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悪役令嬢は王子様を御所望です  作者: 茗裡
第三章 正編
69/75

35話 君が無事で…

西棟の最奥にある部屋に辿り着いたジェルヴェール達。

そこで彼等が目にしたのは、部屋の中に置かれた大きな檻のようなものだった。

その中に、囚われているソレンヌとエドウィージュを見付けた。


「レオ!?どうして此処に。それに、殿下達まで…」


廊下と部屋の扉は鉄格子となっている為、直ぐに誰が来たのか分かったエドウィージュが婚約者であるレオポルドを見て大きく目を見開く。


「んーーっ」


そこに、くぐもった呻き声とガタガタと音が鳴る。


「「ラシェル!」」


レナルドとフェルナンが椅子に括り付けられ口を塞がれたラシェルを見つけて声を上げる。


「お、おおおお前達はななな何だプー。No.8様はどどどうしたんだプー」


かなり動揺した声が聞こえ、救出組はそちらに目を向ける。


「お前か!ラシェル達を攫ったのは。ラシェルを解放しろ」


レナルドが鉄格子を掴んでフウタに食ってかかる。


「レナルド王子、落ち着いて下さい。先ずはこの格子をどうにかしなければなりません」

「No.8様が負けるはずがないプー。おおおお前達どうやって此処まで来ただプー」

「No.8とは双子の少女のことですか?その二人なら私達の仲間が相手していますよ。ああ、あとNo.9とかいう男もいましたね」


フウタの疑問に冷静に答えるロラン。

ロランの言葉にフウタ以外の見張り達にも動揺が走った。

その時、そこかしこで戦闘の爆発音等が聞こえてきた。


「う、狼狽えるなプー。どうせこいつ等は部屋の中までは入って来れないプー」


見張り達の動揺にフウタが自信たっぷりに言う。


「こんな鉄格子で私達を足止めしたつもりですか。こんなもの、溶かしてしまえば無意味ですよ」


そう言って、ロランが鉄格子に触れて熱で格子を溶かそうとする。

しかし、手に纏った炎は格子に触れた瞬間威力が激減した。


「皆さん、その格子はストレンジの威力を八割方削いでしまう効力が付与されているのですわ」


戸惑うロラン達にソレンヌが鉄格子に付与された能力を伝える。


「なるほど。ならば部屋の側面を壊して侵入するしかなさそうだな」


ソレンヌの説明に思案するロラン。

部屋への入口は牢屋のように格子が嵌められている為、一度隣の部屋へと入って横から侵入するしか無いだろうと考えた。

格子は男の太腿ほどの太さがある為、力技で突破するのは難しい。


「私にお任せ下さい。」


隣の部屋に一度移動しようとすると、サビーヌがそれを止める。

そして、鉄格子の前に歩み出た。


「貴女は確かルイーズ嬢の…」

「サビーヌと申します。ロラン殿下、此処は私にお任せ頂けないでしょうか」

「し、しかし…幾ら貴女が優れた侍女とはいえストレンジが効かないこの格子をどうにか出来るわけがない」

「そうだプー。諦めろプー。それに、側面に回ってもムダムダムダプー。この部屋一帯全ておいらが作り直しているからストレンジは効かないプー。それに、物理攻撃しようにも身体能力がLv60以上無いとこの鉄格子は壊せないプー」


ロランの言葉に便乗するように、フウタが揶揄した笑みを浮かべて言う。


「身体能力Lv60以上の人間なんてラクロワ家の人間以外いるわけないだろ!?レオポルド、そう言えばお前はラクロワ家の人間。お前なら──」

「…申し訳ございません。俺の身体能力はLv42なので到底及びません」


レナルドの問いにレオポルドが悔しげに拳を握り締め俯いて答える。

幾らラクロワ家と言えど、身体能力だけでそうそうLv60以上いくものではない。現に、ラクロワ家でもLv60以上あるのは総帥とレオポルドの父と長男のポールくらいだ。それに、平均的な身体能力はLv20前後であり、騎士団に所属する屈強な戦士でもLv35くらいなものだ。

