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RANK-12 『 お宅訪問 』



 例の式神に乗せた後目覚めたケイトが暴れ出して、三人はあわや墜落という事態になったが、マナミの睡眠魔法が大活躍し、ジパニア到着までずっと眠らせることで対処した。


 意外と式神の上が過ごしやすかったのは、ムカデの背中に小さな小屋があったお陰。


「手狭だけど、一泊くらいなら十分ね」


「雑魚寝でスミマセン。布団も一式しかないので、毛布なのも申し訳ないです」


「うぅうん、野宿と比べたら全然だよ。それよりもケイちゃん、小屋の中なんだからって、いくら言っても暴れるんだもん。ホントなさけない」


 布団に寝かせたケイトを見て、マナミは溜め息をこぼした。


 昼夜丸一日飛行してたどり着いたクサハの里、下忍昇格の手続きはつつがなく完了した。


 これで依頼は完了、ではなく実はリンカの目的は、下忍承認の手続きだけではなかった。


 リンカが生まれた村は、ここから忍者の足で走れば1時間ほどの場所にあり、徒歩だと半日ほどに離れている。


 忍者の少女は仲間の二人に、是非生まれ故郷を訪れて欲しいと切願した。


 地上移動用の獣がいると言うが、歩いても半日で着くのならと、ケイトは見てみたいと言うマナミの脇腹に肘鉄を入れて、呼び出すのを止めさせた。


 クサハの里から結構な距離を歩いてきたが、マナミはずっと口を聞いてくれない。


「ああ、もう! マナミぃ、どうしたら許してくれるの?」


「なによ、まだ重い痛みが残ってるんだからね。ケイちゃんが本気出したら私なんて死んじゃうんだよ」


「いや、さすがにその辺の力加減はしてるし」


「当たり前でしょ!? ……そうだね、じゃあリンちゃんの式神見るんなら許してあげる」


「えーっ!? 他には?」


「だったらいいよ。当分ケイちゃんとは口聞かないから」


 ここは明らかにケイトの負けである。


 マナミは本気でまだ痛いみたいで、ずっとお腹をさすっている。


 もしかしたら本当に歩くのもつらいのかも知れない。


「分かったわよ。リンカ、その何とかならもっと早く着くんだよな」


「そりゃあもう、この子のお陰で幼い私でも、里と村を行き来できていましたから」


 百足を呼び出したのとは違うアイテムを取り出し、木管を吹いて奏でられる音につられて出てきたのは大きなペンギン。


 そう、確か書巻で見た覚えがある。


 確か寒い地方の鳥類だったとマナミは記憶している。


「かわいい」


 ラブリー光線を放つ巨大ペンギンにケイトはメロメロ。


「あのー、ケイトさん?」


「リンカ! この子なんて名前?」


 両目を輝かせてリンカの手をギュっと握りしめ、ケイトは子供のようにはしゃいだ。


「ケイちゃんかわいい物には目がないからねぇ」


 マナミは目を細めて冷や汗を垂らしながら、相棒の錯乱状態を観察した。


「えーっと、名前ですか、ポコタです」


「ぽこたぁ~」


 ますます壊れていくケイト。


「ポコタって、ちょっと変わった名前ね」


「そうですか? この辺りではよく使われている名前ですよ。狸にはポコタって」


「たぬき?」


 これに反応したのは二人同時。


「はい、そうですよ。ご存じじゃないですか?」


 たぬき……、それはどう見てもペンギンの姿をしている。マナミとケイトが知っている狸とは全然違う。


「こ、こっちの方ではこれを狸というのかしら……」


 土地が変われば言葉も変わる。


 いくらリンカが流暢にケイト達の知っている言葉で話そうとも、地元に帰れば地元の方言を使うのは当然。


 三人はどこからどう見てもペンギンな、狸のポコタに乗って村へと向かった。






 日の傾く前に村にたどり着き、真っ直ぐ生家に向かう。


