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RANK-13 『 家族の想い 』



 用意された客間には布団がすでに敷いてあった。


 屋根裏のリンカの部屋や、百足の小屋にあったのと同じ、床の上で直に敷かれた寝具、檜香るお風呂を頂いた後、客人用にと用意してもらった浴衣と言う部屋着に着替え、初めてづくしの一日を過ごし布団に入る。


「それにしてもこっちのお風呂の入り方って難しいよね。蓋の上に乗るの。コツが掴めないからって、近くの温泉まで連れて行ってもらって、でもいいなぁ、あんなおっきい浴場がすぐ側にあるなんて」


 ケイトはもう興奮しっぱなし。


 食事の時も、見たこともない料理の数々と、リンカの家族から聞く異国の話に興味津々に身を乗り出していた。


 もちろんマナミだって話は面白かったし、大げさに態度には表してはいないが、胸のときめきを抑えるる事はできなかった。


「あんまり騒いでると迷惑よ。早く寝ましょ」


「マナミは冷めてるなぁ、もう!」


 同じだけの感動を受けたはずの相棒が、早々に静かに寝息を立てるのを見て、深く息を吐き出してケイトも枕に頭を落とした。


 この時マナミはまだ眠ってはいなかった。


 恐らくはケイト以上に興奮していて、多分今夜はなかなか眠る事は出来ないだろうと思っていた。


 屋敷内は静まりかえっていたので、その訪問者がこちらに向かってきていたのはすぐに分かった。


 布団の脇に置いていたワンドを手にとって、マナミは意識を集中した。


「もうお休みになりましたか?」

「……スズカさん」


 半身を起こすマナミは呪文の詠唱を中断した。


「このような時間に申し訳ございません。少しだけお話をさせて頂いてもよろしいでしょうか?」


「どうしたんですか?」


 スズカがトーンを落とすのに合わせて、小声で返すマナミは彼女につられて正座をする。


「お二人はその、冒険者という職業に就いて、長いのですか?」


「そうですね。この子と冒険をするようになって、季節を一通りまたいだくらいでしょうか。まだ長いとは言えないと思います」


 穏やかな寝息を立てるケイトの横顔を眺めながら、マナミは苦笑を浮かべる。


「あなた方の目から見て、リンカはどうでしょうか? 私はシノビとしての資質が、あの子にあるとは思えないのです」


 スズカが持ってきてくれた熱いお茶を口に含み、マナミは少し考えた。


「この家にいた頃の彼女はどうだったんでしょう?」


 彼女が何を言いたいのか、大体の所を察したマナミは質問で返した。


「あの子は確かに、シノビとして必要な身体能力は持っています。あの年で外に修行に出る事が出来るようになるのも希だと聞きます」


 その評価はマナミが彼女に感じたそのままだった。


 リンカはケイト以上の運動神経があり、マナミ以上の魔法センスを持っている。


「ですが、リンカは忍者としては気持ちが優しすぎます。あの性格でこんな職業を続けていれば、いつかあの子もマヒト兄様のようになってしまいます」


「そんなの、最初から決めつけてちゃあ、何も出来なくなっちゃうよ」


「ケイちゃん」


 いつから起きていたのか、ケイトも布団の上で胡座をかいて、二人の話を聞いていた。


「情けないけど、少なくともあたし達の方が、リンカと一緒に行動できる実力じゃあないと思うよ。あの子は心構えがまだ素人レベルだから、ちょうどバランスがとれてるけどね」


「そうですか? リンカは良いお友達を見つけたようですね」


 深々と頭を垂れるスズカは面を上げて、本題を告げた。


「実は今回、お二人を我が家までお呼びしたのは私なのです」


 突然の展開に、マナミもケイトも目を丸くする。


「あなた方は冒険者レベルはともかく、実力は信頼に足ると、リンカから伺っております」


 ケイトは剣士としての実力は個人戦なら、中級以上の魔獣でも相手に出来る技があり、マナミも魔力だけは上忍に匹敵するほど大きく、習得している種類も並ではない。


 リンカは家族に、二人の事をそんな風に話していた。


「間違ってはいない。とは思うけど……」


「って言うか、その通りなのかもな。リンカの奴はよく見てるなぁ」


「そこでお二人には、私の護衛をして頂きたいのです」


 突然に依頼される冒険者。


 報酬額を聞いたところ、貨幣価値が違うのもあるがかなりの高額。


 しかしこの場合、アドスは何の関わりもないのでポイントは入らない。


「ではその書状というのを運ぶあなたを、無事に目的地まで送り届ければいいという事ですね」


「はい、囮としてもっと本格的な護衛の付いた一行が同時に出ます。私達は目立たないように少人数で、あくまで念のためですので、さほど危険に晒される事なく、たどり着けると思います」


