どうしていまなんですか
初投稿です。至らぬところが多々あるかと思いますが、宜しくお願い致します。
生きていてすべてが教科書通りに物事が進むなんて思ってないけど、後1か月で結婚って時に婚約者の第一王子から婚約破棄を突き付けられるってどういうことかしら。しかも卒業パーティーの場ですることなの?わたくしの頭では理解できない。陛下とお父様は怒りでお顔が東国の般若のようになって、周りの方が距離を置いているじゃない。王妃様とお母様は……あら、倒れているのか騎士団の方が支えているわ。そんなわたくしは怒りや動揺、困惑より、呆れて何も言えないけどただ一つわかるのは、この目の前にいるお二人は頭がお花畑っていうことだけね。
「ロイズ王子、もう一度初めから、ゆっくりとおっしゃっていただけますか?少し周りが騒がしかったようで、わたくしの聞き間違いだと思うのですが、確認の為に。さあ、どうぞ。」
「ああ、何度でも宣言しよう!本日この場をもって、メアリー・ポートレ公爵令嬢と婚約を破棄し、ルネ・マルナー男爵令嬢と見つけた真実の愛によって婚約を結ぶことをここに宣言する!そして、貴様には今まで愛するルネにしてきた罪を償ってもらう!・・・これで聞こえたか?」
「ええ、ありがとうございます。素晴らしい発音のおかげで一字一句漏らさずに聞き取ることが出来ましたわ。婚約破棄の件についてはお受けいたします。今この時をもってロイズ王子の婚約者ではなくなりました。ただ、ルネ様にしてきた罪というものが全く分からないのですが、どのようなことでしょうか。」
「とぼけるとは白々しい。貴様はルネの持ち物を壊し、噴水へ突き飛ばしたりしただろう!挙句の果てには階段から突き落とすとは善人のやることではない!このような奴が王妃になろうだなんて誰が許すのか!」
何ひとつ身に覚えがないのですが、どうやらルネ様はかなりの演技派のようですね。殿下に隠れて目に涙を溜めて……わたくしにもできるかしら?なんてことは今はいいの、婚約破棄されたのだからここからは私のターンよ!こういう日が来なければいいと思っていたけど、準備しておいてよかったわ。さあ、どちらも耐えられるかしら。
「陛下、お父様。今までロイズ王子とルネ様へついていた影への報告書をここで読み上げてよいですね?」
「う、うむ。それが約束じゃったからな、メアリー嬢の気が済むまで……よいぞ。」
「ありがとうございますそれでは僭越ながらわたくし、メアリー・ポートレがロイズ王子並びに、ルネ様の約1年間の行動報告書(抜粋)を読み上げさせていただきますわ。」
お花畑のお二人は最初、わたくしの持っている分厚いモノを見て何のことかと思っていたけど、報告書と聞いてルネ様の可愛らしいお顔が歪んでいるわ、もったいない。まさかこんな分厚いとは思ってないから腕が重たくて最後まで読めるか心配ね。でも、これだけじゃなくて、あと5冊くらい同じようなものがあるから、さすがに引きますわ。
「では早速……
天文歴1954年5月24日 場所:学園の教室
早朝6:00 ルネ男爵令嬢が一人で登校。始業は9:00
校舎に入り、あたりを見ながらこそこそと教室へ。まるで見つかってはいけないかのように、慎重に行動していた。教室に入り、自分の机に向かうと、持参した教科書を取り出しナイフのようなもので切り裂く。その時「ひどい!誰がこんなことしたの!って泣きながら言えば完璧ね。そこにロイ様が来て、『大丈夫だ、俺が守るよマイハニー。』って言ってくれるはずよ!ああ、ロイ様に早く言われたい!そしてあの女の嫉妬にまみれた醜い顔を拝みたいわ!」と高笑いした。切り刻んだ教科書は机の中へ入れ、その後寮へ戻った。
天文歴1954年5月28日 場所:学園の第五廊下
ルネ男爵令嬢は授業が終わると真っ先に普段使わない第五廊下に向かった。
近くにはメアリー公爵令嬢の教室がある。メアリー公爵令嬢がご友人と教室を移動するタイミングを見計らい、隠れていたルネ男爵令嬢はぶつかり、「ひどいです!下級貴族がここを通ってはいけないだなんてだれが決めたんですか!」と騒ぐ。メアリー公爵令嬢は一言もそのような言葉は発していない。確認の為に、他の影にも聞いたが、同じ答えだった。
丁度ロイズ王子が教室から出てきて騒ぎに気付く。その後メアリー公爵令嬢をにらみ二人でその場を立ち去る。
天文歴1954年6月18日 場所:裏庭
ロイズ王子とルネ男爵令嬢が授業をサボり、ベンチに座り接吻。(10分間で25回)
ロイズ王子「メアリーとはいつか婚約破棄をし、ルネと結婚したいと思う。きっと辛いだろうが共に歩んでくれるか?」と戯言をはいた。ルネ男爵令嬢はその問いに対し「もちろん、!ロイ様と一緒の未来しか見えないわ!嬉しい!」と抱き着き、熱い接吻を交わす(2分間)
