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RANK-5  『 くの一忍法帳_下巻 』



 三人は大きく口を開ける洞窟の前に立った。


「ここなの?」


「はい、地図によれば、ここが目的地に間違いありません」


「どれどれ……」


 リンカの持つ地図を受け取り、ケイトが位置を確認する。


 ここに来る前に立ち寄った洞窟があった。


 今いるところからだと、ちょうど町を挟んで反対。


 そこには別の地図があり、新たな目的地が書き記されていた。


 あれから4日、手には新たな巻物が二本。


「ああ、ここにこれで最後って書いてあります」


 リンカは巻物の隅々まで確認した。


「今度こそ間違いないのね。……マナミ大丈夫?」


 その場所が間違いなく目的地だと知り、マナミは完全に腰が落ちた。


 リンカが“呼粉”を撒き続けてくれた所為で、魔獣の数は雪だるま式に増え、途中からはケイトもマナミも戦闘に参加し、魔法使いの魔力は底を突いてしまった。


「ここまで来ればもう大丈夫でしょ、少し休んでから中に入ろう」


 ケイトは自分自身の疲れよりも、マナミやリンカの魔力の消耗の方が心配だった。


 まだ体術を使えるリンカはいいが、マナミの今の状態では、強行軍で進むのは無茶が過ぎる。


 入り口近くに結界を引いて、テントを立てて三人は休憩に入った。


「中の情報はなにもないの?」


 頭に水で濡らしたタオルを乗せて、寝息をたてるマナミの横で、二人は軽く食事を摂りながら話をしていた。


「情報、ですか? この巻物に書かれた内容からは今一つ分かりませんね。これにはここまでの案内と、この中の地図ぐらいしか……」


「こん中の地図があんの?」

「は、はい」


「それが情報だって言うの。それは助かるわ」


 その地図を見せてもらえば、かなり細かく書かれていることに、かえって不信感を覚える。


「罠の心配も必要だね。意図するものが全く読めないもの」


 ここから四半刻ほどして、マナミが起きるのを待ってテントを畳む。


 軽く食事をしながら、マナミが例の地図を見て眉を寄せる。


「どんな依頼かはともかく、これだけの情報が本当に与えられているって言うのはおかしいわね」


「やっぱりそう思うよね」


 判断に苦しむ二人だったが、しばらく考えても何も思いつかなく、とにかく中に入ろうと言うことに。


 洞窟の中にもモンスターはかなりの数が生息しており、それは二枚目の地図に書かれた情報通りに分布していた。


「マナミ! 大丈夫?」


「はぁはぁ……はぁあああ。大丈夫だけど、アグンがもうないよ。魔力はまだ保つと思うけど」


 理力回復の薬“アグン”は、特に魔法使い必須アイテムだが、マナミは大体一つの冒険で5回分は持って出る。


 それを使い切る事なんて、二人のレベルでは滅多にない。


 それもまだ目的地に着く前だ。


 これで魔力が尽きたなら、後はもう二人のお荷物になるだけ。


「目的地はまだなの?」


 こんなことになるのであれば、一つ目か二つ目の洞窟にたどり着いた後に、一度町に戻っておくのだった。


 焦りがマナミの疲労の色を濃くする。


「もう2ブロック行った先が、そのはずなんですけど」


 出来ることなら、帰りの分の魔力は残しておきたい。


 先が長いようなら一度戻った方がいい。マナミはそう考えるのだが、それはケイトも同じだった。


 筋肉の疲労が溜まってきている。


 見ればリンカは涼しい顔をしているように思える。


 やはり二人のレベルでは荷が重かったのだろうか?


 だが反面期待も膨らむ。


 後2ブロックでたどり着けるのだとすれば、達成も不可能ではない。


 これだけの冒険だ。きっと獲得ポイントも今までにない、大きな期待の持てる数値が加算されることだろう。


 座り込みそうになる重い腰を上げて、弱々しくもしっかりと歩を進めた。


 残りのブロックでの歓迎も生半可な物ではなかった。


 ここに来て顔色一つ変えていないのはリンカだけ。


 だが気力が充実すれば体は動く。ケイトは剣を握り直した。


 魔力とは精神力で補えるもの。


 足りない分は気力で補えばいい。マナミは集中力を高めた。


「あれって、扉? ここって人の手が加えられているってことか?」


 ケイト達は気力を絞って、目的地の扉を開いた。


 中にモンスターはいなかった。


 ガランとした空間があるだけ、3人が入ってきた扉以外に、何かがあるようには思えない。


「ここで間違いないの?」


「はい、間違いありません。時にケイトさん」

「なに?」


「ケイトさんの体重って、53kでいいんですよね」


「な、何を急に? って言うか、なんであんたが知ってんの!?」


 いきなり体重を聞かれて、その数字が合っていたりすれば、それは驚きを隠せなくもなる。


 リンカに教えた覚えはない。見た目で大体を答えたということだろうけど、一発でドンピシャリとは恐れ入る。


「マナミさんは44kだと思うんですけど、合っていますか?」


「あっ、合ってる……」


 ケイトだけでなくマナミの体重まで!?