 スズカを守るのはリンカとマナミとケイトだけ、女四人旅を装うというのだが、女だけの旅は目的を違えた襲撃を受ける気もする。


 しかしそれも敵を欺く一つの手となり、その危険から逃れるための冒険者なのだと説明する。


「出発は明後日となります。道程は歩いて二日と言った距離です。囮が動く関係上、我々も徒歩での移動となります。宜しくお願いします」


 リンカの妹からの正式な形での依頼とあって、また徒労に近い仕事をする事になったが、二人に異存はなかった。






 翌日は観光気分でリンカの生まれ故郷を、ポンタに乗って色々と見て回った。


 大陸から離れた島国は郷土文化も全く違っていて、どこに行っても飽きはしなかった。


 思い掛けない休暇になって、リフレッシュも十分に取れた明くる日、四人はスズカの仕事をこなす為に旅路についた。


 スズカとリンカはこの国の娘らしい着物姿に、ケイトとマナミも着物を着ているが、さすがに異国の顔立ちを誤魔化す事は出来ない。


 しかし観光客が珍しがって着物を着るのは、別におかしな事ではない。


 堂々と自然に振る舞えば、何の違和感もないはずだ。


 里を離れて数刻、山を越える為に森に入った時、その野盗達は現れた。


「どこの国にも山賊っているのね」


 見た目はかなり屈強な男が8人。


 手にはそれぞれケイトとマナミが見た事もない武器を持っている。


「あっ、でも幾つかはリンちゃんの持っているのと、同じような形をしてるわよ」


「何、余裕かましてんだよ」


 この山賊達が書状を狙ったものでないとは言い切れないが、そうじゃなくても捕まるわけにはいかない。


 売り物や慰み者になるのは御免被りたい。


 ケイトは帯を解いて着物を脱ぐ、下にはいつも着ている、動きやすい衣服を身に纏っている。


 マナミも魔法のワンドを取り出して呪文の詠唱を始める。


 リンカはスズカを庇って、二人よりも二歩後ろに下がる。


「リンカ、私なら大丈夫、護身術なら習っているから」


 スズカはそう言うが、簡単な抜刀術を身につけただけの妹を一人にはできない。


「リンカはそのままでいて、こいつらはあたしとマナミだけで十分だからさ」


 スズカが護身術を学んだ道場みたいに正面から向かってくる、行儀のいい相手なんかじゃあない、姑息な手段を携えた山賊を前に、マナミの援護があるとは言え、この数の差をどうにかできるとは思えない。


「ケイトさん、やはりリンカも……」


 スズカの心配を余所にケイトは動いた。瞬撃で三人を切り捨てる。


 マナミが完成させた呪文を放つ。火炎の玉が二人を焼いた。


 姉妹に飛びかかってきた二人の男をリンカが薙ぎ払った。


「いっ、一瞬で七人を!?」


 残された一人が後退る。


「誰も殺しちゃいないから、さっさと引き返しな」


 ケイトのセリフにスズカは驚く。


 見れば足下に転がる男達は、唸り声を上げてのたうち回っている。


「なぜ?」


「殺す必要なんてないよ。そこの一人、あんたらも縄張り守りたかったら、助っ人なんて考えない方がいいよ。私たちの顔も覚えたよね。命が惜しかったら、もう襲って来るんじゃないよ」


 リンカからは、この辺りには野盗の一団は結構いて、縄張り争いも激しいと聞いている。


 脱ぎ捨てた着物を拾ってスズカの所まで戻ってくる。


「ゴメン、この着付けってのまたやってくれる?」


「なぜ彼らを生かして返すのです? 彼らはまた人を襲いますよ」


 着物を着せて帯を結び直してくれるスズカの質問に、意外そうな表情を浮かべるケイト。


「あの程度の実力だからだよ。縄張り争いをするくらいに多くの勢力があるんなら、この辺りが空いてるなんて噂が立つと諍いが起こる。もしかしたら強い奴らが来るかも知れない。あいつらはいるだけで、今以上の危険にはならないんだよ」


「……なるほど」


 見事な腕前と連携を見せたケイト達。


 その対処の仕方も納得がいくやり方を見せてくれた。


「素人考えが過ぎたみたいです。ごめんなさい」


「うぅうん、こんなろくでなし、殺れる時に殺せってのは正しいと思う。けどそれは、一斉に取り締まらなきゃ意味ないよ! ってだけ。一つでも残したらかえって危険、知らずに安心して、無警戒で毒蛇の穴に入るみたいなもんだしね」


 首を縦に振り、改めてこの二人にお願いしてよかったと安心するスズカだった。


 四人は日が暮れる前に森を抜けようと足を速めた。






 山賊の数が多いというのは本当だった。


 ほとんどがちゃんとした戦闘訓練を受けた事もないような、見て呉れだけのゴロツキばかりだったが、中にはちょっと腕利きもいたりと、気を抜く事は出来なかった。


 それでも目的地までは後もう少し、目の前の山を越えれば見えてくるという距離までやって来た。


「どうもこれが本命みたいね。あの衣装、リンカと同じニンジャってやつよね」


「そのようです。どこの所属かは分かりませんが、あの動きは修行したシノビの動きです」


 洞窟を見つけて身を隠すケイトとリンカ。


 スズカとマナミとははぐれてしまったが、合流地点は決めてある。


 とにかく無事に山道を抜ける事を考える。


「リンカ、敵の数は読めた? 私は姿を現した3人しか分からなかったけど」


「私たちを取り囲んでいたのは全部で4人です。数が少なすぎるのが気になりますが、今のところこの森の中には他のシノビはいないようです」


「森の中には、かぁ~」


 リンカの探知スキルを信じると、格上を四人、二人で相手にしないといけない。


「あたし達で敵を引きつけて、とにかく逃げ回るよ」


 マナミならケイトの考えを読み取ってくれるはず、洞窟から飛び出した二人は、山の頂上を目指した。


「何人追ってきてる?」


「……3人です」


「どう考える?」


「そうですね。二通り思いつきます。一つはこちらの隙を窺っているか。もう一つはあちらを追いかけて離れたか」


 少なくとも4人以上の敵がいて、二手に分かれたかもしれない。


「とにかく高い、拓けた場所で様子を見よう」


 もう少し登ったところに、そんな場所があったと思う。というリンカの言葉に従って、山を登っていった。

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