023「異世界の自営業-5」
街が見えたときにはほとんど陽が沈んで薄暗くなっていた。
夕方くらいには帰ってきたかったけど、クマさんの解体に思ったより時間がかかったのと解体されたクマさんが重くて遅くなってしまった。
流石に全部は持ちきれなかったけど、魔法で補助しながら運んだのでそれなりの量が持って帰ってこれた。
「鞄に念の為にって大きい袋を入れといてよかった…魔力使い過ぎたし、クマさん重過ぎて相当怠いけど」
クマさんを入った大きい袋を背負ってるけど、詰め込み過ぎたのか相当重い。
たぶん、持ち運びのに使っている魔法が切れたらそのまま押し潰される気がする。
まぁ、持ち帰って来れなかった残りは魔法で凍らせて目印を付けて埋めといたから、いまの季節なら数日は大丈夫なはずだし明日か明後日にまた取りに行けばいい。動物や魔物に掘り起こされて食べられていないことを祈ろう。
よたよたと門まで歩いていく。
門が閉まる時間はもう少し後だけど、門の辺りには人が少なかったので入場の手続きも早めに終わりそうだ。
門番さんに挨拶をして手続きをして街の中へ、さっさとギルドに行ってクマさんを売りたかったので特に何も言われなかったから助かった。
「………………よしっ!」
クマさんの入った袋を背負い直しギルドへ急ぐ、本当に魔力の残りがヤバいので少し頭がフラフラしてきた。
「あれー?ヴィルじゃないの。大きな袋なんか背負って何してんの?」
ギルドの建物が見えて来た辺りで声をかけられたのでそちらを見るとレーラさんがいた。
野菜の入った袋を持ってるし買い物帰りだろうか?まぁ、さっさとギルドへ行こう。
「クエストの帰りでギルドに行くとこですよ店長」
立ち止まらずに返答だけしてギルドを目指す、やばいちょっと本気で魔力が枯渇して来てる。
「…………………………ヴィル、その背中の荷物重そうね。何が入ってるのかしら?」
あ、これやばいかも。
森での危険察知は失敗したけど、今度は確実に成功してる。
「きょ、今日は採取依頼を受けたので、そのついでに採れた物が入ってるだけですよ」
適当に話を切って逃げないとやばい、レーラさんが間延びしない喋り方をしてるのは結構やばい。
「じゃあ、僕はギルドに急ぎますのでまた明後日にお店に行きますね」
なけなしの魔力を振り絞り足を速める……………………ぐえっ!!
「ねえヴィル?どうして採取に行ったと言うヴィルから魔物の血の臭いがするのかしらね?」
逃げようとした瞬間に背負っている袋を捕まれ息が詰まる。臭いが漏れないように丁寧に梱包してあるのに、それでも分かるとか犬かこの人は。
「あ、あのですね店長。とりあえず、ギルドで依頼品の納品をしないといけないので離していただけないでしょうか?」
というか、怖いので離してそのまま帰って欲しい。
「…………………………………………」
いや、離してくれたのはありがたいんだけど無言は無言で怖いから何か言って欲しい。
レーラさんに別れの挨拶だけして、そそくさとギルドへ向かう
「ヴィル、私も後でギルドに行くから待ってなさい」
背中にそんな声が届いた、どうやら逃げ切れてはいなかったらしい。
「…………………はぁ」
これはお説教かな。
多分だけど、レーラさんのことだから魔力が枯渇しかけてるってのもバレてそう。
少し憂鬱になりながらもギルドにたどり着いたので扉を開けて中へ入る。
俺の顔を見て声をかけてくる先輩冒険者に適当に返事を返しながら納品のカウンターへ向かう。
何人かは併設されている食堂のような所で酒を片手に声をかけてきた、まぁ仕事が終わったら飲みたくなるよね。
「お疲れ様です。受注した依頼の納品に来ました」
カウンターにいた担当の可愛い感じのお姉さんに声をかけてギルドカードを渡す。
「あら、ヴィルくんもお疲れ様。依頼を確認するからちょっと待っててね」
俺を見てふんわりと笑ってくれるお姉さん。うん、なんか癒される。
しかし、受注を担当してるお姉さんといいギルドの職員さんは美人だったり可愛かったりと顔が良い人が多いんだろう?人事は顔で選んで採用しているのだろうか??
