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悪役令嬢は王子様を御所望です  作者: 茗裡
第三章 正編
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27話 ストレンジ狩り


「さて、洗いざらい話して頂きましょうか」


私達は賊の一団を縛り上げリーダー格の男に問う。


「ストレンジ狩りとはあなた達の仕業?」


ソレンヌ曰く、領地で店舗を構えているストレンジ持ちの店主達や平民の子供でストレンジ持ちである事が知られている者や街の警備を担っている衛兵までもが数人姿を消しているのだという。


「知らねぇな。知ってても誰が言うか…」

「エド」

「おっけー」


ゴンッ


悪態つくリーダー格の男の返答に顔色を変えることなくエドの名を呼ぶ。

エドは私の意図を汲み取り、心得たとばかりに目を輝かせて捕らえた賊の一人に掴みかかれば頭突きを食らわせる。

身体強化が使えるエドは勿論無傷であるが、エドからの頭突きを受けた男は鈍く重い大きな音と共に一撃で撃沈した。既に額からは膨れ上がるたんこぶが出来つつある。


「ひっ」


それを見たリーダー格の男と他の賊達が狼狽える。


「ああなりたくなかったら──」


途中まで言いかけた言葉を飲み込み複数の水泡を空中に作り上げる。


「…素晴らしい。よく、私の攻撃を止めれましたね」


パチパチと拍手をしながらフードを被った黒ずくめの人物が姿を現した。

私の作り上げた水泡の中には無数の短剣が捉えられていた。


「誰です。攻撃をするにしては随分と的外れな場所に攻撃なさるのね」


短剣が向けられた先。それは、私達の方ではなく、賊の一団を狙ったものだった。


「いえいえ、的は合っていましたよ。役立たずのゴミは処分しなければならいないでしょう?」

「お、お前はっ」

「頼んだ依頼もまともに請け負うことが出来ないとは…幻滅致しましたよ」


クスクスと肩を揺らして笑う黒ずくめの人物。声からして男だろうか。

リーダー格の男が声をかけると、黒ずくめの男はピタリと笑うのを止めて感情の読めない声で言葉を紡ぐ。


「貴方がストレンジ狩りの主犯格ですの?」


ソレンヌが鋭い目で黒ずくめの男を睨み付けて問う。


「主犯格、とは違いますがストレンジ持ちの人々を集めてはいますよ」

「何のためにっ!その人々を何処へやりましたの!?」

「何処って、目の前にいるではないですか」

「え!?」


男の発言にソレンヌは目を見開く。

そして、ストレンジが使えないようにする特殊な縄で縛り上げている賊の一団を凝視する。


「嘘だわ」

「何故そう言いきれるんですか?」

「だって、この中に失踪した人は一人もいないもの」

「成程。貴女は顔が変わっているという可能性は考えないのですね」

「捕まった人の中に顔を変えることが出来るストレンジを持つ人は一人もいなかったはずですわ」


ソレンヌは男の言葉に思い切り眉宇を寄せて反論する。


「自分の顔だけでなく、人の顔も変えることが出来る者が此方にいるとすれば?」

「なっ、そんなこと」

「有り得ないと本当に言いきれますか?」


その言葉にソレンヌの表情は一変して青白いものへと変わる。

ストレンジには様々な能力がある。

オーソドックスな四元素系からヒロインの無効化やジル様の命の恩人である陰影の威圧等一般的に知られていない物珍しいストレンジを持つ者もいる。


だから、もし、この男が言うことが事実であれば、今私達が捕まえた賊の一団は元は平民や街の警備兵達であった可能性はある。


「そこの君。コードネームではなく本名を名乗りなさい」


黒ずくめの男に指名された一人の人物が俯きがちに名前を名乗る。

その名を聞いて、再びソレンヌの双眸が見開かれた。ソレンヌの様子からして、恐らく行方不明となっていた人物で間違いないのだろう。


「どうやらこれで信じて頂けたようですね」

「…何が目的ですの」

「そこの男が言ったようにあなた方が目的ですよ。本当はソレンヌ嬢を誘き寄せるつもりでしたが、私達の行動が広まるよりも思いの外早くこの街に来られてしまったようですがね」

