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01.召喚系異世界転移ですってよ 前

「うぅ……。ここは?」


 未だにちかちかする目を隠すように辺りを見回せば、ここはどこか質素ながらも複雑な模様が刻まれた装飾が目立つ大広間だった。

 具体的な描写は語彙力がないので控えるが、最近よく読む異世界転移漫画に出てくる召喚の間のようだ。

 様々な異世界転移漫画に出てくる召喚の間の画像をを並べ、今、わたし――青葉がいる場所をまぎれさせても違和感がないだろう。


「おお、聖女様の召喚に成功したぞ!」


 ――テンプレ……テンプレだ!


 わたしの目の前に立つ、ローブを着用した怪しげな男の言葉に、わたしは軽い感動を覚えていた。

 覚えていた、が。


「や、帰ります」


 わたしはコンビニの袋の持ち手を握りしめながら言った。


「えっ」


 目の前の男が動揺したのが分かる。わざわざ召喚した相手の第一声が帰る、という言葉だったら、まあ慌てるのも分かるか。

 でも、今のわたしには、相手を慮るほどの時間的余裕はない。


「えっ、じゃありませんよ。帰ります。わたしもね、忙しいんですよ。あと二時間で『真剣武闘』のイベント終わっちゃうんですよ。あと五千ポイントで新実装キャラが手に入るのに!」


 そう、わたしはソシャゲのイベント終了時刻に追われていた。

 あと五千ポイント。されど五千ポイント。

 その五千ポイントがどうしても間に合いそうになくて、近所のコンビニに課金カードを買いに走ったのだ。

 こんなところでもたついている暇なない。


「いや、あの……」


「これを逃すと次の復刻いつになるか分からないんですよ。責任取れるんです? ええ?」


「せ、聖女様? この世界の……」


「ああ、ああ、そういうの結構です。間に合ってます。最近多いですよねえ。わたしには知ったこっちゃないですけど」


「ええ……」


「わたしにとってはね、知らん世界より『真剣武闘』のイベントの方が重要なんですよ。だから早く帰してください!」


 男が余計なことを言えないように、わたしはまくしたてるように言葉を並べる。異世界転移なんて、ソシャゲイベントの脳死周回のお供に読む漫画だけで十分なのだ。

 帰せコールをしていると、男の後ろから、なんだかとても偉そうな青年が出てきた。


「オタク、という人種は、異世界召喚に憧れを抱いているのではなかったのか?」


 呆れてものも言えない。オタク人口何人いると思ってるんだ。確かに憧れがないと言えば嘘になるが、実現してほしくないタイプの憧れだ。

 こうなったらどうしよう、という妄想を楽しむものであって、本当に実行されたら困る。


「……誰です、そんなアホなことを教えたのは」


 わたしは思わず、ため息と共に言葉を漏らした。

 青年は不思議そうな表情を崩さない。

 先ほどのいかにもモブっぽいローブの男とは違い、きらきらとしたイケメンさんだ。

 これが世に出ている異世界転移ラノベだったら、この人との恋が始まっちゃうのかもしれない。

 ま、わたしの推しの方が断然かっこいいので、みじんもときめかないんだけどね!


「ホーニル国の勇者はオタクという人種を自称しているが、淀みの浄化に積極的だと聞いている」


 なるほど、先人がいたのか。


「それ、単に人生やり直したかったんでしょ、きっと」


 そっちに頼めよ……と思ったが、こことは別の国っぽい言い草だ。国家間でわたしの知らない問題が何かあるのだろう。


 わたしには関係ないがな。


「わたしには特にそういう願望ないんで。強いて言えば早く帰りたい。強いて言わなくても帰りたい。早急に、迅速に」


 一秒でも早く帰りたい。現実世界に戻ったら時間が進んでませんでした、というパターンならまだ許せるが、同じように時間が進んでいたら許さない。イベント終わってたら一生恨む。


 それは困るな、と言う青年に、わたしは思わず舌打ちをした。


「あなた方が困ろうが喜ぼうが、わたしには一切関係ないと思うんですが。勝手に呼んでおいて、素直に言うこと聞くと思ってるなんて、思考回路どうなってんですか?」


 わたしのわざとらしい、棘のある口調に、何か言い返そうとしている青年だったが、その言葉は派手な電子音にさえぎられる。


 この音は――スマホのアラーム! イベント終了時間まで残り一時間半を知らせるためにセットしたアラームだ。

 課金したとしても、五千ポイント稼ぐために最低でも一時間はかかるため、気が付かないうちに取り返しのつかない時間にならないように、家を出る前にあらかじめセットしておいたのだ。


「やばい、帰らなきゃ! 本当に間に合わなくなる! なんかないの、こう、ステータスとか、ウインドウとか、そういうのオープンしてくれ!」


 テンプレならあるだろう、と思って叫んでみると、本当に、目の前に半透明のステータス画面が出てきた。テンプレ万歳!

 触ってみると、スクロールされてぬるぬる動く。タブレットとかと使い方は変わらないようだ。

 名前やら年齢やら、職業にレベルなど、いろいろ書いてあるがじっくり読む気にならない。そんな余裕はない。

 ステータス一覧の中に、魔法、という項目があった。

 どうやらテンプレよろしくチート能力があるようだ。ずらずらと並んでいる魔法の量はかなり多い。どれもわたしが使えるのだろう。

 オタクとして、とても興味深いし好奇心を抑えるのは難しいが、一つ一つ吟味している時間はない。

 そして、その中にわたしが認めていた魔法は存在した。


「あった! 強制帰還! ハイ帰る、オタク帰るよ~! つけっぱなしで『真剣武闘』開いたままのパソコンが待ってる我が家に帰るよ! さようならッ!」


「え、あ、おいっ!」


 強制帰還の文字を見つけてタップすると、カッと辺りが光に包まれる。

 まぶしさに一瞬目をつむり、光が引いていくのと同時に目を開ければ、そこには見慣れた部屋があった。2LDKのマンションの一室――我が家だ。


「ひゅう、最高! コンビニからの道もショートカットできた! さーて課金課金……魔法のカード様~っと」


「おい!」


 がさごそとビニール袋を漁っていると、声を掛けられる。ここはわたしの部屋で、誰もいないはず……と振り返ってみると、さっきの名もなきイケメンがいた。


「……えぇ……」

 

 なるほど? この状況、強制帰還に巻き込んでしまったか?

 面倒くさい展開になりそうで、思わずため息をついてしまった。


「ここはどこなんだ!」


 焦りからか、怒鳴るイケメンに、わたしは投げやりに答える。


「わたしの家ですよ。強制帰還って聞いてたでしょ?」


 まさか向こうの人を巻き込むとは思ってもみなかったけれど。

 まあいいや。今は『真剣武闘』のイベントが最優先である。


「終わったら話聞きますし、お茶くらい出しますから、あと一時間待っててください」


 わたしは課金カードのコードを入力しながら、イケメンには目もくれずイベントを再開した。なんだか騒いでいるが、一切無視だ。

 結果、イベント報酬である新実装キャラの赤木柄くんが無事手に入ったことはここに記しておこう。

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