庇護欲
そういえば、盲点だった。
有心に兄はいなくても姉や妹はいる。
なぜ兄だけが特別だと思い込んだのだろう。
ただ同性である一点を除いては変わりないのに。
「……してません、
むしろ僕を召し使いのように扱ってきます」
姉の自分に対する態度を思い出しただけで
積年の恨みを思い出してきた。
「ふふっ、あなたをそんな顔にさせる
お姉さんたちが羨ましいよ。
少し話題に上げただけで
何か感情が湧き上がるような、
いるのが当たり前のような、
ちょっとうざったいけどいないと
淋しく感じちゃうような存在。
それが兄弟ってものじゃないかなとボクは思うよ」
目元に柔い笑みを浮かべる彼女には
物寂しさのようなものを覚えた。
そういえば彼女は一人っ子だと言っていたけれど、
そのことをどう思っているのだろう。
「センパイ……」
「いやぁ久々にマジトーンで話すと疲れるね。
いつものテンションがちょうどいいよ」
その反応はあまり触れないでくれ
というメッセージのように思えて、有心は口を噤んだ。
「あ、そうそう。
男子にモテる男子なんだけどね、
三年の先輩に如月清花っていう人がいてね。
いつも着物姿なんだ。
あの人の真似をしろとは言わないけど、
じっくり観察してみて、
どうして同性にも好かれるのかってのを
分析してみるのはいいかもしれない」
なにせあの人は学園の王子様、
いや貴公子みたいなものだからねと付け加えて。
「如月先輩って、あの長髪の?」
つい今日出逢った清花が
それほど大層な存在だとは思わなかった。
そんな有名人から、
頼っていいという勿体ない
言葉をもらったのは念のため、
隠しておいた方がいいだろう。
「そうそう、よく知ってるね~。
まあ有心ならああいう綺麗系よりは
天然の可愛い弟キャラを目指した方が
いいとボクは思うけどね!
ほら、庇護欲って大事な要素だからさ」
そのためにも明日も会ってねとにこやかに言われ、
有心は反射的に返事してしまう。
玉響の強引さに流されるのも
庇護欲に駆らせる要因となるのだろうか。
有心は理想の兄像を思い浮かべながら、
明日のことを想像して胸を弾ませていた。




