鴻上詞
ホモ疑惑が晴れる代わりに受けが
確定要素になるというのは一体何の嫌がらせだろうか。
しかもあの日からずっと背後に視線を感じている。
時期から察するに玉響だろう。
今後を憂いて深い溜息を吐きながら
とぼとぼ廊下を歩いていると、
曲がり角から出てきた人にぶつかってしまった。
「いたた……すみません」
肩の辺りに頭がぶつかったような気がして見下ろすと、
大きなリボンとセットアップが
特徴的な大和撫子らしき女子生徒がいた。
黒き長髪は真っ直ぐに切り揃えられ、
ぱっつんの前髪から覗かせる目は一重ながらも大きく、
垂れ目がちで愛らしい幼さを思わせた。
「いえ、こちらこそ前方不注意だったから、
気にしないで――って、君は……」
「は、はい?」
「君は、
逢坂有心で間違いないかしら?」
丁寧な口調から少し鼻につく
上から目線の口調に変わったことに
有心は不快感を覚えた。
しかも彼女は有心を知っているようだった。
しかし当然有心は彼女を知らないし、
彼女が有心を知っている道理もないはずだ。
それならばなぜ。
「そうですけど、どうして僕の名前を……」
「鴨野玉響という女子生徒を知っているでしょう?
彼女から聴かされたのよ」
まるで迷惑を被ったとでも言わんばかりに、
やれやれと肩を竦めて見せた。
「あの、あなたはどちら様で……」
有心が躊躇いがちに問うと、
彼女はきゅっと表情を引き締める。
「私は風紀委員長の鴻上詞よ。
……訳あって彼女とは腐れ縁でね、
あの子が君に目を付けていることも知っているわ」
「は、はぁ……」
淡々と語られる事実に有心は相槌を打つ他なかった。
風紀委員長に絡まれていることを
疎ましそうに思う一方で、
彼女は鋭い眼光をこちらに向けていた。
「率直に言うわ。
平穏な高校生活を送りたいなら
彼女とは関わらない事ね」




