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悪役令嬢は王子様を御所望です  作者: 茗裡
第三章 正編
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13話 収束



声を掛けられ方へと目を向けるとそこには二人の男性が私達の元へと向かって来ており瞠目する。

一人はダークブラウンの短髪に前髪をセンター分けしており凛々しい眉と強い意志を宿した燃えるような赤い瞳、落ち着いた雰囲気は彼の実年齢よりも上に見せる程に大人びた男性である。もう一人は声を発した男性の数歩後ろから付き従い彼と相反するかのように全体的に寒色を示し醸し出す雰囲気にも何処か冷たさを含んでいる。



「ロラン殿下!?」

「ジェルヴェール様!?」


ソレンヌと私が驚いて名前を呼べばロラン殿下はニコリと人好きのする笑みを浮かべた。



「如何して此方へ?」

「皆様と御一緒では無かったのですか?」



彼等の後ろに目を向けテラスへの出入口を見遣るも他の面々が店内に入って来た様子はない。私もソレンヌも目を丸くしたまま問いかけるとロラン殿下はバツが悪そうな顔を浮かべた。


「実は教室に忘れ物をしてしまってね。まだ学園の構造を把握してないから迷っては行けないと思い同じクラスであるルイーズ嬢に案内して貰いたくて探していたんだよ」

「まあ、そうでしたのね。御時間を取らせてしまった上にロラン殿下自ら出向かせてしまい誠に申し訳ございませんわ」


他国の王太子自ら探させてしまった事に咄嗟に謝罪するも、はたと思い留まる。

果たして彼の言っている事は本当なのだろうか?

幾ら、同じクラスで私に案内させる為とはいえ、ドナシアン王子がそんな理由で他国からの賓客を揉めていると分かっている場所に送り出すわけが無い。


「もしかして、ロラン様とジル様ですか!?」


真意を探る為顔を上げると背後の方から喜色を顕にした声が聞こえ、私とソレンヌは驚愕する。

言葉を発したのは勿論ラシェル嬢であり、あまりにも不敬な態度に私やソレンヌだけでなく周りにいた人々も騒めき出す。

というか、ラシェル嬢貴方今ジェルヴェール様の事をジル様と愛称で呼んだな。許すまじ。私でさえ愛称で呼べるようになるのに一年近くもかかった上に彼に再会してからはまだ一度も愛称で名前を呼んでいないのだ。それを私よりも先にジル様の愛称を口にするとは彼女はよっぽど私を怒らせたいらしい。



「何故君が私と私の従者の名を知っているのですか?」


ロラン殿下の言い方は柔らかいが彼の目が笑っていない。それどころか問いかける前に一瞬細められた目は冷たいものだった。



「え?あ、えーっと、ルイーズ嬢とソレンヌ嬢がそう呼んでいたので」



うわぁ。何というかもう、見るに堪えない。

確かに私達は彼等の名前を呼んだ。だが、だからと言って下位の者が王族であるロラン殿下に許可もなく話しかける事等出来ない上に彼の従者の名はジェルヴェール様であり、初対面である彼女が愛称で呼ぶのはどう考えてもおかしい。


「ロラン殿下、ジェルヴェール様、我が学園の生徒が御無礼を致しまして誠に申し訳ございません」

「ロラン殿下とジェルヴェール様にはご不快な思いをさせてしまいわたくし共の落ち度で御座いますわ」



私とソレンヌは即座に頭部を下げて謝罪する。本当に彼女はろくな事をしてくれない。

本来であればこの場にいる双子王子が真っ先にロラン殿下とジェルヴェール様に謝罪しなければいけないのだが、能力低下した花畑達にそこまでの考えは及んでいないだろう。



「ルイーズ嬢、ソレンヌ嬢顔を上げて。君達が謝ることじゃ──」

「無礼とか不快って私の事ですか!?どうしてルイーズ嬢とソレンヌ嬢はそうやって私の事をいじめるんですか!!」



お願いだから誰かこの脳内花畑を連れ出してくれないだろうか。どれだけの不敬を重ねれば気が済むのか。しかも、隣国の王太子である彼の発言を遮るとかもうラシェル嬢には不敬罪で自殺願望があるとしか思えない。


「君、さっきから煩いよ。それに、君と私達は初対面だ。ルイーズ嬢とソレンヌ嬢が名前を呼んだからと君にまで私達の名前を呼ぶ許可を出した覚えはないよ。ああ、あと勝手に私の従者である"ジェルヴェール"を愛称で呼ばないでくれないか。とっても不愉快だ」


