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悪役令嬢は王子様を御所望です  作者: 茗裡
第三章 正編
55/75

22話 何度でも…


『ルゥ泣かないで。君には笑顔が似合う。僕はルゥの笑顔が大好きだよ』


内気で泣き虫だった頃にスタン様が私の涙を拭いながらよく口にした言葉。

ジル様が口にした言葉に一筋の涙が零れ落ちた。

しかし、今は感傷に浸っている場合ではない。手の甲で涙を拭い気を引き締める。




さて、どうしたものか。


私は吹き抜けの渡り廊下で一人頭を悩ませる。

外にはルイス王子が倒れたまま放置され、私の腕の中には愛しい彼を支えている。


「サビーヌ」


…………



返答がない。


こんな時に限って頼りの彼女がいないのは痛いが、恐らくまた構内を動き回っているかソレンヌの侍従に手解きをしているのかもしれない。


はあ。


私は愛しい彼を腕に抱いたままピッピコ達がいるゲートを開く。授業が終わり随分と時間が経つから皆既に下校しているだろうから人気がないとはいえ、いつ居残った者が此処を通るか分からない。

ルイス王子はそのまま放置しておきたいがそうもいかないだろう。



「ぴ?」

「ぴっぴぃー」

「ピッこぉー」


ゲートを開くと中にいたピッピコ達は私の姿を認めると嬉しそうに丸い体を飛び跳ねさせる。


「みんな、お願いがあるんだけどいいかな?」


そう問いかけるとピッピコ達は「ぴっ」と返事をする。


「この人を看ていてくれる?私の大事な人なの。彼が目を覚ましたらゲートを開いて知らせて頂戴」


私は腕に抱えたままの彼をピッピコ達が住まう異空間に一時預ける事にした。

本当は彼の側から片時も離れたくないし私がずっと彼をみていたいが王子を放置したままにするわけにもいかない。ジル様をピッピコ達に預けて私はルイス王子の元へ向かう。

そして、ルイス王子を姫抱きにして抱え上げれば颯爽と構内へと戻り保健室へと向かった。途中、まだ居残っていた生徒がチラホラといて、私を見てかなり驚いていたが気にすることなく保健室へと続く廊下を進む。



「失礼します。先生はいらっしゃいますか?」


ルイス王子を抱えたまま器用にドアを開けて中に入る。

そこには想像だにしない顔触れが揃っていた。


「おねえ…さま?」


室内にいたソレンヌが驚きに目を見開いて此方を見ている。

ソレンヌに関しては此処にいる理由をレナルド王子の姿を認めた瞬間に理解した。だが、何故彼等が此処にいるか、またこの状況は何なんだと一瞬考えを巡らせるもこの状況だけで全てを察するなど無理がある為速攻考えることをやめた。


「ルイス!!」


レナルド王子が姫抱きしているルイス王子をみて声を上げる。


「ルイス王子がいきなりわたくしを呼びに来られたのですが、急いでいたようで廊下で滑って頭を打たれてしまったのです。心配で保健室にお連れしたのですが、王宮の医師に診て貰った方がよろしいかも知れませんわ」


私は極力眉尻を下げて説明するとラシェル嬢の隣のベッドにルイス王子を寝かせる。

因みに此処に来る前に記憶操作済みだ。目が覚めてもルイス王子自身も怒って私を呼び止めるまでは覚えていてもその先はよく覚えていないだろう。


「それではわたくし達はこれで失礼いたしますわ。皆様御機嫌よう」


模範のようなカーテシーをして私は保健室の出口へと向かう。

ソレンヌの腕を引いて。


「待てルイーズ」


だが、コトはそう上手く行くはずもなくレナルド王子に呼び止められる。


「何処に行く。それとソレンヌは置いて行け」


舌打ちしたくなるのを我慢して彼等を振り返る。


「わたくし、おまたせしている方がいらっしゃいますの。…そうでしたわ、ロラン殿下とセレスタン様にも内密にお話がございますので一緒にわたくしに着いてきて頂けませんか?」

