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2話 お兄様

私は鏡の前で目尻を上げたり下げたり、両手で頬を引っ張ったり押し潰したりしてみる。

すると、鏡の中の少女も私の動きに合わせて顔の形を変える。



私は頬を押し潰した状態でスゥッと目を細め遠い目をする。




知ってたけどね。うん。

これが現実なんだよね。うん。




傍から見るとつい先程前世の記憶を取り戻したと思えない冷静さに見えるがそんな事はない。心の中は大嵐の様に感情が渦巻き壁に頭を打ち付け血の気を抜いて落ち着きたい衝動に駆られる程には動揺している。




うわぁ、美幼女はタコ顔で悟り目してても美少女なんだな~




なんて、現実逃避気味の思考で鏡に映る自分の姿を見つめながらしみじみ思ったり。




コンコンコン、ガチャ




「ルゥ、入るよ」




静寂を保っていた空間に音が響いたかと思うと扉が開かれ誰かが入室してきた。



私は今の一連の流れを首を傾げて思い返してみる。

コンコンコン、ガチャ

その音のすぐ後に入室を伺う声が聞こえた。




ん?─────




私は鏡の前で固まり鏡越しに入室して来た人物を見やる。

部屋に入って来たのは私と同じアクアマリンの髪色をした男の子。私が認識していた常識とは程遠い入室方法に小首を傾げているとその男の子と目が合う。



ドシャリ、効果音が付くならこんなところだろうか。

扉を開けて数秒固まっていた男の子は片手にドアノブを握り締めた儘空いた手で口元を押さえ膝から崩れ落ちた。




「お兄様っ!」



崩れ落ちた人物の元へと駆け寄ると苦しそう肩を震わせて深い呼吸をしている。




「マティ兄様大丈夫ですか?」



俯いて前髪に隠れた顔を覗き込むと私よりも薄い菫色の瞳が大きく見開かれる。

視線が交わることコンマ数秒。金縛りにあったように体が動かない。というか、これ以上近付く事を身体が拒否している。

あ、何か変な汗まで出てきた気がする。


ぼんやりと他人事のようにそんな事を思っているとマティ兄様は急に素早い動きで顔を上げ両手を広げた。




「るぅぅぅうぃぃぃずぅぃぃぃぃ」




あ。やばい。



そう思った時には既に遅かった。

巻き舌で奇声を上げたかと思えば回避する間も無く彼の腕の中に捕らわれる。




「何だい?先程の可愛いお顔は!!ああ、ルゥは何時でも世界一可愛いが先程の顔もまた格別に可愛かったんだよ。そうだ。今から絵師を呼んで先程の天使のポーズを描いてもらおう!ところでルゥは何をしていたんだい?両手を頬に当てて唇を突き出して…ハッ、もしやキスの練習かい?ああっ、俺のルゥはなんていじらしんだ!!隠れて練習なんかしなくとも兄様がちゃんと教えてあげるし下手だからってルゥの事を嫌いになったりなんかしないよ。それじゃあ、先ずは目を閉じて──」


ここまで一息に言い切れば先程まで絞め殺される勢いで抱き締められていた腕が緩む。ドン引き状態で冷たい視線を送っていたら目前に均衡のとれた端正な顔が迫っていた。




「ちょ、待って。待ってくださいませっっ」



慌てて顔の前に両手で防壁をつくりガードする。しかし、精一杯の制止も無駄にするかのように近付く距離は徐々に狭まるばかり。掌越しに唇が触れると思った瞬間目の前の人物が消えた。


いや、正確には吹き飛んだ、が正しいかもしれない。次いで、浮遊感に襲われたかと思えば誰かの腕の中に居た。

臀部に腕を通し私を抱き上げている人物を見上げる。



「ルイーズ大丈夫?マティ(変態)に何もされなかった?」


「ありがとうございます。グエン兄様、ラフ兄様」




現れた二人のお兄様に安堵の息を吐いてお礼を言う。グエンお兄様の発言に副音声が聞こえたが気の所為だと思うことにした。



「ラフ!お兄様に向かってなんて事しやがる!!グエン兄さんも俺のルゥを返して下さいっ」



マティ兄様と私たち三人の距離。約30m。


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