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RANK-8  『 集う冒険者 』



 リンカが二人の下に転がり込んできて二日が過ぎた。


 本来の彼女の与えられた試練は、大陸の冒険者とともに一人前の“シノビ”になるべく、世間に身を置けと言うことだった。


 二人にはシノビという物が何かは、まだ全く分かってないが、リンカの実力を知る二人に、彼女を拒む理由は特になかった。


「お二人のお仲間に入れて欲しいのです」


「別にいいわよ。ねぇマナミ」


「うん」


 と二つ返事。


 人格に多少の問題があっても、二人がリンカをどちらかと言うと好意的に思っている事が、その申し出をすんなりと受け入れる決め手となった。


 だがここにも一つ問題があった。


 二人借りている宿には余分な部屋がない。


 家賃もそこそこで、それなりの調度品もあるここを引っ越すつもりもない。


 シャワーを処分することも考えたが、それはリンカも気に入っているので片付けない方向で。


 そこで同じ宿に空き部屋がないか聞きに行こうとするケイトを、リンカは制した。


「気になさらないで下さい。お二人のお部屋にちゃんとスペースを見つけましたので」


 そう言った彼女がいきなり屋根裏に消えたのが昨日。


 音もないまま半日が過ぎて姿を見せた彼女が一言。


「私の部屋が出来ました。これからよろしくお願いします」


 その言葉に眉を顰める二人は、リンカに縄梯子を下ろしてもらって、屋根裏を覗いた。


 確かにそこには一つの小綺麗な部屋が出来ていた。強いて言えば天井が低すぎて、立つことが出来ないのは不自由なのだが、面積だけ言えばどの部屋よりも大きい、二人が借りている部屋の間取り分だけあった。


