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悪役令嬢は王子様を御所望です  作者: 茗裡
第三章 正編
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38話 氷と酸


真っ暗闇の中で淡い光を放つ存在がいた。

私を縛り付けていた鎖の拘束が解け、自由の身となった私の耳に届いたのは篭りがちの音声ではあるものの愛しい人の声を間違えるはずも分からないはずも無かった。


サビーヌと共に現れたもう一人の人物はジェルヴェール様。


くぐもった声は微かに聞こえるのに、愛しい人の顔が見えない。

貴方の声をもっと明瞭に。貴方の姿をこの目に。貴方と言葉を交わしたい。

彼の存在を確かめるように手を伸ばす。

指先が目の前の人物の頬に触れた。少しひんやりとした肌。だけど、生きている証として体温を感じる。

助けに来てくれた事がこんなにも嬉しい。

だけど、貴方はとても残酷だ。


ねえ…ジル様。


どうして私を助けに来たの?


仲間だから?


ロラン様やドナシアン様にでも私を助けるように命令された?


貴方はどんな思いで。


どんな表情をして助けに来てくれたの?



私が貴方に抱く想いは、会えなかった日々よりも急速に確実に胸の内から好きが溢れて来る。

貴方に毎日会えるだけで幸せ。そう思ってた。

だけど、貴方と会って言葉を交わす度に望みや欲が増えていくの。

この暗闇の先にある貴方は今どんな表情をしてる?


