お母さんは合法海外美少女フィギュアの転売ヤー
ヤフオクならともかく、無資格の個人で小売り店から買ったフィギュアの転売は法律違反。法律は守りましょう。
僕の名前は斉藤忠。小学6年生だ。お父さんは会社員で、専業主婦のお母さんは結婚して退職する前はTOEICで560点(ほぼ翻訳家レベル)を取れるくらい頭のいいバリバリの外資系企業で働くキャリアウーマンだったらしい。
そのお母さんが、最近パソコンをいじり始めた。最初はネット通販でも利用しているのかと思ったが、少し違うようだ。いつもネットの無料通話で英語でやりとりしているし、翻訳ソフトを使いながら中国語も使っている。それに届いた荷物は開封して中身をチェックすると、すぐに封をし直して自家用車で宅配便に持って行ってどこかへ発送しているのだ。
「ねえ、お母さん。何をやっているの?」
と聞くと
「空き時間を利用したサイドビジネスよ」
「ネットで注文した荷物を発送し直すだけのように見えるけど?」
「半分は正しいけど、半分は間違いね。忠はアニメとかゲームの美少女フィギュアって知っている?」
「知っているけど、それが何?」
「海外にも日本のアニメファンはいるんだけど、フィギュアは売っていないのよ。どうしても欲しかったら、自分で日本に来て店で買うしかないんだけど、日本に来る飛行機料金だけでもバカにならない上に、言葉の通じない外国でフィギュアショップを見つけるだけで一苦労。見つけられたとしても、店員が外国語対応していない場合がほとんどだし、お目当てのフィギュアが無い可能性のほうが高いの。だったら多少高くてもネット通販で買った方がお金と時間と手間賃を節約できるのよ」
「何で正規のフィギュアショップは海外に無いの?」
「日本のアニメファンは多くても、フィギュアは市場として顧客が少なすぎて商売にならないのよ。それに美少女フィギュアは日本国内の流行ですら分からないのが現状だから、海外の流行なんて全然分からなくてリスクが高すぎて手が出せないの。流行を読めないばかりに売れないフィギュアを発売しちゃって赤字在庫を抱えて倒産したフィギュア業者なんて腐るほどいるから」
「お、お母さん。フィギュアの海外転売ヤーだったの!?捕まらないの?」
「資格無しならね。でもお母さんは古物商の資格持っているし、扱う量の少ない個人商売だから大丈夫。海外へ輸出するのには輸出入代理店を使っているけどね。代理店を通さないと密輸出になるのよ」
数日後の日曜日。
「忠、お母さんちょっと買い付けに行ってくるから留守番よろしくね」
「売り物のフィギュアはネット通販で買うんじゃないの?」
「それでもいいんだけど、細かい出来映えは実物を見ないと分からないからね」
数時間後。母は大量のフィギュアの箱を抱えて帰って来た。
「ただいまー。出来は良いんだけどちょっと古いしマイナーなアニメのフィギュアの発注が顧客から入ってね。ネット通販にないから中古フィギュアショップを4軒回ってようやく買えたわ」
「お母さんは何でプロのフィギュア業者でも分からない海外の需要が分かるの?」
「ネットの海外アニメファン掲示板のほとんどは英語だし。フィギュア業者で英語ができる人って今のところは少ないのよ。だからこういうスキマ商売が成り立つの。これはオーストリアのアニメファンからの注文だから荷物の宛先にAustria Europeって書かないと荷物が間違ってオーストラリアに送られちゃう可能性があるのよ」
「大変だね」
「他にも苦労はあるわよ。イスラム教圏内の国でフィギュアを所持していると偶像崇拝と勘違いされて逮捕されるから、荷物の中身はコンピュター部品と書いて発送してくれとか色々よ」
数日後。母が何やら英語で分からないが、かなりキツい口調で電話をしていた。
「どうしたの?」
「今度発売された限定版の美少女フィギュアのネットの評判が良すぎて注文が殺到しているんだけど、日本人でも1人2個までと数量制限がかかっているのよ!欲しくても無理だって!」
「お母さんは買えたの?」
「何とか2個だけね。かなり苦労したからアラブ首長国連邦のアニメオタクに売るわ。石油王のアニメファンならとんでもない高値で買ってくれるから」
資格を取って流行が読めるなら小遣い稼ぎにはなる。