 木造の一軒家の前で立ち止まり、リンカは引き戸の入り口を勢いよく開けた。


「ただいまぁ~!」


 普段から礼儀正しいリンカは、宿場町ではいつも「ただいまかえりました」と言って二人に挨拶する。


 これが本来の彼女なのか、のぞき込んで見えてくる表情は、いつも以上にとても幼く感じる。


「兄様、お父様とお母様はお出かけですか? ルヒト、お客様ですから少し大人しくしてくださいね」


 出会ってからまだ日も浅いが、こんな楽しげなリンカは初めて見る。穏やかな表情は、完全に緊張の糸を解いていた。


「さあさあ、狭いですけど、どうぞお上がりください。両親も直に戻って参るということですので」


 室内の構造は二人の見たことのない造りで、寛げと言われてもどうしていいのか分からない。


「リンカ、ちゃんと座布団出さないといけないだろ」


「ザンジ兄様、ありがとうございます。うっかりしておりました」


 一月とは言え、ソファーに腰を下ろす生活に慣れ始めたリンカは、ついこちらの習慣を忘れてしまった。


 兄から渡された来客用の座布団を出して、二人に座るように勧める。


「クビトが今調理中ですので、しばらくお茶でも飲んでいてください」


 座布団を差し出してくれた次男のザンジは奥に入ったかと思えば、直ぐにお盆を片手にお茶とお茶菓子を出してくれる。


 テーブルの上に並べられるのを見て、二人は首をかしげた。


 二人は膝丈のテーブルに、どう着いていいのか少し悩む。


「ケイちゃん、もしかしてあれじゃない? リンちゃんが最初ソファーの上でやってたあの座り方」


「あ、あれなの? あれ長いことしてると足痛くなるよ」


 ケイトは以前経験のない痛みを感じた、正座の姿勢を思い出した。


 どうしたものかと既に腰を下ろしているリンカの足下を見る。


「え、なんかちょっと違わない」


「え? ああ、この方が楽なんですよ」


 リンカは正座の姿勢を少し崩して、膝から下を開きおしりを床に付けている。


「あっ、本当、こっちの方が楽」


 マナミがリンカに倣うが、ケイトは居心地悪そうで、なんだかおしりを付くことが出来ない。


「冒険者としてのリンカの話、聞かせてもらっていいかな」


 ザンジがリンカの右隣に腰を下ろす。


 胡座をかくその姿を見て、ケイトはこれならとそちらを真似た。


 リンカの向かいにマナミ、ザンジの前にケイトが座った。


 マナミとケイトとしては昔のリンカのこと、こちらの国のことを聞きたかったが、それは順番として後回し、ザンジが興味津々に耳を傾ける中、談笑が交わされる。


「なるほど、では下忍への昇格も?」


「はい、滞りなく承認をいただきました」


 ケイトは自分達の冒険者ランクと、忍者の特異性と有用性、リンカのお陰で自分達もランクの高い依頼が受けられるようになったことを語る。


 リンカからも二人はアドスでの評価は正しいとは呼べず、その実力は自分に並ぶと兄に告げる。


 そこからはジバニアの事とか、クサハの里、この村のことも簡単に聞いたり、自分達の町との比較をしてみたりと、それなりに充実した談話を続けた。


 時間も経過し、三男のクビトが作ってくれた夕飯の支度が整い、食卓に席を移した頃、両親と共にリンカの双子の妹スズカが帰宅した。


「お父様、お母様、スズカお帰りなさい」


 「ただいまぁ」と返す両親、スズカは笑顔で向かえてくれるリンカの元まで来ると。


「お帰りはこっちのセリフでしょ、元気だった?」


 硬い表情のままのスズカだったが、姉を前に満面の笑みを浮かべた。


 広いテーブルの上には見たことのないご馳走が並び、帰宅した娘とその二人の友人を交えた団欒が夜遅くまで続けられた。

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