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RANK-9  『 それぞれの思惑 』



 ゴウとレジデンス、二人の誘いを断って、クリフが街中を逃げ回ったのが2週間前、あれから三人の姿を見ていない。


 ケイトとマナミ、そしてリンカはいつものように要領悪く、ポイントを稼げなかった冒険の反省会を兼ねて、いつもの食堂で遅い昼食をとっていた。


「なんなの、あのオッサン!?」


「まさかの夜逃げだもんね。完了報告もできないから、前払いの報酬だけ、エミーちゃんも融通聞かせてくれてもいいのにね」


団体の規定で、依頼主の完了報告がないと、ポイントは発行されない。


 もちろん不正や何かの理由で報告ができないときは、基本ポイントも倍にして付けてはもらえるので、骨折り損とまではいかないが(お金も貰ってるし)。


 せっかく仲間も増え、今まで以上に好条件の依頼を受けられるようになったというのに。


 リンカはその職業など、色んな要素から、アドス登録冒険者第四位の“クアッテ”にランク付けられた。


 お陰でこの辺りでは最高ランクの狩場、“腐界岩の森”にも行けるようになった。


「ロックボア8匹よ、もし私達二人だけだったら、1匹も生け捕りなんかにできなかったよ」


 リンカの持っていた麻痺薬がよく効いてくれて、お陰でケイトは傷一つなく魔物の足を切り落とせたのだ。


「依頼主より高値で買い手が見つかったんだからいいじゃない」


 冒険者としてはまだまだだが、懐具合はいつも潤っている三人の昼食はなかなか賑やかな食卓で、とても三人分とは思えなかったが、その大半を担当していたケイトが、最期のお肉を飲み込んだ時に、彼の者は店の中に飛び込んできた。


「クリフ!?」


 その姿を久しく隠していた男達の一人は、その声を麗しの君と知り、一直線にテーブルまでやってくると、乱れていた御髪を整えて笑顔を見せた。


「やぁ、マナミ! こんなところで出会うなんて、何という奇遇。正に運命の……」


「ここにいたか!」


「ゴウ?」


 息を切らせながら、アピールを忘れないクリフを追って、二人の男も食堂に入ってきた。


 慌ててケイトの座る椅子の影に飛び込むクリフ、当然の事ながら今さらそんな行動を取ってみても、二人が見逃してくれるはずがない。


「素直に隠れていればいいものを……」


「いやしかし、マナミを前にあまりみっともない真似はできないだろ」


「随分滑稽だよ、今のあんた」


 腰を折り尻を突き出した姿は、本当なら愛しの魔法少女には見られたくはなかったのだろうが……。


「てめぇー、特訓中になに逃げ出してるんだよ」


 バン! と手の平をテーブルに叩き付けて、大きな音をさせるゴウは、ケイトの後ろに隠れたままのクリフに飛びかかろうとした。


 それを見てクリフはケイトの肩を掴み、ゴウとの間に挟んで盾とした。


「特訓?」


 三人の動向を見守る形で、レジデンスの横に移動したマナミが聞いた。


「そう、彼はなかなかいい資質を持っているよ。だから二人で戦闘訓練をしていたんだ。だけど戦いのノウハウを全く持っていない彼は、結構痛い思いをしているもんだから、俺達がちょっと目を離した隙を付いて逃げ出したんだ」


 そう言われて改めてクリフに目をやる。


 見ただけでは魔力の変化を知ることは出来ないが、明らかに体格が変わっているのが分かる。


 透き通るような白い肌は日に焼けて、以前よりも男らしく見える。


 魔術そのものは持って生まれた才能で、特に何もしなくてもかなり強力な術を発揮できる。とエミーリンからも聞いた事がある。


 その所為で努力を怠り、今の彼を作り上げた。


 彼の自賛振りは誰にも直せないんじゃないかというくらいだった。


 それを逃げ出したとは言え、この軟弱男が2週間も脳筋そうなゴウ達の特訓に付いてきたのは驚くばかりだ。


「なかなかセンスはいいんだけど、教えているゴウがね、ちょっといいのをもらうとすぐに本気出しちゃうものだから」


 クリフはこの2週間で8回は死にかけたらしい。


 ゴウとレジデンスは職業柄、怪我を治すことはできないので、その度に薬草をふんだんに使って、なんとか復帰させてきたのだそうだ。


「さすがにゴウが奥義まで出しちゃったもんだから、本当に心臓が止まっちゃって、それを何とか蘇生したら、全速で逃げ出したんだよ」


 それはクリフでなくても逃げ出すだろう。


「奥義って? どんな技を使うのよ」


 闘士のゴウが使う奥義、剣士としてまだまだ未熟だと自覚するケイトにとっては興味をそそる対象となる。


「別に、俺の実家が道場を開いていて、ガキの頃から鍛えられてきたから、いつの間にか身に付いていたのさ」


「彼は王宮師団の剣術指南を先祖に持つ、由緒正しい家の出なんだよ」


「レジデンス!!」


「あぁ、この話はしない。だったね」


 今のはわざとだ。ゴウが嫌う話をそれと理解ってしたのだ。


 ゴウの剣幕が凄かったので、突っ込んでやろうと思っていたケイトも、それ以上は何も聞けなくなった。


 それでもいつかは「奥義」について詳しく教えてもらおうと、女剣士は心に刻んだ。






 結局クリフは二人の特訓を拒絶し続けた。


 話が一向に進まなくて、レジデンスは一つ提案を出した。


 それはクリフが今まで彼らに解いてきた「才能について」、それなら魔力対決で、その実力を示してもらおうというのだ。


 もちろん魔法対決ではゴウもレジデンスも口出しは出来ない。


 そこでマナミに協力をお願いした。


「なんか嫌だなぁ」


「だけどこのままじゃあ、もめ事も解決しないし、私達もう完全に巻き込まれているよ」


「でもなんで私なの? 魔法対決ならリンカでもいいんじゃないの?」


「私の術は厳密には魔法とは違いますし、実際戦ったら、やっぱり体術は使っちゃうと思いますよ」


 リンカだけでなく、ケイトと戦っても、やはりクリフは納得しないだろう。


 嫌だと言ってみても、彼らがこの街で頼れるチームは、ケイト達しかいない。


 出会い方はどうあれ、ケイトもマナミもリンカもゴウやレジデンスのことは気に入っている。できる限りの協力を惜しむ気はない。


 クリフがもし本気で修行すれば、歴史に残ることは無くとも、王宮に召還されるくらいの魔術師になれると踏んだゴウとレジデンスとしては、なんとしても彼を一流の冒険者にしたいと思っている。


 その為にもぜひともクリフには、膝を折って土を付けてもらわないとならない。


 マナミも冒険者としての道は浅いが、上級冒険者に引けを取らないくらいに魔力は高い。


 実戦経験も彼女達のランクからすれば、かなり多い方だ。


 マナミがもし負けても、それは仕方ないとレジデンスは言ってくれる。


 ゴウには負けた後の事を考える気はないようだが、勝負というフレーズに胸を躍らせているのは間違いない。


「彼も君となら対決してもいいって言ってるんだ」


 後はマナミの気持ち一つと言うことになる。


「……しょうがないなぁ」


 かなり渋っての返事だったのだが、それ以上に彼女を不機嫌にさせる事柄が、絶対出し惜しみしていたレジデンスの口から出てきた。


「やってくれるのか? ありがとう。……ただ一つ、彼が勝った時に叶えてもらいたいことがあると言うのが、君との対戦条件としてあるんだけど」


 その条件、マナミには確認する必要の無いものだった。

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