ロラン殿下が発する声がいつもよりワントーン低くなっている。

普段は温厚であるはずのロラン殿下からの怒りの波動を先程から肌にピリピリと感じる。


「ひ、酷いっ」


ロラン殿下の言葉にラシェル嬢は傷付いた顔をする。何方が酷いのかと観衆がざわめいているのが僅かに聞こえる。


「ロラン王子っ、そのような申しよう失礼ではありませんか」


ルイス王子が震えるラシェル嬢の肩を抱き鋭い目でロラン殿下に抗議する。

この場において失礼なのは誰がどう見てもダルシアク国側に非がある。本当にこの人は悪知恵︎だけはよく働くのに常識に関しては知識が抜け落ちているらしい。


「やめろ、ルイス。ロラン王子、ジェルヴェール殿大変失礼致しました。」


ロラン殿下達の登場辺りから動きが止まっていたレナルド王子が漸く再起動したようで、珍しくもルイス王子を叱責してロラン殿下とジル様に向かって謝罪する。

ここ最近、頭が足らなくなったのかと心配していたがどうやら他国の王族に対しての礼儀は忘れていなかったらしい。



「レナルド!だけど、ラシェルが侮辱されたんだぞ」

「先に不敬を犯したのは此方だ。我が国の者が誠に申し訳ございません」



ルイス王子の言葉を無視してレナルド王子はロラン殿下達に向かって頭を下げる。

それを冷めた目で見つめるロラン殿下とジル様。



「ルイーズ嬢とソレンヌ嬢が即座に謝罪をして下さいましたし、彼女達には私達もお世話になっているのでルイーズ嬢とソレンヌ嬢に免じて今回は水に流しましょう」



ロラン殿下の発言に驚きつつ彼を見遣ると殿下は私とソレンヌを見て柔らかく微笑んだ。

双子王子とラシェル嬢、そしてその取り巻き達に対しても私とソレンヌのお陰で国際問題に発展する事無く収束する事が出来たのだとストレートに伝えてくれた。

本来であれば、私やソレンヌがどれだけ謝ろうとマラルメ国の王太子である彼には何の罪滅ぼしにもならない。それどころか、ダルシアク国国王からも謝罪があってしかるべきところを不問とし、ロラン殿下は私とソレンヌを話に持ち出す事で守って下さったのだ。


「では、私達は失礼します。ルイーズ嬢、ソレンヌ嬢参りましょう。ジル、ルイーズ嬢のリードを頼むよ」


ロラン殿下はレナルド王子とルイス王子に挨拶をして私とソレンヌに向き直り近くにいたソレンヌへと手を差し出す。


「ルイーズ嬢、御手を」


ロラン殿下の命を受け私にはジル様の手が目の前に差し出された。ジル様の口から約八年ぶりに私の名前が紡がれる。声変わりも終わり男らしい低い声に名前を呼ばれただけで頬に熱が集まるのが分かった。


「ありがとうございます…」


ジル様と再会してからは隙あらばジル様を凝視して観察していたのに今は彼を見ることが出来ず俯きがちになりながら差し出された彼の掌に自身の手を重ねる。

子供の頃から少しひんやりとした冷たさは変わっていないようだ。だが、私とそう変わらなかった手も今では私の手を包み込める程に大きくなり綺麗な手だと思っていた掌は触れて見ると表皮が硬くどれだけの訓練を彼が行って来たのかが分かる。


「さあ、ソレンヌ嬢もお手をどうぞ」


その声に顔を上げる。言葉発する前にロラン殿下が笑ったような気がしたが気の所為だろうか?

ロラン殿下とソレンヌの方を見るとソレンヌが戸惑っているのが見えた。ソレンヌはレナルド王子が婚約者と言うこともありこのように異性から紳士なリードを受けたことが無く免疫がなくて戸惑ってしまったのだろう。

ソレンヌは私達の方を一度見遣り私がジル様の手に手を重ねているのを見てソレンヌもおずおずとロラン殿下の掌に手を添える。


「他の面々も痺れを切らしている頃だろうからそろそろ戻ろうか」


ロラン殿下は遠慮がちに置かれたソレンヌの手を優しく握り返し、ソレンヌの頬が薄く色付く。その様子に優しい笑みを零してソレンヌの手を引く。

まだ何か言い募ろうとしていたラシェル嬢とルイス王子はレナルド王子が一応止めては居てくれたようで私達はテラス席へと向かった。


「あ、あの。ロラン殿下、忘れ物は宜しいのですか?」

「ああ、それは嘘だから教室には戻らなくて大丈夫だよ」


彼等が私達を探しに来た理由をふと思い出してロラン殿下に尋ねたのだが、彼はしれっとあの発言は嘘だと明かす。

その言葉に私とソレンヌが驚いているとロラン殿下は私達の疑問に答えるように口を開いた。



「実は喫茶店に入ってからのルイーズ嬢の様子がおかしい事に私達は気付かなかったんだけどジルだけが気付いてね、頻りに店内の方を気にしているようだったからドナシアン王子達にはジルと大事な話があるから店の外に少しだけ出ると言って席を立って来たんだよ」

「殿下っ!」


ジル様が慌てた様子でロラン殿下の発言を止めようとするが彼は楽しそうに笑うだけで発言を続けた。

私はジル様を見上げると彼と一瞬目が合い直ぐに目を逸らされた。だが、彼の耳が僅かに赤くなっている事に気付き笑みが零れる。


「ありがとうございます……ジル様」


ロラン殿下とジル様に向けて御礼を言うも、最後は隣にいる彼にしか聞こえない声で名前を呼ぶ。

再会してからずっとずっと呼びたかった愛しい彼の愛称。嬉しさとジル様だけが私の様子に気付いてくれた面映ゆさに頬が緩むのが止められない。空いた手で口元を隠していると握られている手に僅かに力が込められたのが分かった。


「あまり笑うなよ…」


若干不貞腐れたように私だけに聞こえる声で紡がれた言葉に、六年前逢瀬を繰り返し過した日々を思い出し懐かしさと決まり悪そうな彼の態度に愛おしさが込み上げふふっ、と小さな笑い声を上げた。

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