「依頼を確認しました。目利きの担当職員を呼んでくるから、ここに依頼された品物を並べておいて貰ってもいい?」
鞄から薬草を取り出したカウンターに並べていく。あ、キノコとクマさんの買い取りもお願いしなきゃ。
「すいません、依頼された薬草とは別に買い取りをお願いしたいのですがついでに出来ますか?」
目利きの職員を呼びに行くお姉さんに許可を貰えたので薬草の横にキノコとクマさんを並べていく、やっとクマさんの重さから解放された。
「…………ヴィルくん、キノコ類はわかるけどこっちのお肉と毛皮とかは何かな?」
解体された薄い緑色したクマさんだけど?そんなにジト目で見ないで欲しい、何も悪いことしてないよ。
「ヴィル坊、これグリーンベアーか?」
いつの間にかお姉さんの後ろに目利きとかを担当してるハゲのおっさんがいた。今日の目利き担当はハゲのおっさんか、弟子の娘さんがよかったのに。
「いや、この毛皮の色だとリーフベアーに成長しているな。ヴィル坊が狩ったのか?」
ハゲのおっさんが毛皮を手に取りながら呆れてるけど、グリーンベアーとリーフベアーって同じ種類なの?襲って来たから頑張って狩ったんだけど。
「グリーンベアーは成長すると体毛の緑色が薄くなってリーフベアーと呼ばれるようになる。体毛がこれくらいの色になると低威力の魔法は弾かれるし剣も中々通らんはずなんだし、ヴィル坊よく狩ることが出来たな」
へぇ、あのクマさん出世魚みたいに名前が変わるんだ。
しかし、それなら結構な魔力使った空気の槍が頭と腕には深く刺さらなかった訳だ。運よく眼に当たってなかったら狩れなかったかも。
解体するときは普通にナイフが通ったから、クマさんも魔力で体毛やら身体機能を強化していたのだろう。
「毛皮に多少の傷はあるが丁寧に解体してあるな。全部買い取りでいいのか?」
んー、どうしようかな?全部売るつもりだったんだけど。
「魔法とか剣とか弾くってことはこの毛皮で外套とか作ったら結構良い物になるの?」
いい装備が作れるなら作りたいんだけど。
「ああ、この毛皮なら十分ヴィル坊くらいのランクなら使える物になるとは思うぞ」
「それなら、キノコ類と爪とか牙とかと肉の半分を買い取って下さい。毛皮と肉のもう半分は持ち帰るので」
肉は孤児院へのお土産にして、毛皮は装備屋さんに相談しよう。
「わかった。依頼品と一緒に査定してやるからちょっと待ってな」
ハゲのおっさんが道具を取り出して査定を始めたけど、お姉さんはまだジト目だった。
「ヴィルくん、本当に危ないことはしちゃだめって先輩の冒険者からもギルドのみんなからも言われてるでしょ?」
いや、そう言われましても襲ってきたのはクマさんからだし。
「私も昔からヴィルくんを知っているから、事情がない限りは本当に危ないことはしないってことは知ってるし。冒険者になったんだし多少の危険は仕方ないと思うけど。リーフベアーってDランク相当の魔物よ?本当なら冒険者になったばかりの新人が遭遇したら逃げないとケガだけじゃなくて命の危険もあったのよ??」
だって、クマさんめっちゃ助走つけて走って来たから逃げるの無理そうだったし。
というか、あのクマさんDランク相当のクマさんだったのか。まぁ、ハゲのおっさんの説明からすると狩るの面倒そうだしそうなるのかな?
「今回はヴィルくんに何もなかったからよかったけど、次から本当に気を付けるのよ?」
心配してくれたたんだし素直に頷いておく。
「それと」
お姉さんは俺の背後へ視線を移したけど、誰かいるの?
「私はギルド職員として無謀な新人さんには注意することしか出来ないので。ヴィルくんへのお説教はお願いしますね?」
振り返ってみると、そこには普段の能天気で自由人な残念美人ではなく。
「…………………ヴィル。リーフベアーを狩ったってどういうこと?」
酷く冷めた目で俺を見下ろすレーラさんがいた。
これは本気でやばい、この雰囲気はレーラさんめっちゃおこだ。
うん、素直にレーラさんにもごめんなさいって謝れば許してくれたりしないかな?