第2語:出会い3
「僕と話がしたい・・・?」
「そう。まあ、まずは自己紹介から。僕は佐伯 克紀。よろしく。霜月君」
そう言って眼鏡をかけた三十代位の細型の男――佐伯は右手を差し出た。それに応え握手をする。
「そして、こっちが影束 涼司君」
「よろしくなー。霜月クン」
長い髪を後ろで結った二十代ほどの男――影束がおどけたように手をひらひらさせながら応える。
「そして最後が――」
「・・・雅國 寧音よ」
セーラー服姿の、悠と同じくらいの女子――寧音は佐伯の言葉を遮り、ちらりと悠を一瞥すると、腰ほどまで伸びた髪をたなびかせながら直ぐに窓に目を移してしまった。
「――と、まあこんな感じで・・・・・・えーと。どう言えば良いのか分からないんだけど・・・」
「・・・はあ。まどろっこしいわね、佐伯さん。私が言うわ」
歯切れの悪い佐伯に苛ついたのか鋭い視線と怒気を含んだ声で佐伯を押さえ
「単刀直入に言うわ。私達の仲間になりなさい」
「――――はい?」
あまりにも唐突な要求に素っ頓狂な声で聞き返してしまう悠。
「いやぁ、そりゃちょっといきなりすぎない寧音チャンよ」
「別に。佐伯さんがモタモタしすぎなのよ」
唐突な提案に影束と呼ばれる男が突っ込みを入れた。そんな影束に寧音はフン、と再びそっぽを向いてしまった。
そんな寧音と変わるように佐伯が、
「じゃあ簡単に言うね。僕たちはいわゆる人助けみたいなことをしていてね。今回は君をスカウトしにきた、っていう感じなんだ」
「・・・そりゃ結構なことですけど・・・・・・あなたたちがその、安全な人だって証明出来るんですか?」
悠の問いは至極当然だった。急に現れ「一緒に来い」と言われ警戒せずついて行く人はほとんどいないだろう。
佐伯も想定の範疇のようで納得するように頭を軽く掻きながら「まあ、そうなるよね」と呟く。
「悠くんの疑問ももっともだ。勿論僕たちは君を騙そうとしている訳でもないし拉致しようとも考えていない。けれど残念ながら僕たちが何をしても君は心を許さないはずだ。だから――」
空一面を覆っていた雲に隙間ができ、月明かりが病室を照らす。
「――君の目の前で証明しようと思うんだけど、証明出来たら、ひとまず信じてくれるかい?」
にこりと優しい微笑みを浮かべながら悠に答えを求める佐伯。不思議と悠は自分の中から疑心暗鬼の心が薄まっていくのを感じた。
「・・・・・・・・・・・・まあ、証明によりますけど、信用しても良いなって思えたら」
そう悠が前向きな考えを口にすると安堵の表情を浮かべながら「そうかい」と胸をなで下ろす仕草をする佐伯。
「それなら今日の所は失礼するよ。影束くん。よろしくね」
「はいはーい、と」
「じゃあ、次会うときは君に証明するときだと思うからそのときはよろしく」
そう言うと三人は病室の扉に向かった。
ふと思い出したように佐伯が悠に向き直る。
「このことは、他言無用で頼むよ」
そう言いながら扉を開け悠の視界から消えていく三人。
扉が異様に静かに閉まった気がした。
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謎の三人組がきたその日の夜。悠はある場所に来ていた。いや、正しくは戻ってきたと言うべきなのだろうか。
そこは一面の白い花と一本の木が生えている場所。そう、幸恵がいる、不思議な空間。
『いらっしゃい。霜月くん』
クスクスと笑いながら枝に腰掛けている幸恵。その表情は恍惚として、視線は悠の方に向かっているものの、まるで別の物を見ているようだった。
「・・・どうも。えーと」
『幸恵で良いわよ。霜月くん』
「じゃあ、幸恵さん。なんで僕はまたここに?」
『堅いわねえ。幸恵で良いって言っているのに』
意地悪くがっかりする仕草をみせながら幸恵はクスクスと笑った。
『そういえばあなた、病院に運ばれる前の記憶は見れた?』
幸恵が聞いているのは悠が初めてこの空間に来た時のこと。別れ際に幸恵は悠に何がおきたかのか見せると言ったのだ。
「いや、何も見てませんけど・・・?」
しかし何も見ること無く、気づいたら病院のベットの上にいた。
そのことを聞いた幸恵の空気が僅かに鋭くなる。
『そう・・・・・・。見てないのね。なら、今から一緒に見ましょうか。あなたの記憶』
「へ?・・・見られるんですか?」
『ええ。乗り気みたいだし、今から見せてあげるわ』
そう言いながら右手を挙げ――
ぱちん、
――と、小さく指を鳴らした。