屈強な戦士以上の力を持つレオポルドも一般人から見れば規格外な上に流石ラクロワ家の三男坊として憧憬される程の人物である。


「ぷぷぷ。身体能力だけでLv60以上いく人間なんか到底いるわけないっプー。残念だったっプー」


フウタは彼等に打つ手は無いと確信して嘲笑を向けた。


「Lv60以上…。それを聞いて安心しました。」

「な、何だと。お前おいらの話を聞いていなかったのかプー」

「聞いていましたとも。身体能力がLv60以上あればこの鉄塊は壊せるのですよね?」


自信たっぷりだったフウタにそう返したのは、ルイーズの侍女であるサビーヌだった。

サビーヌのストレンジは戦闘向きではない。それなのに、ルイーズの訓練に手合わせの相手として選ばれる理由。それは、彼女の身体能力の高さにあった。

サビーヌはステータスを機械で測らずとも何時でも好きな時に認知することが出来るが故、彼女は諸々のレベルが上がるのが楽しくて技を磨いていた。

いつしか、その強さは総帥に匹敵する程の強さとなっていたのだ。


「離れていてください。破壊します」


殿下達にそう忠告してサビーヌは拳を振り上げた。

目にも見えない速さで数発の打撃を繰り出す。

男の太腿の太さはある鉄格子はサビーヌの攻撃を受けて、砕け散り人が通れる程の穴が出来た。

サビーヌの規格外の力を目の当たりにして驚きに場が固まる。

サビーヌの力を知っているはずのソレンヌとエドウィージュもこれ程の身体能力をサビーヌが持っていたことに驚きを隠せずに目を見開いていた。


「さて、お嬢様達を返して貰います」


サビーヌは何事も無かったかのように室内に歩みを進めた。


「お、お前達何をぼさっとしているプー。早くこいつ等を始末するプー!!」


サビーヌが室内に入って来たことで正気に戻ったフウタが見張り達に指示を出す。

その指示に見張り達は慌てて武器を構えた。


「室内に入ればこっちのものだ」

「エリヤに怖い思いをさせた報い君たちで晴らさせて貰うよ」


見張り達が動くと同時にレオポルドとヴィヴィアンも動いた。

しかし、またも彼等のストレンジは威力を発する事が出来なかった。


「だから言ったプー。この部屋全ておいらが作り直したって」

「…ならば、ストレンジを使わなければ良いだけのこと」


レオポルドは腰に差した剣を抜いて、武器を構える敵に突進した。

その後に続いてサビーヌも動こうとした時。


「ルイーズ嬢がいない…」


サビーヌの後ろからボソリと呟く声が聞こえた。

ジェルヴェールは鉄格子が壊されてから直ぐに室内を見回した。そこに、アクアマリンの色がない事に気付いて無意識に漏れた言葉だった。

サビーヌはその声を聞き取って室内をくまなく見渡す。しかし、そこには己が仕える主人の姿が無かった。


「サビーヌさん、姐さんは別の部屋にいる。恐らく、そこの丸い男が知っているはずです」


エドウィージュが叫んだ。

