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悪役令嬢は王子様を御所望です  作者: 茗裡
第三章 正編
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24話 ソレンヌの相談


大型連休に入った二日目の朝に一つの書簡が届いた。

差出人はソレンヌで何でも相談があるのだという。

私は直ぐに返事を出して、明日ソレンヌと会う約束をした。


そして翌日。

私達は今、馴染みの喫茶店で個室を貸切って向かい合う。

ソレンヌは注文した紅茶に手を付けようとはせずにずっと俯いたままだ。私は無理に話を聞き出そうとはせずに目の前に置かれた紅茶を口元に運んで場を持たせる。

個室に入りたっぷりと待って漸くソレンヌは決意した目で顔を上げると口を開く。


「実は連休に入った翌日にお父様から呼び出され重大な話をされたのです。」


重そうに口を開くソレンヌからその話がどれ程重大であるのかを悟った。彼女の目の下にはまじまじと見ないと分からない程度だが薄らとクマが出来ており、目元も赤くなっている気がする。


「わたくし、一人で考えてもどうしたらいいのか分からなくて…」


ソレンヌは眉宇を寄せて唇を引き結んで再び俯いてしまった。

ああ。そういうことか。

私は彼女の様子で察すると席を立ちスカートをきつく握り締めるソレンヌの手にそっと手を添える。

彼女がこの仕草をするのは決まってレナルド王子に関することなのだから。


「話して頂戴。一人で抱え込むよりも聞いてもらった方がスッキリすることもあるわ」


片手はソレンヌの手を握ったままで空いた手で彼女の頭を撫でる。

本当はソレンヌが話し出すまで待つつもりだったけど、何をどう話していいのか分かっていない彼女には整理させて話させるより思いのままに口に出させる方がいいと判断して話を促す。


「おねっ…さまぁぁ」


ソレンヌは双眸に涙を貯めて私を見上げる。そして、堪えきれなくなった雫が溢れ出し声を上げて泣く。

一通り泣き叫んだソレンヌはすんすんと未だ鼻を鳴らしつつも何があったのかを話し出した。



大型連休で自宅に帰ったソレンヌは翌日に王城から戻って来た父に書斎に呼び出されたとのこと。

そして、そこで語られた内容に驚愕する事となる。


「レナルド王子とルイス王子を廃嫡なさることが決まった」


重々しくソレンヌのお父上は口を開いたという。

まだ、いつ公表されるのかは決まっていないとのこと。

本来であればこんな重大な事を他言するなど以ての外だが、ソレンヌは耐えきれ無かったのだろう。

そこで、恐らく私が誰にも他言しないと信頼して打ち明けてくれたのだと分かる。それに、彼女が追い詰められているのは彼等の廃嫡とはもっと別のところなのだとソレンヌの様子から感じた。


「レナルド王子とルイス王子の廃嫡がなされた後は王宮の離れに蟄居されるそうなのです」


なるほど。

あくまで廃嫡しても王城で匿うと言うことか。国外追放は多国間との関係を崩す可能性があるから妥当な判断だろう。

ただ、気になるのは彼等の母方のパストゥール家に二人を送るのではなく廃嫡して尚、二人を王宮で面倒を見るということだ。


「わたくし、分からないのですっ」


ソレンヌの声に思考の沼から意識を引き上げる。


「わたくし、レナルド様に身分があろうとなかろうと関係無く、レナルド様という人柄を好きになりました」


そう紡ぐ声が震えている。


「レナルド様が王位を継いでも隣に立っても恥ずかしくないようにわたくしも励んで来ましたわ。また、レナルド様が庶民になろうとわたくしは何処までもお供するつもりでずっと彼の傍でレナルド様だけを見てきました。」



知っている。

ソレンヌがどれ程レナルド王子を想っていたのか。

私とエドは何年もレナルド王子に尽くすソレンヌの姿を見て来たのだから。


「ですが、レナルド様には今想いを寄せている女性がいます」


ソレンヌの身体が小刻みに震え出す。

双眸からは再び大粒の涙が溢れる。


「お父様は、レナルド様とわたくしの婚約を白紙に戻すと言っているのです。わたくし…ずっとずっとレナルド様をお慕いしておりましたが今はもう自分の気持ちすらも分からなくなってしまったのですっ」