「ケイトさんはお風呂から上がって、裸のままで部屋の中に入ってきたじゃないですか。マナミさんは入浴中に覗かせてもらいました」


「つまりあんたは裸を見れば体重が分かると?」


「大体ですけどね」


 恐るべき能力だ。


「いい! 絶対余所では言わないでね」


「マ、マナミさん、……何でです?」


「恥ずかしいからに決まってるだろ」


 マナミの気迫に押され、ケイトの威圧を受ける。


 どうやらリンカには本当に、二人の気持ちが分かっていないようだ。


「それはさておき、どうして私達の体重を聞く必要があるんだ」


「はい、それは最後の仕掛を動かす為です。床に3ヶ所、他とは違う石板を使っているブロックがあるのが分かりますか?」


「えーっと、あぁ、これね!」


 マナミは薄暗い室内を目を凝らして見た。


 確かに3ヶ所だけ違うところがある。


「その上に3人が同時に乗って、合計が147kを越えてはいけないんです。私が48kですので、3人で145kと言うことになります」


 誤差を考えるとほとんど余裕はない。


 なるほど、3人の冒険者が必要で、その重量なら男の冒険者を連れてくるわけにはいかないだろう。


「ちょっと待って、私達自身の体重の合計ならそれでいいけど、それって、防具とか、……服とかも脱がないといけないんじゃないの?」


「はい、ですから男性を呼べなかったんです」


「理由の本命はそっちか!?」


 とにかくここまで来て、最後までやらずに帰れやしない。


 とは言え、いつも家の中で裸で歩き回っているケイトでも、こんな場所で服を脱ぐのは躊躇させられる。


「……下着くらいはいいよな」


「たぶん大丈夫だと思います。……でももしかしたらがあるかも」


 例の巻物を読めるのはリンカだけ、その彼女に自信なさげにされると、万が一を気にしないわけにいかない。


「えーい! こうなったら!!」


 ケイトは思い切って身ぐるみ全て脱ぎ捨てた。


 仕方なくマナミもそれに続き、リンカも二人に習った。


 3人の重さがそれぞれの乗った床を軽く沈める。


 するとどこかから低く響く音がして、目の前の岩肌が真ん中で左右に分かれて口を開ける。


 その向こうには小部屋があり、机があった。


 机の上には、リンカが持っているものとよく似た巻物が置いてあるだけ。


「これが目的の物?」


「やったぁ! これで卒業できるぅ」


 その巻物を手に大喜びのリンカ。


 二人にはなんのことかさっぱり分からない。


「実は部外秘なんですけど、私これを手に入れれば、忍者学校を卒業して、晴れて“くの一”として認められるんです」


 つまりこれは卒業試験と言うこと?


 あの懇切丁寧な地図も、最初からテスト目的で渡された物なら納得がいく。


 元来地図などは用意した者の覚え書きに過ぎない。


 書かれた内容も暗号化されていることが大半なのに、おかしいとは思ったのだ。


「でもこれで終わりですね。よかったです。私これ以上は動けそうも無かったので」


 リンカは卒業証書を手に、その場にへたり込んでしまった。


「顔に疲労が出ないタイプなのね」


「出ないにも程があるだろう。読めないヤツだねぇ」


 3人は服を着て洞窟を出た。


 不思議なことにもうモンスターは一匹もいなかった。


 帰りの魔力を気にしていたマナミだったが、町に着くまでなにも出てくることはなかった。


 リンカが巻いた“避粉”のおかげで労することは無かったのだが。


「そんな物があるんなら最初っから使って欲しかったけど、……それどころか“呼粉”を使ってたんだよね」


 もう立っているのがやっと、と言うくらいに気力も抜けている。


 もうすぐお昼になろうとしている頃、町が見えてきてリンカは笑顔でこう言った。


「それではこれが今回の報酬です。ただ今回の件は一切を他言無用にお願い致します」


「ウソ!?」


 確かに約束の金額と、それと同じ額が入った袋をもう一つくれた。


 リンカは最初から一人5000r渡すつもりだったようだ。


「流石にこんなにもらえないよ。それより困るよ。それじゃあ私達、今回の冒険の報告が……ランクポイントがもらえないよ」


 先に依頼者が冒険者支援団体、“アドス”と話し合ってポイントを定めていない場合。


 今回のようなケースは、冒険の内容を報告する事で、ポイントを決定すると言うのに。


「本当に御免なさい。そう言う決まり事があるとは知らなかったもので」


 リンカの国の言葉を二人が理解できないのと同様に、リンカもこの国の字を読むことは出来なかった。


「しょうがないんじゃあない?」


「まぁ~た、このパターンか! ……リンカ、これ報酬はこっちの一袋で十分だよ。こっちは持って帰って」


「そんな、お二人にはお世話になったのに、そのポイントでご迷惑をおかけしたのですから……」


「いいからいいから、五日仕事としては、これでも多すぎるくらいだから」


 町の入り口、別れは突然訪れる。


 忍者の少女は故郷へ急ぎ、戻らなければならないという。 


「それじゃあ、また機会があればお会いしましょう」


 こうして、また一つの冒険は終わった。


 いつもの事ながらどこか骨折り損な二人は、昼食よりもまずベッドを求めて帰路に着いた。

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