その言葉と共にサビーヌが動く。目にも止まらぬ速さでフウタの間合いに入ったサビーヌは銀食器のナイフを取り出しフウタの首にあてる。


「お嬢様は何処です。アクアマリンの髪をした少女の居場所を教えて下さい」

「プヒイィ」


眼孔を見開き脅すサビーヌにフウタは玉のような汗を噴き出して悲鳴を上げる。

その時、背中に電気でも流れるような殺気を感じてサビーヌはフウタから手を離し振り返る。


「……女性の背後を狙うとは関心しないな」

「敵である以上、女子供は関係無いですよ」


サビーヌは手に持ったナイフを振り抜くのをやめた。

サビーヌの背後には剣を抜いて突如現れた人物の太刀を受け止めるジェルヴェールの姿があった。


「な、No.12様っっ」


フウタは助けが来たことに歓喜の声を上げる。


「フウタ。貴方は退いていなさい。邪魔です」

「は、はいでプー」


フウタはNo.12の言葉に大きく頷いて壁際まで逃げようとする。


「逃がしません」


サビーヌは手に持ったままのナイフを投げた。

サビーヌが投げたナイフはフウタの頬を掠り血が流れる。


「プヒイィ、痛いプー。怪我しただプー」


フウタは掠めただけの傷に大袈裟に泣き喚いた。


「フウタ!……っ、」


No.12がフウタの元に行こうとするのを、遮る人物に彼は眉宇を寄せた。

No.12の行く手を阻んだのはジェルヴェールだった。ジェルヴェールは剣を構えてNo.12から目を離さない。


「本当に嫌になりますねぇ…。随分と昔に貴方は死んだと報告があったはずなんですが……別人かとも思いましたが、どうやら本物のようだ……」


No.12はジェルヴェールの隙の無さに、微苦笑を浮かべて誰にも聞こえない程の小さな声で呟いた。

ジェルヴェールの周囲に冷気が漂う。フウタのストレンジの特性が部屋全体に適応されている為、ジェルヴェールのストレンジは冷気を発症させるのが精々といったところだが、No.12とジェルヴェールとでは単純な力技であればジェルヴェールの方に分があるとNo.12は冷静に力量を見定める。


「ラシェル、無事か。今解いてやるからな」


ストレンジの力を制限された室内での能力使用はあてにならない。

どうしようかとNo.12は考えあぐねていた時、少し離れた場所からレナルド達の声が聞こえた。

レナルド達へと標的を変えたNo.12は人質を取るために彼らの元へと向かう。

しかし、彼等の元へ辿り着く前に目の前で火の玉が横切りNo.12は一時停止した。


「君の行動などお見通しだ。強い力が出せなくとも君を足止めする程度なら2割の力で十分だ」


レナルド達とNo.12の間に現れたのはロランだった。No.12はロランとジェルヴェールの間に挟まれる。


「ふ、ふはははは。流石ですね。中央騎士団団長と副団長を足止め出来れば問題無いと思っていましたが…此方の読みが外れてしまいましたね。ルイーズ嬢の侍女…盲点でしたよ……」