「私は構わないよ」

「ロラン殿下が行かれるのであれば俺も行きます!」


扇子を取り出し弧を描く口元を隠してロラン殿下とセレスタン様に笑顔で尋ねると彼等はすぐに快諾してくれた。


「レナルド王子、話の続きは明日伺っても宜しいかな?」

「……っ、はい…」


ロラン殿下がレナルド王子にそう声を掛けると彼は一瞬苦い顔をして頷いた。

何か因縁でもありそうなやり取りだが、後でこっそりソレンヌにでも話を聞こう。そうして、ラシェル嬢一人が何か喚いていたけど私達は無視して保健室を後にした。


ソレンヌ、ロラン殿下、セレスタン様の三人は私の後に続く。私は保健室に入ってすぐに念話のストレンジを持つピッピコのネンを使ってサビーヌに連絡を取った。

彼女は侍女や近侍が待機する部屋に戻っていたようで彼女に人気のない場所まで移動してもらいそこでピッピコからジル様の身柄を預かるように指示を出す。恐らく、数分もしない内にジル様を抱えてサビーヌが現れるだろう。


「ところでルイーズ嬢、ジルの姿が見えないが彼は何処に?」


流石一国の王子なだけある。笑顔の裏に秘められた懐疑心が私へと直球でぶつけられる。


「お話というのはジェルヴェール様の事です。彼は今、わたくしの侍女サビーヌが介抱しております」

「それは───」

「お嬢様、人目に付かぬよう移動して参りました」



そこへタイミングよくサビーヌが現れる。

彼女の背中にいる愛しい人は未だ眠ったままである。


「ジルっ」

「ジェルヴェール様っ」


ロラン殿下とセレスタン様が彼の姿を見て瞠目する。


「詳しい説明は場所を変えてお話致しますわ。ソレンヌ、応接室に転移お願い出来るかしら」

「は、はい…大丈夫ですわ」


私はポケットから袋を取り出し一つの石をソレンヌに渡す。訳が分からないながらも私から石を受け取り頷く。


「皆様、ソレンヌの半径2メートル以内に寄って下さいませ」

「では、転移します」


ソレンヌに渡したのはパワーストーンである。このパワーストーンにはストレンジの能力が込められているのだが、本来このパワーストーンに込められた力を使う場合は科学に特化したムルエラ国と技術に特化したマラルメ国の共同作業で出来た機械に設置して使わないと力を発揮しないのだが、ソレンヌにはそれが必要ない。

例えば水のストレンジを持つ私がエドの強化系ストレンジが込められたパワーストーンを使おうとしても使用することは出来ない。その為、恋人同士で送り合うのが通になっているがそれはまた別の話。


ソレンヌはグエン兄様から頂いた瞬間移動のパワーストーンを握り締めると半径2メートル以内に居た私達は別の場所へと転移した。


「ソレンヌ嬢のストレンジは瞬間移動だったんですね」


セレスタン様が転移したのを確認して問うが、彼女のストレンジは瞬間移動ではない。


「いえ、わたくしのストレンジはパワーストーンの行使でございますわ」


そう。ソレンヌは機械を通すことなく自由にあらゆるパワーストーンを使役出来る能力を持っているのだ。しかも、彼女の能力より劣る者がストレンジを込めたパワーストーンであっても彼女は彼女本来が持つストレンジ能力によって力を発揮する事が出来る。ただ、逆も然りでソレンヌよりも力が強い者が作ったパワーストーンであってもソレンヌの能力に合わせてその力は劣ることとなる。


ソレンヌが握り締めていたパワーストーンは中に込められたストレンジ量が無くなると消滅する仕組みになっているが、グエン兄様から貰ったパワーストーンはまだ原型を留めているからあと数回は使用可能だろう。



