****前世譚のようなもの****(22)玉響サイド
夕闇色に染まる部屋の中、玉響は物思いに耽っていた。
「はぁ、そっかーついに有心も彼女か~」
正確にはまだ彼女ができたわけでもないし、
彼女候補がいるというわけでもない。
ただ単に彼女候補探しを新たに始めるというだけだ。
それだけでも心に大打撃を与えたのは
他でもない有心相手だからだった。
(有心は何も言わなかったけど、
もうボクらの関係って終わっちゃってるんだよね)
そう、玉響と有心の関係は
「有心が兄を手に入れ、玉響がそれを見て楽しむ」
というだけの協定関係に過ぎなかったのだから。
有心が理想の兄どころか、
実の兄を手に入れてしまった
今では二人を繋ぐものなど何もない。
「最初からこうなるって分かってたつもりなんだけどな~」
玉響はあの手この手を駆使して、
清花が有心の実の兄である情報を入手した。
それを有心に話さなかったのは
やはり独占欲からであったし、
何より二人を繋ぐものがほしかったのだ。
でもそれももう終わり。
明日からどうしようか。
「この髪型も、
続けてる意味なくなってきちゃったかなぁ……」
頭部の猫耳を擦りながらそうぼやいてみる。
しかしいざやめようと鏡の前で髪を崩してみると、
なんとも情けなく陰気っぽい女子が映っているだけだ。
(こんなんじゃ人前にも立てない)
やはり猫耳は継続しようと
箪笥から愛用のワックスを取り出した。
このワックスは玉響に
猫耳ヘアを授けてくれた人からもらったものだった。
もちろんもらったワックスは
既に使い切ってしまったけれど、
空の容器も大事に仕舞ってある。
なぜならそれは有心と出逢う前の、
玉響が今の玉響になる
前世譚のようなものなのだから。
気を引き締め直して、
今後の接触方法を考えようとワックスの蓋を開けると
中身はほぼ空で到底一週間持つほどは残っていない。
箪笥のストックを確認してみるがそれもない。
「ど、どうしよ、
有心のことが気掛かりだったせいで買い足してなかったや……」
(下ろした髪で登校するなんてとんでもない)
もう日も落ち沈んでいたが、
歯牙にもかけず財布を握り締めて家を飛び出した。