No.12は突然笑い出したかと思えばそう言い残して姿を消した。


「なっ、何処に行った」

「決戦の日にはまだ早い……」


敵の姿が消えた事にロランが辺りを見渡すと、突如室内に風が吹いて室内にいた者達の耳にその言葉だけを残してNo.12の気配は完全に途絶えた。


「No.12様待って下さいプー。おいらを見捨てないでくださいプー!」


フウタがそう懇願するも、No.12からの返答は一切無かった。



敵を制圧したロラン達はサビーヌが檻を破壊して囚われていた人々を無事救出した。

救出された人々はロランやジェルヴェール達に泣きながらお礼を言った。


「良かった、ラシェル。君が攫われた時は心臓が止まったかと思ったよ」

「レニー様ぁ、フェルナン様ぁ、怖かったですうぅ」


その中でレナルドとラシェルは人目も憚らずに抱き合う。


「もう大丈夫だ。私達がついている。何があってもラシェルは私達が守るから安心して」


レナルドはラシェルを強く抱き締めながら言った。

それを黙って見つめる人物が一人いた。

二人を見つめる人物は両手をきつく握り締め、唇を引き結び眉宇を寄せて視線を床に落とした。

きつく握り締めた手を優しく包み込む手があった。

俯いていた人物は慌てて顔を上げる。


「ソレンヌ嬢…君が無事で本当に良かった」


きつく握り締められたソレンヌの両手を優しく包み込んだのは、ロランだった。

眉尻を下げて酷く安堵した表情とソレンヌに優しい眼差しを向けるロランの姿にソレンヌは思わず胸が鳴る。


「ロラ──」


ロランはソレンヌの片手を取ると自身の額に押し当て目を閉じた。


「間に合って良かった。君の身に何かあれば私は耐えられなかっただろう…」


まるで告白でもされているような台詞にソレンヌは双眸を見開いて固まる。

時間にしてほんの僅かな時間だが、ソレンヌにとっては数分間もの時間に思えた。


「レオ、サビーヌさん!姐さんを…早く姐さんを助けなくちゃ」

「エド、無理するな。血が出てる」

「私の事は後でいい!私達のせいで姐さんは捕まったんだ。私が…私が弱くて人質になったばっかりに!」


エドウィージュの声が室内に響く。

肩を貸そうとするレオポルドを押し退けてエドウィージュは負傷した脚を引き摺りながら、ルイーズを探しに行こうとしていた。


「おい!ブータ、姐さんの居場所を早く教えろ!」


エドウィージュは捕縛されたフウタの元に向かい、言葉遣いも荒く尋ねる。


「知らないプー。知っていたとしてもお前達には教えないプー」

「家畜の餌になりたく無かったら正直に話した方が身の為ですよ」

「ほほほ本当においらは知らないプー。この部屋に連れて来られた人達しかおいらは認識してないプー」


鋭利な目をしてナイフをフウタの首元に突き付けるサビーヌに、フウタは慌てて首を振って弁明する。


「チッ、役立たずが」

「お前達、酷いプー。おいら役立たずじゃないプー」


助けが来る前にエドウィージュにも役に立たないと言われ、追い討ちをかけるように睥睨を向け舌打ちをするサビーヌにフウタの繊細な心はズタズタにされてボロボロと涙を流して泣き出した。


「私はお嬢様を探しに向かわせて頂きますので御前失礼致します」


サビーヌはフウタを無視して殿下達に向けて一礼する。


「待って。私も…」

「エド、その身体じゃ無理だ」


サビーヌについて行こうとするエドウィージュをレオポルドが止める。

頭突きと蹴りを繰り返していたことによって、頭部と利き足を負傷しているエドウィージュでは捜索は困難であることは誰の目から見ても一目瞭然であった。


「おい!何をしている。早くこんな所から脱出するぞ。何時までもこんな危険な場所にラシェルを置いておけない」

「こんな怖い場所何時までも居たくないですぅ。みんなのお陰で私は無事なので早く帰りましょ」


先程まで完全にマイワールド空間を醸し出していたレナルド達が揉めているエドウィージュ達に声をかける。

自分の事しか考えられないレナルドとラシェルに場が凍る。

ルイーズがいない。

先程からそう言っているのに、ルイーズを放って撤退すると言っているように誰もが聞こえた。


「レナルド王子。それはルイーズ嬢を置いて撤退するという事ですか」


ロランがレナルド達の前に立ちはだかり無表情で尋ねる。


「い、いや、そうは言っていません。ですが、ルイーズは何処にいるか分からないのですよね?そ、それなら一度体勢を立て直してから…」

「そんな悠長な事をしている間に手が届かない場所まで連れ去られたらどうするつもりですか!!」


ロランの怒声が室内に響き渡った。

あまりの浅慮さに我慢の限界だった。仮にも一国の王子で国民を助けなければならないものが、自国の民を見捨てるとも取れる発言をしたのだ。


「怒鳴ってすみません…。サビーヌさん、ジル。君たちはルイーズ嬢の救出に向かってくれ。こうしている間にも敵に逃げられるかもしれない」


一息ついて心を落ち着かせたロランは、サビーヌとジェルヴェールに指示を出す。

その指示にサビーヌは頭を下げ、ジェルヴェールは「御意」と短く返事を返してルイーズの捜索へと向かった。


「ルイーズ嬢の捜索には二人を向かわせました。私達は領民達を脱出させましょう。レナルド王子達は脱出したら一足先に王都にご帰還頂いて結構ですよ」


ロランは冷たくそう言い放つと、廊下まで出て外へと繋がる壁を壊して脱出経路を確保する。

彼等が通って来た道は未だ戦闘が続いている音が聞こえている。

エドウィージュもルイーズの捜索に向かうと駄々を捏ねていたが、ソレンヌの説得に渋々脱出する事となった。

王子達の活躍…出来てなくね?

ごめんなさい、態とです。王子達の活躍を楽しみにしていた読者様は申し訳ございません(汗)

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