アレクシスとレベッカの結婚初夜
本編第四章
12.初夜(仮)(136部分)裏側のお話
アレクシスは湯浴みを済ませ、ソファに深く身を委ねるとサイドテーブルに置かれてあった酒を呷った。
不誠実だと分かっているが、結婚式では自らの妃を横にしてアイリスの美しさに目を奪われていた。
合同で行った結婚式、立ち位置の関係でレベッカが左隣、アイリスが右隣となった。
疑似的にアイリスとの結婚式を行ったような気分になり、自己嫌悪に陥る。
――私は自分の妃に誠実でなければならない。
そのように育てられたのだ。
完璧にこの気持ちを隠し問題なくやっていけると思っていた。
が、焦がれる気持ちというのは思いの外始末に負えない。
自分の意志に関係なく育ち、年々悪化している気がする。
目を閉じ思い浮かぶのはレベッカではなくアイリス。
気持ちが無くても抱くことができるのは経験済みだ。
レベッカとの初夜を迎えるにあたって問題は何もないが思い出すのがアイリスばかりとは不誠実にもほどがある。
アレクシスは自嘲するように笑い、グラスを置いた。
男性恐怖症気味の妃だ。
さぞかし怯えているだろう。
あまり待たせてしまうのも逆効果かもしれない。
アレクシスは妃との寝室への扉を開いた。
「アレクシス様」
ベッドに腰かけていたレベッカが立ち上がった。
「待たせた…か?」
アレクシスはレベッカにそっと歩み寄る。
「いえ…あの、少しだけお話をよろしいですか?」
「なんだ?」
ここへ来て怖気づいたのだろうか。
そう思ったのは一瞬だった。レベッカの目には覚悟を決めたような力強さがある。
促されてベッドの横のソファに腰かけた。
レベッカが対面に座る。
「あの、アレクシス様のお気持ちがお姉さま…アイリス様にあるのは分かっています。
わたくしでは代わりにならないかもしれませんが、どうかアイリス様と思って」
「は?!」
アレクシスはソファにもたれかかっていた背を起こし前のめりになってしまう。
「何を…」
レベッカはふふ、と可笑しそうに笑った。
「男性が苦手になってから、逆によく観察するようになったのです。
よく見ているわたくしが気が付いただけで、他の者は何も感じていないと思います。ご安心ください」
…どうやらレベッカを見くびっていたようだ。
「…他の女に気持ちを寄せる男に抱かれるのは嫌ではないのか」
申し訳ないがたとえ嫌でも王太子妃になった以上は受け入れてもらわなければならないが。
「わたくし、3年生で婚約者に内定するまでは研究者になるつもりでした。
結婚はそのうち出来ればいいか、くらいの気持ちで…。
正直今でも別にアレクシス様を愛している訳ではありません」
これまでずっとアレクシスに対しておどおどしていた者とは思えない物言いだった。
思わずぽかんと見つめてしまう。
「わたくしはお姉さまと一緒にこの国を支えるために、王太子妃という職業に就いたと思っています。
たとえ夫が他の女性を愛していようとも、わたくしが妻であると認めて下さる限りは尽くします」
「…そうか、私も国を支えるため王太子という職に就いたようなものか。
つまり君は国を支えるための同士といったところだろうか」
こんなに面白い女性だったのか。
アレクシスはくくっと笑いがこみ上げる。
そのまま立ち上がり、レベッカに手を差し伸べた。
「気を遣ってもらって悪いが、アイリスは誰かが代わりになるような存在ではない」
「確かに…代わりになろうなどおこがましかったですわ」
レベッカがアレクシスの手を取り立ち上がった。
「私はアイリスを愛している」
アレクシスはレベッカの目をみてはっきりと告げた。
「はい、それに気が付いたからこそ貴方を受け入れようと覚悟ができました。
全てをわたくしに向けられるのは恐ろしいですもの」
「…君は変わっているな」
「誰にも言わず気持ちを隠し通している殿下ほどではありません」
そう言いながらその指先が震えていることに気が付いたアレクシスは、強くレベッカの手を握り締めた。
「気持ちはアイリスにあるが、体は今後君だけに捧げることを誓おう」
「喜んでいいのか分かりませんわ。
大体そんなものを捧げられても、わたくしでは満足…っ」
アレクシスはまだ物言うレベッカを腕に閉じ込め、その口を塞いだ。
かなり変わった二人の愛の形。