「何故私達を狙うのですか」


男に問いかけるがそれ以上の返答は貰えなかった。

これ以上は話す気がないのか、先程よりも私達に向ける殺気が増している。


「ソレンヌ、エドは至急此処を離れて頂戴」


私は二人に小声で指示を出す。


「さて、話し過ぎてしまいましたね。まあ、あなた達を捕まえれば問題ないでしょう。一応聞きますが、大人しく捕まってくれる気は…」

「無いわ。逆に貴方を捕らえて貴方の後ろにいる黒幕を吐かせるわ」

「ふ、ふふふ。ふはははは、それは面白い。とても面白い冗談ですね」


男から発せられる殺気がどんどん膨張する。

殺気に当てられた肌がピリピリと神経に伝わり粟立つ。男の殺気にエドは臨戦態勢を取るが、初めて向けられるであろう本気の殺気にソレンヌは竦んでしまっている。

それに、容赦無く賊と思っていた人々を殺そうとした。人が死ぬことに慣れている者の手口だ。

そんな殺人鬼紛いな男とソレンヌやエドを戦わせる訳にはいかない。


「ソレンヌ、捕虜達を一箇所に集めエドと共に瞬間移動で脱しなさい。子供たちはソレンヌの結界が解けたら直ぐにサビーヌが脱出させるはずよ。それまでわたくしが時間を稼ぐわ」

「私も戦う!」

「エド、ソレンヌをお願いね」


血の気が多いエドは案の定、私と残る事を主張するが私は落ち着いた声音でソレンヌの事を託す。

その言葉にソレンヌへと目を向けたエドは少し冷静になれたのだろう。相手の殺気にあてられて無意識に小刻みに身体が震えているソレンヌを見てエドは渋々、捕虜達を連れて逃げることに了承した。


「話しは済んだか」

「あら、待って下さっていたとはお優しいのね」


私達の話が終わるまで待ってくれていた敵に一笑で返す。

だが、敵は意に介した様子も無く身構える。短剣を収めた水泡の一つを手元に寄せて中から敵が放った短剣を握り締め緊迫した空気で両者向かい合う。


先手必勝。

先に攻撃を仕掛けたのは私だった。

男の手には短剣が握られ、私の攻撃を受け止めた。

その直後四方から拳台の石が私目掛けて飛んで来る。

それを後方に飛んで避けると拳台の石はパラパラと地面に落ちる。

敵のストレンジが念動力であることは分かった。それも、割と強力な使い手だ。

今も、水泡の中に捉えた短剣が彼の力に反応してぐるぐると旋回して動き少しでも気を抜くと水泡の中から飛び出してきそうだ。


「貴方は何者ですの」


これ程の力を持つということは貴族の者か名のある者のはずだ。


「流石ルイーズ嬢。規格外の強さだ。これだけではなかなか倒せませんね」


私の力を知っているような口振りに眉宇が寄る。

念動力はオーソドックスなストレンジの為割と多くの人が保持する力だが、ここまで強い力を持つのはルイス王子とラフ兄様くらいしか知らない。


「しかし、念動力で私の動きを止められないのならラフ兄様程の使い手ではないわっ」

「私がいつ使えるのは念動力だけだと言いましたか?」

「なに!?」


未だ飛んでくる石を水の壁を作って防御し、地面を蹴って前に出る。男に向かって攻撃を仕掛けると突如熱風が襲った。咄嗟に両手をクロスして身を守り水の防壁を作るがジュッ、という音に熱風では無いことに気付いた。