「では、話を伺ってもいいかな。ルイーズ嬢」


眠ったままのジル様を応接室に設備されたソファーの一つに寝かせ、私達は対面して座る。

ロラン殿下の問い掛けに私は包み隠さずジル様が倒れるに至った経緯を全て話した。ただ、スタン様の名前や彼がダルシアク国の第一王子である事は口に出さずに。


「なるほど……。君は…その、気付いていたのかい?」


しかし、報告する口振りから私が彼の正体に気付いていることを見破ったロラン殿下が重く口を開く。


「ええ。存じ上げておりました」

「そうか。」



室内を制する沈黙が耳に痛い。

ソレンヌとセレスタン様は私達の話に付いて来れずに私とロラン殿下の様子に緊張してしまっているのが分かる。


その時。


「んっ、」


ジル様が身動ぎする声が聞こえ私は慌てて席を立つ。ロラン殿下も同時に席を立ってジル様の元へと向かう。


「………」


静かに目を開けるジル様。

彼はゆっくりと瞳を動かして現状を理解しようと目から情報を取り入れる。


「お気付きですか!?」

「目が覚めたかい」


私とロラン殿下の姿を認めると彼は一瞬瞠目するもすぐに落ち着き体を起こす。


「ロラン殿下…人払いをお願い出来ますか」


開口一番にそう言うとロラン殿下はすぐに行動に移る。


「申し訳ないが、少し外で待機していて貰えるかな」

「ルイーズ嬢には此処に残ってもらってください」


ロラン殿下の指示に従おうと口を開きかけるも再度紡がれた言葉に口を閉ざす。


「分かった。では、ルイーズ嬢はこのまま残ってくれないか」

「かしこまりました」


ソレンヌとセレスタン様、そしてサビーヌにも退室してもらい室内にはジル様、ロラン殿下、私の三人が残った。


「ロラン殿下、ありがとうございます。早速ですが、私の話を聞いてもらえますか」


ジル様はそう言うと芯のある眼差しをロラン殿下に向ける。その瞳は、いつもの冷たいだけの眼差しとは違っていて私もロラン殿下もジル様の変化に気付いた。


「私の名前はスタニスラス。ダルシアク国の第一王子です。私自身全てを思い出した訳では無いですし信じられないでしょうが、恐らく弟と思われるルイスと接触して本来の名前を思い出しました」


ジル様の告白に動きが止まる。

ゲームの途中でも彼は第一王子である事は思い出していた。だが、此処はゲームと違って現実だ。思い出したというのは何処までだろうか。

私を此処に残して私の前で打ち明けたということは私の事も思い出してくれたのだろうか。


そんな期待と不安で心臓が早鐘を打つ。


「そうか、思い出したのか。では、私と君が幼少の頃より知り合いであることは覚えているかい」


ロラン殿下とスタン様が知り合いであったなど初耳だ。ジル様も彼の言葉には驚いているようで瞠目した後に申し訳なさそうに首を振った。

ロラン殿下は少しだけ寂しそうにそうか、と頷いた。



「では、何処まで思い出したんだ。ルイーズ嬢を残したということは彼女の事は思い出したのか?」



その言葉にジル様が私を振り返り視線が重なる。

動悸が早くなる。期待と不安。混沌とした感情が渦巻き無意識に胸元を抑える。

すると、ジル様の表情が僅かに歪み彼の手が近くにいた私の髪に触れる。


「まだ、思い出せない。思い出したのは私の立場と名前だけです」


その言葉に心臓が凍りそうな程に凍える。


「だけど、ルイーズ嬢は私の事を知っている。何故、君はいつも泣きそうな顔で私を見るんだ?私と君はどういう関係だったんだ?君が泣きそうな表情で私を見る度に何故か私も胸が苦しくなる」


私の毛先に触れたまま端麗な眉宇を歪めて苦しそうに彼は言う。


なんて……顔をなさるんですか。


彼にこんな顔をさせたかったわけではない。

私や王妃様を思い出すことはそんなにも苦しい事なのですか…。

彼が私の事を思い出そうとしていることは顔を見れば分かる。だけど、その顔には頭痛がするのか眉間に深い皺が刻まれている。


「………無理に思い出そうとしなくていいですわ。記憶を失う前のスタン様も記憶を失ってからのジル様も貴方である限り、わたくしは何度でも何回でも貴方に恋をするのですから!」



私の髪に触れる彼の手を握り緩く首を振る。

彼の手を頬へと寄せてひんやりと少しだけ冷たい手のひらが今も昔も愛しい人であることに変わりないのだと安堵し、務めて明るく上記を述べる。

名前が幾つ変わろうとも彼を愛する切っ掛けとなった心根が変わらない限りは私の気持ちも変わらない。



「いつまでも、どんな貴方でもお慕いしておりますわ」





何よりも 誰よりも 君だけ愛しくて …


次回からストレンジ学園は大型連休に入ります。

大型連休では生徒誘拐事件勃発です!

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