「ここまで隠密にこれだけの物が作れるなんて、……ニンジャって怖いわね」


「で、でもこれで彼女もこの部屋に住めるじゃない。お家賃も一人分が少なくなるし、生活も楽になるんじゃない?」


「マナミってそう言うところ凄いね」


 あきれ顔のケイトだったが、しばらくして「まっ、いいか」と言うと朝からお風呂へと姿を消した。


 誰も宿主に見つかった時の事を考えていないが、見つからなければ問題はない。


 今日は新しい仕事でお昼から出かけることになっている。


「そろそろ沸いたかな?」


 黒精石を妖精の粉を使って精製することで作り出せる魔石。


 火の精霊の加護を受けた火の魔石を、水を張ったお風呂に入れればお湯が沸く。


「先にお風呂もらうね」


 おそらく今日は戻ることは出来ないだろう。


 昨晩入ったばかりだが、やはり可能な限り毎日入りたいと思う。


 マナミもリンカも後で入るつもりで、お風呂が空くまでの間、寝室でお喋りをして待つ事にした。


 寝室の扉を閉めずにいると、心地よさそうなケイトの鼻歌が聞こえてきて、二人とも自然と笑顔になる。


「へぇ、白鎧騎士伝説ですか?」


「そう、白銀のフルプレートアーマーで身を包み、美しい騎士様だったんだって」


 刀身が目映く輝く光の剣を持ち、黒い独特な杖から無詠唱で殲滅級の火系統魔法を放ったとされる。


「しかもしかも、精霊魔法使いでありながら、熟練の魔導師でも使い手のなかなかいない変身魔術で飛竜に変化までするんだって!」


 マナミの興奮は収まらない。


「飛竜は光の尾を引いて、魔界最強の霊獣を打ち負かせたとされてるの」


 その冒険の調べを書き残したのは、白騎士と旅を共にした女魔法使いだという。


「他にもいろんな逸話が書かれた書物があるんだけど、読んでみる?」


「はい何れは、私はまだこの国の文字が読めませんので」


 しばらく談笑を続けているとケイトの鼻歌が止み、扉が開く音がした。


「ケイちゃんまた裸じゃないでしょうね」


 ケイトはいつも何も着ないで、部屋の中をしばらくウロウロする。


 女同士でも恥ずかしくなるからと、マナミはいつも注意するのだが、ケイトは一向に聞き入れる気がないらしい。


 今日も肩からタオルを下げるだけで、全く何も身にまとっていない。


「もう早く服を着なさいよ、ケイちゃん! リンカ、先にお風呂入って」


 ケイトを叱りつけ、リンカにお風呂を譲るマナミの耳に、また扉が開く音が聞こえてくる。


「だから俺は前から魔法を使える奴をだな」


 男性の声? 距離から言って間違いなく隣室からだろう、その後には沈黙が続いた。


「どうした?」

「どうしたの?」


 壁の向こうから別の男性の声が聞こえ、扉を閉じる音がそれに被さった。


 寝室から顔を出したマナミの声にもバタンという音が被さる。


「ケイちゃん、さっき誰かの声がしなかった?」


 返事のないケイトに、マナミは彼女の表情が見て取れる位置に移動する。


「ケイちゃん?」

「なんなんだぁ~~~!?!?!?」






 リンカがお風呂に入っている間に、ケイトはマナミを連れていつも利用している食堂に行った。


 何か気に食わないことがあると、ケイトはここに来て馬鹿食いするのだが、マナミは食事前にお風呂に入りかったものの、ケイトの一大事に、流石に断ることができなかった。


「でも今回のはケイちゃんも悪いよね」


 ずっと怒鳴り続けていた、ケイトの罵声が一段落した辺りで、マナミが容赦なく釘を刺した。


「これに懲りて、裸で部屋の中を歩き回るのはやめるのね」


 最後はシュンとするケイトだったが、注文した物を全て平らげているうちにいつもの調子を取り戻す。


 そこにタイミングを見計らっていたかのように、やってきた男性二人組。


 その声に覚えがあり二人はそちらを向いた。


「あぁ~~~!?」


 ケイトは辺りを憚ることなく男性の一人に指を突きつけた。


「おぉ! あんたらも昼飯か?」


 マナミともう一人の男を取り残して、二人は指を差しあった。


「いや、今朝この街に着いたとこなんだが、部屋を一つ間違えてな」


 何故か断りなく相席してきたケイトが睨む男と、恐縮しながらマナミに断りを入れる男性を迎えて、改めて食事を取る四人。


 と言っても食べ終わっているケイトとマナミは食後のお茶を飲み、二人の男性は豪快な量を食べ始めた。


 名前はケイトが未だに睨んでいる方がゴウ、その連れがレジデンスと言った。


 二人とも19歳なのだそうな。


 ゴウは綺麗な銀髪を長髪にして、首筋辺りで括っている。


 レジデンスはリンカのような黒髪を刈り上げているが、その髪が針山のように立ち上がっているのがマナミには面白かった。


 ヤンチャ坊主そのものなゴウに対して、落ち着いた風貌のレジデンスには目がない。


 いや本当に無いわけではないが、注意してみないと開いているのかいないのか、全く分からないくらいに細目なのだ。


 そんな二人がこの町に来たのは、この町が仕事には事欠かないと聞いて、それと新たな仲間を求めているというのだ。つまりは冒険者である。


「ふーん、魔法を使える仲間を捜してるんだ?」


 何となくレジデンスと仲良くなったマナミが、二人の目的にちょっと関心を向けている。


 まださっきの事故が許せなくてブツブツと呟きながら、男を眺めていたケイトだったが、ゴウの気持ちのいい食べっぷりに、ちょっと角が取れてきた。


 しかし今の話を聞いて突然に満面の笑みを向ける。


「それだったら心当たりあるよ。ねぇマナミ」


 急にフリーの魔法使いか魔道士を探していると言われても、そう簡単に見つかるものではない。


 とため息を吐くレジデンスにケイトはそう言った。


 それを聞いて勘を働かせて慌てるマナミだったが、今まで食べることしか頭になかったゴウがいきなり食いついてきたので、引っ込まざるをえなかった。


「クリストフ=ロングラントって言って、なんでも聖都ボレニア王宮騎士団の魔道士長だった、あのファランツ=ロングラントの子孫らしいよ」


 マナミは項垂れて深い嘆息を吐いた。


 ゴウはクリフの居場所を聞くと、皿の残りを喉の奥に押し込んで、レジデンスに一言、「行くぞ」と言って出て行ってしまった。


 したり顔で二人を見送るケイト、マナミも支払いを済ませて出て行く彼らを見送った。


「どう言うつもり?」

「別に。ただ面白いかなと思っただけ」


 そう言ってケイトは「ごちそうさま」と言って、会計に向かった。


 リンカの分のご飯を買って、早く部屋に戻らないといけない。


 午後からは三人組になって初めての依頼が待っている。

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