安心しろよ。八。
市神は、神々しい奴。つんとすました顔には、嫌気がさす。あいつは、人間なのか、皮を被っているだけなのか、化けの皮を剥がしてやる。