天文歴1954年6月20日 場所:王都某所
ルネ男爵令嬢がサイモン・オキドール公爵子息と密会。
互いに御付きのものはいないようで、建物の隙間に隠れ(自主規制)を行う。(30分間)
その後満足そうに出てきた二人はオキドール公爵家御用達のホテルに入り一夜を過ごす。
ホテルから出たのは翌21日昼過ぎ。
天文歴1954年7月……
…………
……まあ、私が予想していたことより凄いことをなさっていたのですね。ロイズ王子、この時点で真実の愛とやらは本当か不思議に思います。」
「なっ!そんな報告書嘘っぱちよ!でたらめもいいところだわ!ロイ様ぁ、メアリー様はいつもああやって私を虐めるんです!私へのいじめが自作自演とか、それにサイモン様とあんなことするわけありません!信じてください!」
わたくしが感情を込めずに報告書を読んでいる間殿下は「嘘だ!」「そんなもの誰が信じるか!」とうるさかったけど、段々と焦ったように必死に弁明するルネ様を見て、殿下はこれが真実だって悟ったみたい。だって顔が真っ青を通り越して白いんですもの。ああ、面白い。多分殿下も薄々となにか思い当たるところがあったのだろうけど、ルネ様に入れ込みすぎて小さな違和感は見て見ぬふりしていたのね。内容はこれからもっと凄いけど、ほとんどが口に出しては言えないようなことばかりだからこのあたりで終わりましょう。流行りの恋愛小説にも書いていないような内容、結婚もしていない学生の身分で娼婦のような行動……本当に現実で起こっていたことなのかとわたくしも驚くわ。
「さて、他にもいろいろしているみたいですが、これ以上は私の口からはとても言えるような内容ではないのでできれば終わりにしたいですわ。ロイズ王子、この報告書はどう思われますか?」
「……それは、嘘かもしれない……が、王家直属の影となれば真実なのだろうな。俺は、目先の幸福に溺れていたようだ。父上、母上、俺……私は継承権を放棄し、メアリー嬢を侮辱した事とこの晴れの場を壊してしまった責任を取りたいと思います。つきましては平民となり、ルネと真実の愛は無いが一生を遂げようと思う。」
「はぁ!?ちょっと、ロイ様!?さっきと全然違うじゃない!!なんなの!あれだけ抱かせてやったのに!あんたが王族じゃなかったら意味ないのよ!この私がなんで平民と結婚しなきゃならないの!冗談じゃないわ!だいたい休日に私が誰と何をしようと勝手でしょ!!そんな報告書は名誉棄損よ!!訴えてやるわ!!」
「そこの男爵令嬢に猿轡を。さて、ロイズよ。お前は片一方の言い分だけを信じこのようなことをしでかしたのだな?しかしなぜ急に心を改めたのだ。」
知らない間に陛下が壇上から降りて、近くにいらしてたわ。いつ見てもダンディーでかっこいい……あら、今はそんなことを思っている場合じゃないわ。私としたことが。口を塞がれ、騎士に拘束されても尚喚くルネ様はある意味凄いとしか言いようがないくらい抵抗しているわ。見習った方がいいのかしら。
「それは、周りの目、空気、そしてメアリー嬢の毅然とした態度。この空気の中、今まで聞いてきたルネの言葉だけがどうしても違和感で、信じられなくなってしまった。私はもっと、もっと早くからメアリー嬢の言うことを聞き入れていれば、このような間違いは起きなかったのでしょう。」
「うむ、その通りだ。王になるためには、周りの意見を柔軟に取り入れなければならない。しかし、悪意ある意見もある。今回のように目先の事にばかりとらわれていると痛い目を見る。お前はまだ若い。失敗も王への道のりに必要なことだ。」
「父上……」
「よって、ここでロイズと男爵令嬢の罰を下す!ロイズは継承権は変わらず保持の上、いちから鍛えなおす意味を込め、2年間東の砦にて訓練をすること。その間王都への帰還禁ずる。そこの男爵令嬢は、子を宿していないか確認し、男爵家と縁を切ったうえで国外追放とする。金輪際ムレイナ帝国に踏み入ることは許さん。なお、今回の事は包み隠さず近隣諸国へと通達する。他の国で同じようなことをしたら次は生きていられると思わない方がいい。」
こうして、卒業パーティーで起きた教科書とはかけ離れた出来事は幕を下ろした。
その後ロイズ王子はとてもきついと噂の東の砦に行かれ、きっと戻ってくる頃には心も体も成長していることでしょう。ルネ様は隣国へ行き懲りずに同じようなことをしでかしあっさりと処刑されたと風のうわさで聞きましたわ。このことはロイズ王子の御耳に入っているかはわかりませんが……
そんなわたくしは、一度婚約破棄された身ですが、幼馴染の公爵家へ嫁ぐことが決まりましたの。実はずっとお慕いしていたので、天にも昇る思いで毎日が幸せですわ!