5話 お母様との対話
「さあ、貴方達は勉強と仕事がまだおありでしょう?ルゥのことは私に任せて頂戴」
お母様はお父様とお兄様に向き直りそう言うと部屋から出るように促す。
「し、しかしもう少しくらい「あ、な、た?」」
何時もは威厳に満ちて隙のない雰囲気が特徴的なお父様は今、眉尻を下げ何とも情けない顔で言い募ろうとしている。
それを笑顔と言う武器の圧力でお父様を黙らせるお母様は間違いなくカプレ家最強だろう。
記憶を取り戻した日からお父様とお母様の性格が逆転してる気がする……。
「それに、そろそろ登城しなくてはいけないのではなくて?三日もお休みしているんですから」
お父様よ。貴方は意識のない娘の為に三日も仕事を休んだというのか。
これでも、お父様は王の側近でこれでも徴税長官を賜っているいる身だ。陛下には休暇申請をしているだろうが部下の方たちに何とも申し訳ない。
この家族はどれだけルイーズ命過ぎるんだ!!
少しはルイーズ離れした方がいいと思います!
「お母様、僕はルゥが寂しがるといけないから側で看病致します。お母様も少しはお休みになられた方がよろしいですよ」
ご安心下さいと言わんばかりに胸を張って一歩前に進み出て進言するのはマティ兄様。
「あらやだ。私はルゥの看病のお願いじゃなくて部屋に戻れと言ったつもりだったのだけれど。それに、間違っても貴方にだけはお願いしないわ」
お母様は片手を頬に当て小首を傾け聞き分けのない子供を見る瞳で困ったように眉尻を下げ小さく息を吐く。その姿は疲弊していても美しさが衰えることは無く守ってあげたくなるような儚さを放っているが口から出る言葉は棘を含んだ毒舌。
「これ以上長居してはルゥもゆっくり出来ないでしょうから私たちはこれで失礼致します」
「ええ、後はよろしくね。グエン。」
「はい、お母様。ルゥ、また落ち着いた頃に見舞いに来るよ」
「はい、グエン兄様。ありがとうございます」
グエン兄様が頃合いを見計らって声をかける。お母様はグエン兄様の登場に漸く落ち着いた笑みを浮かべ事後処理を頼むとグエン兄様は紳士の礼をして承諾した後、私へと心配の色の孕んだ笑みを浮かべながらも日を改めて見舞いに来る事を約束してくれた。
それから、未だ私の元から離れたくないと駄々を捏ねるマティ兄様とお父様の首根っこ掴んでラフ兄様と連れ立って部屋から退出した。
お兄様、貴方本当にまだ未成年ですか?
なんて思いながら嵐が過ぎ去った扉を見つめていると椅子を引く音が聞こえそちらに目を向ける。
「嵐が去ったところで、ルゥちゃん。起きたばかりで悪いけれどお母様と少しお話出来るかしら?」
「はい、大丈夫ですわ」
ピッピコを抱き上げ膝に乗せると優しく撫でながら真剣な顔で問いかけるお母様に私も真面目な顔で頷いて居住まいをただし頷く。
「貴方が何処まで覚えているのか聞かせて貰えるかしら」
恐らく、お父様の執務室で話した所からの認識確認だろう。
お母様は多分私が倒れた理由…私の中で漲る膨大なストレンジの力について尋ねたいのだろうがお父様との話し合いの内容も重要事項なので何処まで覚えているかどうかの確認なのだろう。
それは、丁度状況整理をしたかった私に取っても好都合だ。それに、聞きたかった事もあるから返答次第で今後の行動を模索して行かなければならない。
これは、私だけの為ではなく、
今世の"最愛"の為に───────