センパイが初めて
「でも、たま、ゆ…………なんて呼べば?」
「センパイでいいよ」
「あ、はい。
じゃあセンパイで。
だから特別センパイがどうってわけじゃないです……
さすがに初対面で抱き着かれたのには引きましたけど」
「あはは、それは仕方ない」
彼女は別段悪びれる様子もなかった。
しかしその方が有心には気が楽だった。
「……僕は姉二人妹一人の女系家族で育ったせいか、
男心も女心も分かるからって、
ありとあらゆる場面で利用されてきました。
利用されるだけ利用されて、
用が済んだらポイされて……
もうそういうのでうんざりなんです」
「それは……酷い目に遭わされたんだね」
布団越しに届く
急に優しくなった声音に有心は戸惑いを感じた。
いきなり押し倒してきた
玉響なんか信用ならないはずなのに、
有心の心は彼女を受け容れようとし始めていた。
「――めてでした、」
ぽつり一言吐き出すと
後は止めどなく溢れ出す
涙と共に勝手に口が言葉を紡いでいくのだ。
「センパイが、初めてでした。
女嫌いで形振り構わず男に媚びてる
僕のことを好きだって言ってくれたのは
センパイが初めてです」
布団の上から頭に手が置かれる。
布一枚越しに感じる温もりは嫌な生々しさを殺し、
穏やかな温もりだけを伝えてくれて、
有心の本音というのを次々に生み出していった。
「好きって、
その人を許容することだと思うんです。
だから、
僕を好きと言ってくれて本当に嬉しかった。
それこそ気が飛んじゃうくらい嬉しかったんです。
その気持ちに嘘はないです、でも」
それとこれとは話が別だ。
告白をされたのが初めての有心は
振ることも初めてで、
誰かの好意を拒むという行為に躊躇いを覚えた。
息が詰まり、喉元が熱くなる。
「僕はそれでもセンパイの期待には――応えられません」
そのとき、素早く布団が毟り取られた。
有心はすっかり油断していたために
簡単に両腕を束縛され、泣き顔が晒されてしまう。
立て続けに彼女のとてつもない
腕力で有心をベッドに押し付けられた。
無言の視線が胸に刺さる。
組み敷いておきながら黙っているだなんて質が悪い。
暫く有心を見つめていた目が
だんだん綻んできたかと思うと、
ようやくその唇が動いた。