私に向かって放たれたのは炎だった。


「どういうこと…ソレンヌと同じストレンジだとでもいうの…」


驚きに動きが止まる。

ソレンヌはパワーストーンの使役が出来るが、そんな事が出来るのはソレンヌただ一人しか知らない。

それに、お父様からも歴代でもソレンヌの力を持つ者はいなかったと聞いている。


「ソレンヌ嬢とはまた違いますね。」

「ならばストレンジを複数保持しているということ?」

「それも違います。私の本当の力は念動力だけですからね」


どういうことだ。

理解が及ばない。何故この男は複数のストレンジが使える。


「何も驚くことではないのでは?ソレンヌ嬢の他にも複数のストレンジを使える人がいるではないですか」

「!?……何者ですの。貴方、少なくとも内部の者ですわね」


私の発言に男は口角を上げて嫌な笑みを形取る。

その瞬間、背筋に悪寒が走った。

男が言ったソレンヌの他とは私の事で間違いないだろう。だが、私がピッピコの力を使役出来ることはソレンヌもエドも知らない。

知っているのは、家族とサビーヌ。それから、王城で働く上層部の極一部しかいない。

内部に反逆者がいるとでもいうのか。それもかなりの地位に着く者だ。

これは、捕らえて陛下に突き出した方が良いだろうと考え私は本気を出すことにした。

蹴り出した地面が凹む。エドよりも速い速度で男に向かっていく。

男は念動力、火、風様々なストレンジを使って私に攻撃を仕掛けるが遅い。目前に迫る攻撃を全て素早い動きで避けて男の懐に入る。その瞬間、腹部に防御強化がされた事に気付いて私は男の右腕と襟を掴み股下に足を入れ左足を軽く払う。右に男の身体が傾いた所に腰を落として身体を反転させて男の体重を背中で支える。掴んだ男の右腕を右肩にかけ、脇下に襟を掴んだまま右肘を差し込み前に押し出すと落とした腰を立たせる事で男の両足が地面から離れ宙に浮く。

男を掴んだまま両手を振り抜き右手を途中で離せば男は一回転して私の目の前に転がった。突然の背負投に男は受身を取ることなく背中を強打して呻き声を上げる。


「観念なさい。貴方は……」


男の右手を掴んだまま見下ろす。

フードの下に隠れていたその顔貌を確認しようと男の顔を見ると、


「……誰?」


初めて見る人物だった。


「貴方も顔を変えているのね」

「ふっ。それはどうでしょうね…いたた。貴方が知っている私が素顔か、この顔が素顔か…」


男は観念したように一つ息を吐いて脱力したのが分かった。地面に寝転がったまま嘲笑を浮かべる。


「姐さんっ、逃げ──」


エドの叫び声に顔を上げる。

すると、そこには、黒ずくめの人物が複数人立っていた。

黒ずくめの集団に捕まったエドとソレンヌが映る。

直ぐに助けに行こうとすると、私達との間にまた別の黒ずくめの集団が現れた。

奥に見えるエドとソレンヌは力なく項垂れている。

口と鼻を覆うように布があてられている事から睡眠薬か何かを嗅がされたのだろう。


「何をしている」

「いやー、すみません。やっぱりルイーズ嬢は手強かったです」


私とソレンヌ達との間に現れた集団の中の一人が地面に伏す男を見下ろして声をかける。

私に倒された男は声をかけた人物に戯笑を向けて答える。その答えに、問い掛けた人物は溜息を零して私に向き直る。


「あの二人を傷付けたくなければ大人しく俺たちに捕まれ」


目の前の男を鋭く睨み付けるも奥に見えるエドとソレンヌを囲む集団を見て私は両手を上げて降伏した。


「捕らえろ」


目の前の男の言葉に左右にいた黒ずくめの人物が私に手錠をかける。

それも、ご丁寧にストレンジを封じる手錠だ。

これではピッピコを呼び出すことも出来ない。


サビーヌは無事逃げ果せただろうか。

彼女は出来た侍女だ。ソレンヌの結界が解けた時に裏口から外に出ている可能性はある。

あとは先に逃がしたロマ様とエリヤ様が無事ストレンジ騎士団に辿り着いてこの出来事を報告してくれていれば、時期にストレンジ騎士団から救助隊が来るはずだ。

それまで、エドとソレンヌに危害が加えられないように私が気を付けていればいい。

黒ずくめの一人がゲートを開く。

気を失ったエドとソレンヌは男達に担ぎ上げられ、ゲートの中に消えた。私も黒ずくめの集団に連行されてゲートを潜った。

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