ソレンヌは苦しそうに胸元を抑えてそう吐き出す。彼女を苦しめている存在、それはラシェル嬢だろう。

ラシェル嬢の事がなければ恐らくソレンヌもレナルド王子と共に寄り添っただろう。


レナルド王子とルイス王子の境遇は公爵位を持つ私もソレンヌも知っている。双子の王子は陛下とも実母とも違う茶髪の髪色をしているせいで周りから本当は陛下の子ではないのでは無いかと噂されそのせいで実母からも愛されることが無かった暗い過去を持つ。ただ、彼等が本当に陛下の血を継いでいるのかは真偽のほどは分からない。

そのせいで、ヒロインのラシェル嬢に付け込まれるのだが、ただ腑に落ちないのはレナルド王子は何故ソレンヌでは駄目だったのかということ。


ソレンヌは全てを分かっていた。レナルド王子の生い立ちも寂しさも、そして多大な不安を抱えていることにも。

スタン様が亡くなった事が世間に発表されたことにより、次期国王として目を向けられるのは第二子であるレナルド王子だ。その為、レナルド王子は生い立ちの噂が耐えぬまま次期国王として周りからや実母からも持ち上げられる事となる。

しかも、スタン様は何でも器用にこなせてしまう人だった為周りからの期待も厚く卒無くそれに応え、正妃の子としても生まれも問題無かった。それが急に重責を背負わされる事となったレナルド王子は耐えられ無かったのだ。いつでも何処でもどれだけ頑張ってもスタン様の影が付き纏う。


しかし、その苦しみを共に背負い、彼を支える覚悟を齢10にも満たない内に決めたソレンヌは常に彼に寄り添い励まし支えた。

時に、筆頭公爵の権力を用いつつも周りの黒い噂や白い目で見られるレナルド王子をソレンヌが周囲を認めさせられる程の優秀な令嬢となる事で守って来たというのにレナルド王子はぽっと出のヒロインなんかに陥落してしまったのだ。


「レナルド様はもう…わたくしを見てくれることは無いのでしょうか」


ソレンヌの事を思うと胸が痛くて苦しくなる。

私も、スタン様の隣に立っても周囲に認められる恥ずかしくない令嬢になる為に励んだ。それが身を結ばないというのは心を削られるほどに辛く悲しい事だ。


「ソレンヌは今でもレナルド王子を慕っているの?」

「……分かりませんわ。レナルド様がわたくしを見てくれなくなってから、最近では何処か諦めてしまった自分がいるのです」


これが、ソレンヌの本音だろう。

ラシェル嬢に想い人を奪われ初めは抗おうと取り戻そうと頑張った。しかし、レナルド王子がソレンヌを見ることはなかった。


「お父様にレナルド様との婚約を解消すると言われて、嫌だと思う自分とわたくしに心がないレナルド様にわたくしの人生を捧げてでも彼に添い遂げる覚悟があるのかと言われれば何も答えられないのです」

「ソレンヌ…。……貴女がずっとレナルド王子だけを想って彼を支えて来たのは皆が知っている。…だけど、もういいんじゃない?過去のことにしてしまっても、前を向いて自分自身の幸せについて考えても…」



私の言葉はソレンヌに届いただろうか。

彼女は私を数秒見つめた後にくしゃくしゃに顔を歪ませて声を上げて泣き叫んだ。

これ以上ソレンヌを悲しませないで欲しい。ソレンヌを自由にして欲しい。レナルド王子から解放してあげたい。

その思いから出た言葉だった。


どれだけ寄り添っても、励ましても、ソレンヌの存在が隣にあって当たり前だと奢り不遜な態度を取って、他の女に心奪われるようなそんな不誠実な奴にソレンヌは渡さない。

楽しい時も嬉しい時もあったかもしれない。

だけど、ここ最近のソレンヌは毎日辛そうな表情をしていた。五歳の時からレナルド王子一筋だったから九年間思い続けたその恋心にピリオドを打っても良いのではないか。

レナルド王子から僅かに心が離れつつあったことにもソレンヌ自身気付いていたのだろう。苦しいだけの恋に何時までもしがみついていたのはただの執着であったのだと気付いたソレンヌは後日、婚約解消の話を受ける事にした。


私と話し合った日を含め二日程泣き続けたらしいが、気持ちに整理がついて、連休五日目には何処か吹っ切れた様子のソレンヌと再会する事が出来た。



そして、ソレンヌの返事を王城へと持ち帰った彼女の父親は陛下達と共に粛々と彼等についてや今後巻き起こる出来事について誰にも気付かれないように水面下で動きを見せていた。

いつも、誤字脱字報告ありがとうございます。

大変助かっております。

このスペースをお借り致しましていつも拙作をお読み頂いている皆様に感謝申し上げます。

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