16話 怒れるルイス王子
ジル様が声を掛け姿を現したのは、この国の第三王子であるルイス王子だった。
「ルイーズ、貴様またラシェルに何かしたのか!」
怒りを全面に出して姿を現したルイス王子は開口一番にそう言った。
「ラシェルが保健室に運ばれたと聞いて向かったらラシェルは泣きながらルイーズとソレンヌの名前を口にした。どうしたのかと聞いても貴様等を庇っているのかラシェルは首を振るばかりで───」
「その時レナルド王子は共にいらっしゃったのですか!?」
色々とツッコミどころ満載だが、彼女がソレンヌの名前を出したということは、ソレンヌの方にはレナルド王子が行っている可能性がある。思わずルイス王子の言葉を遮り問いかけるとルイス王子は眉を顰めた。
「レナルドはソレンヌの所に行っている」
やっぱり。
脳内花畑となったあのバカ王子がソレンヌに何をするか分かったものじゃない。
最近のソレンヌは生徒会に留学生の接遇等の忙しい中で脳内花畑の拡大化が進んでいるバカ王子の所為で無理がたたり何処か危うさがある。
「だが、それがどうした!今はレナルドの事よりお前がラシェルに何をしたのかを話せ!!」
ルイス王子が怒鳴り散らし喚いているがこっちのバカ王子は後回しでいいだろう。
それよりも、ソレンヌが心配だ。
「横から失礼致しますがルイス殿下、ルイーズ嬢はラシェル嬢に何もしておられませんよ」
怒り狂っているルイス王子をどうやって巻こうかと思案していると頭上から冷たい声が聞こえる。
声の主はジル様で腰に回されていた腕は既に離れていたが、彼はルイス王子から私を守るように一歩前に進み出て私の姿を隠す。
「お前はっ、マラルメ国第一王子の護衛をしていた奴か。ルイーズが何もしていないだと?ハッ、お前は知らないだろうがそこの女はラシェルをいつもいじめるような醜悪な奴なんだぞ」
嘲りの笑みを浮かべてそう言い放つルイス王子に思わず殺気が湧く。ジル様の前でなんて事を言うのか。
婚約者候補を外れても未だ付き纏ってくる彼には本当に辟易していた。ジル様の前でこのような不祥事が他にもあっては堪らない。此処は一度はっきりと二度と私に付き纏うなと告げた方がいいだろうと思った時。
「恐れながらルイス殿下、彼女はルイス殿下が仰られるような女性ではございませんよ。それに、ラシェル嬢はソレンヌ嬢に向かって来たひまわりの種に驚いて自ら倒れ込んでしまわれたところをルイーズ嬢の従者の方が保健室まで運ぶように手配しておられました」
何だろう…何だか胸の辺りがこそばゆような暖かいようなえも言えぬ感覚に襲われる。
今までソレンヌやエドを助けるために私が前に出ることはあっても、私自身がお兄様や家族以外の人から守られるなんてことは無かった。
それに、ジル様は王子の言葉よりも実際に今まで接してきた私という人となりを見て庇ってくれた。それが、こんなにも嬉しいなんて思いもしなかった。
好き。
この気持ちを彼に伝えたい。
目の前に立つ愛しい彼に触れたくなる右手を左手で胸の前に抑えながら彼の背中を見つめる。
「なっ!王子であるこの僕の言葉よりもそこの醜女を信じると言うのか!!……いや、そうか。分かったぞ!御前、この女に惚れているんだろう!!」
ルイス王子はジル様に否定された事で憤っていたが、何を思ったのか急に笑い声を上げて鼻息荒くジル様の後ろにいる私を指差して得意気な顔をする。
「だが、残念だったな!そいつは僕の婚約者だ!他国の王子の婚約者に横恋慕とは…幾ら貴様がそこの女に懸想しようと結ばれることは無い。早々に諦めることだな!」
………は?
誰が誰の婚約者だって?
ルイス王子の発言に一瞬頭が真っ白になる。
このバカ、何言ってんだ!!!!