願わくば…私の為に少しでも私の事を思って助けに来てくれたのだと貴方の表情を確認する術がない今だけはほんの少しだけ期待してもいいかしら。


ジル様が私の違和感に気付いて問い掛ける声が聞こえる。

私は問いに答えようと口を開くもやはり声は出ずに息が漏れるだけだった。

その時。肉が灼けるような臭いがした。


「げほっ…がっ…」


目の前にいたジル様の咳き込む声が聞こえた。

敵の攻撃を受けたのだと瞬時に理解した。

次の瞬間には、目の前でジル様と敵との攻防が始まった。

私も直ぐにジル様の援助に加わりたかったがこのままの状態では気配を察知するだけで手一杯で敵に攻撃を食らわせるのは難しい。


私は心の中でライを呼び出す。

ストレンジを制御する鎖が解けた事でピッピコを繋ぐゲートが開いた。

私はライに状態異常を解除させた。


「……っ!?」


状態異常が解除された事で、視界が開ける。

そこに映し出されたのは敵と交戦するジル様とサビーヌの姿だった。

特にジル様の状態は酷く、喉が溶け始めているのか首元が血に濡れていた。

このままでは、ジル様が死んでしまう。

私は水砲を敵のブリゲゴール目がけてぶっ放しジル様から遠ざける。相手の動きを一時でも留める為に続け様に水泡をぶつける。


「ライ!ジル様の傷を癒して」


ブリゲゴールを引き付けている間に、ライに命じてジル様の傷を回復させる。


「やってくれるじゃねぇか。女ァァァ」


一騎打ちに横槍を入れた事でブリゲゴールはブチ切れて標的を私へと変えた。

ジル様から私へと標的を変えることが出来たのは上々だ。

そのつもりで攻撃したのだから。


「っ、…はぁ…はぁっ…」


だが、たったあれだけの攻撃で限界まで全力疾走した後のように私の肩は大きく上下に揺れていた。

視界がボヤけ思うように力が入らない。呼吸が乱れ息が苦しい。

脚が震え出したかと思えば、立っていられなくなってその場に膝をつく。


「まさ…か」

「くっくくっ…漸く気付いたか。あんたの事は一番警戒してたからな。ただ、捉えるだけで何も対策を考えてないとでも思ったか?」


拘束されていた鎖はただの鎖では無く何か細工がされたものだった。


「体力と能力を奪われていたとは気が付かなかったわ…」

「それだけじゃないぜ。その鎖は相手の力を削ぐだけじゃなく、毒も仕込んである。蚊の針を参考にして気付かれないように作られてるとか言ってたか?」


ブリゲゴールの言葉に目を見開く。

力を使った後に先程から胸の動悸が酷く汗が滲み出てきているのはその所為か。


「この毒はあんたのペットでも除去出来ない。あの御方が作ったものだからな。この解毒剤でしか解毒出来ない」


そう言って、ブリゲゴールは懐から一つの注射器を取り出した。


「死にたくなければ大人しくこっちに来い」


それが目的か。

私が解放された所で毒が回れば死に至る。

だが、直ぐに死ぬということは無いだろう。彼等は私を依代だと言っていた。

持って数日だと考えられる。


「お断りするわ」

「お前が此方に来れば他の奴らは諦めて俺達は撤退する。それでも断るか?」


先程の怒声や態度から感情的になりやすい相手かと思っていたが、感情が表に表れやすいだけで馬鹿ではない。

それに敵の性格をよく理解している。

恐らく、此処に来たのはジル様とサビーヌだけでは無い。他の人達も別の場所で戦っている可能性がある。

私一人が向こうに行けば他の人達は全員助かるかもしれない。

そう思考が働き掛けた時。


「断る」


私ではない別の誰かが答えたかと思えば、ブリゲゴールがいた場所に無数の氷出てきた針の山が現れた。

ブリゲゴールはそれを難なく避ける。


「完全復活したか。でも、いいのか?断ればその女は何れ死ぬ。一度俺達に預けてまた奪いに来てもいいんだぜ?」

「彼女は貴様なんかには渡さないし死なせない」

「俺から解毒剤を奪おうってのか?」


ジル様は回復を終え立ち上がるとブリゲゴールの問いを無視して私の元に歩み寄る。


「ありがとうルイーズ嬢。お陰で助かった」

「ジル…さ、ま。わたくし…っ」

「君は誰にも渡さない」


座り込んだ私をお姫様抱っこで抱え上げる。

突然の事に理解が及ばず慌てふためくもジル様は軽々と私を抱えて壁際まで移動する。


「ああああの…ジル様?」

「俺が片をつける」

「え?し、しかし…相手は手強い、ですわ。お一人では…」

「確かに手強い。俺も実力不足だと実感したよ」

「なら──」

「けど、このまま引き下がるわけにもいかない」


ジル様は壁際に私を降ろすとブリゲゴールに向き直る。

ブリゲゴールは好戦的な笑みを浮かべて此方の様子を伺っている。


「お別れのキッスは済んだか?最後のお別れになるかもしれないしもっと別れを惜しんでもいいんだぜ?」

「必要無い。俺は死なないしお前から解毒剤を奪ってルイーズ嬢も死なせはしない」

「可愛げ無いねぇ。なら、やれるもんならやってみな!」


ジル様とブリゲゴールの殺気が増幅する。

先に動いたのはジル様だった。

ジル様は氷の剣を作り出し一気に距離を詰める。


「意気込んだ割には、芸がない攻撃だな」

「安心しろ。趣向は変えてある」

「何っ!?」


先程と同じ単調な応酬の繰り返しかと思えば、ブリゲゴールの周囲を囲むように二十本もの氷剣が出現しブリゲゴールに襲い掛かる。


「舐めるなよ」


しかし、ブリゲゴールは降り注ぐ氷剣を躱し時に酸で溶かす。

ブリゲゴールが右手をジル様へと向けると五指から酸で作られた小さな球体が鉄砲玉のように無数に放たれる。

ジル様は手に持った氷剣で酸で出来た球体を受け止め、溶けた部分を即座に補修して距離を詰めて行く。

後数メートルという所でジル様は手に持った氷剣もブリゲゴールに向けて投げる。


「無駄だ──。な、に…!」


ブリゲゴールは片手を突き出し氷剣を受け止めると剣先から溶かしていく。

しかし、ジル様は初めからそれを予見していたのか剣先を溶かされた氷剣は形を変えてブリゲゴールの拳を氷で覆った。


「くくっ、片手を封じたつもりだろうがこんなもの一瞬で溶かせる…」

「その一瞬で十分だ」


ブリゲゴールの意識が一瞬氷で覆われた片手に逸れた事で、ジル様はブリゲゴールに直接攻撃に出た。

ブリゲゴールは突き出された拳を間一髪の所で躱す。


「っぶね。だが、懐ががら空きだぜ…っっくっ、」


拳を振り抜いた脇や懐が隙だらけとなった部分を狙いブリゲゴールは手を伸ばす。しかし、ジル様はそれをも予測していたのか拳を振り抜いた勢いのまま身体を反転させると右足を踏み出し左足から右足に軸を変え身体を回転させながら左足でブリゲゴールの脇腹に蹴りを食らわせる。


「すご…い」


思わず見蕩れてしまう身のこなし。

左足には氷を纏っていたのかブリゲゴールの脇腹にも氷が付着していた。


「結構…やるじゃねぇか…」


ブリゲゴールは脇腹を抑えて一旦ジル様と距離を取る。


「くっくくくく…これは少し本気出てきたわ」


ブリゲゴールは顔を俯かせたまま笑い声を上げ、顔を上げると先程のジル様同様地を蹴って一気に距離を詰める。

その動きは先程よりもキレが出て速さが増していた。

突き出された拳を両腕に氷を纏って受け止めるも威力がありジル様が後方に吹き飛ばされる。

すかさず追撃するブリゲゴール。ブリゲゴールの攻撃は止まらない。ガードした腕に向かって何度も打撃を繰り出す。

ジル様の氷が徐々に溶かされ始め修補が追い付いていない。

ブリゲゴールから距離を取ろうと後方に飛んだジル様を待っていたと言わんばかりにブリゲゴールは足を踏み込み距離を詰めると、ガードが緩くなった顔面目がけて横から拳を振り抜く。


「っ!」


ジル様の頬に打撃が打ち込まれるかと思った時、ジル様は上半身を後ろに倒し上下に反転する。両手を着いて拳を左膝で受け止めいなすと、右足を回し蹴りの要領でブリゲゴールの頭部に向けて蹴り付ける。


「なかなかやるじゃねぇか…」


ブリゲゴールは咄嗟に左腕でジル様の蹴りを受け止める。

更に戦闘は過熱するかと思われた。



ドゴォォォォン



突如、天井が崩れ落ちて来た。

部屋一帯に瓦礫が降り注いだ。



☆お知らせ☆

私事で大変申し訳ございませんが、一人称での執筆が難しくなってきてまして、修正版を急ぎ新規作成中ですので更新頻度が落ちます事を御報告致します。当方の能力不足で当作品をお読み頂いている読者の皆様には大変ご迷惑をおかけ致します。

休載というわけでは御座いませんので、更新頻度は落ちますが投稿はして参りますので今後ともご高覧頂けますと幸いです。


追伸

今現在、技名無しで進行しておりますが技名があった方が良いのか悩み中です。

当方の技名センスが皆無な為避けておりましたが、技名あった方がより楽しめるという意見がありましたら参考程度に技名を入れてよりバトルの臨場感を出してみようかなとも考えております。

"参考程度"にはなりますが、もしよろしければ読者様のご意見をお聞かせ願えますと幸いです。

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