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悪役令嬢は王子様を御所望です  作者: 茗裡
第三章 正編
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19話 愛しいはずなのに ソレンヌside


ルゥ姉様とジェルヴェール様に生徒会室まで送って貰ってわたくしは今日も生徒会のメンバーと共に雑務に追われていた。

その時、突如生徒会室の中でゲートが開かれる。このストレンジは確かレナルド様の側近でストレンジ騎士団団長のご子息のものだったはず。


「ソレンヌはいるか!」


ゲートの中から姿を現したのはレナルド様で彼は目を吊り上げてわたくしの名前を呼ぶ。

以前は彼に呼ばれる度に嬉しくて自然と笑顔が溢れた。だけど、ここ最近は彼に名前を呼ばれる事に恐怖を感じ始めている。

彼がわたくしを呼ぶ時は常に怒っている。その原因は分かっている。彼女がこの学園に編入して来てからレナルド様、ルイス王子を初めとした男子生徒が一人の女性の虜になり学園では不穏な空気が流れ始めていた。


「レナルド様、そう大きな声を出さなくとも聞こえていますわ。皆が驚いてしまいます。わたくしは此処におりますわ」


レナルド様の表情から彼が怒っているのが分かる。また、彼女の事だろう。

恐怖で震える体を抑え込むように腹部の前で手を握り締めてレナルド様の前に出る。


「貴様、また飽きもせずラシェルをいじめたな」

「何のことか身に覚えが御座いませんわ」

「嘘をつくな!ラシェルがソレンヌとルイーズの名前を出して震えているんだぞ」


またですか。

彼女、ラシェル嬢は事ある毎にわたくしやエド、ルゥ姉様を目の敵にしてあることない事を吹聴している。殆どの生徒がラシェル嬢の言うことを信じていないが、中には信じている者がいるのも事実。

レナルド様の背後にはまだゲートが開かれておりその先にラシェル嬢を囲む男子生徒達の姿が見える。このまま此処で押し問答が続けば他の生徒会メンバーの邪魔になる。


「レナルド様、よろしければ場所を変えてお話致しましょう。」

「話し合いなどせずとも貴様が悪いに決まっている。が、まあいい。元々ラシェルの前に連れて行くつもりだったから此方としても手間が省ける」


ついて来い、と続けるとレナルド様は再びゲートの中に戻って行った。

わたくしは眉宇を寄せ唇を引き結ぶ。一度、呼吸を置いて彼の後に続いてラシェル嬢他取り巻きの方達が待つであろう場所に繋がるゲートの中に足を踏み入れた。

ゲートを潜る途中生徒会メンバーの方達が心配そうにわたくしの名前を呼んでいたが、安心させるように一度振り返り笑顔で返してゲートの中へと消えた。


「ラシェルっ、大丈夫か?ソレンヌに謝らせる為に連れて来たぞ」

「へ?え?ソレンヌ様連れて来ちゃったんですか!?」

「ああ、今ルイスもルイーズを呼びに行っている」


ゲートを潜った先は保健室で、ベッドの上に上半身を起こして座るラシェル嬢にレナルド様が寄り添う。

引き裂かれる程に痛む胸を抑えてわたくしはその光景を黙って見ていた。お姉様の元へ向かったというルイス王子が気になるがお姉様の事だ、上手く躱しているだろうから心配はないだろう。


「さあ、ソレンヌ。ラシェルに謝罪をするんだ」

「先程も申しましたがわたくしには何のことか身に覚えが御座いませんわ」

「まだ言うかっ!では、何故ラシェルは保健室に運ばれたんだ!」


ラシェル嬢を見遣ると彼女は大袈裟にビクリと肩を上げる。それに気付いたレナルド様がラシェル嬢を隠すようにわたくしの前に立ちはだかる。

レナルド様はわたくしを怖い顔で睨み付け、ラシェル嬢を囲む男子生徒は「ラシェルを睨み付けるとはなんて怖い女だ」と囁くが、わたくしはただ、彼女を見ただけで睨んでなどいない。しかし、それを弁明しても彼等は聞く耳を持たないだろう。


「ラシェル嬢は植物を武器に変えてしまうストレンジを持つと言われる男子生徒が育てているひまわりマシンガンの誤発に驚いて腰を抜かしてしまったところを、ルイーズ嬢の侍女がここ迄お運びしただけですわ」


わたくしは本題であるラシェル嬢が保健室に運ばれた理由について述べるとやっと彼等はわたくし達が悪くないと理解したのか気まずい表情を浮かべた。


「そ、そうですけどでもソレンヌ様もルイーズ様も私を見て笑っていました。あれは嘲笑です!!きっと、あの男子生徒ともグルだったんだわっ!」


ラシェル嬢の発言に思わず言葉を失う。

わたくし達は彼女を嘲笑った記憶など無いし、ひまわりマシンガンが誤発であることは彼女も見ていたから分かっているはずではないのか。


「なんと!ソレンヌ!貴様は何処まで性根が腐っているんだっ」


レナルド様の怒りが篭った瞳が再び向けられる。


なぜ……何故レナルド様は彼女の言うことにしか耳を傾けくれないのですか。

もう、わたくしには大好きな貴方の笑顔を向けてくれる事は無いのですか。

如何して、わたくしでは駄目なのですか。

貴方に釣り合うように貴方を支えられるように励んで来たけれどレナルド様の瞳はもうわたくしに向くことは無いのでしょうか。



何故、如何して。その言葉がわたくしの中で反芻する。苦しくて苦しくて胸が張り裂けそうだ。

双眸に涙が溜まる。身体の震えが止まらない。


「ふん!貴様が震えて見せても演技であることなどお見通しだ。そんな下劣な手段など此処にいる者達には通用せんぞっ」


もう限界だった。俯き下唇をきつく噛み締めて耐えるがこのまま此処にいては心が壊れてしまいそうで無意識に足が出口へと向かっていた。


「ソレンヌ!!逃げるなっ」


愛しいはずの彼の怒声が聞こえる。

愛しいはずなのに怖くて怖くて堪らない。

わたくしは心の中でルゥ姉様とエドに助けを求める。


レナルド様の制止を無視して保健室から飛び出した。

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