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悪役令嬢は王子様を御所望です  作者: 茗裡
第三章 正編
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12話 喧騒



私はゆったりとした速度で喧騒の場へと向かう。

先ずは現場に着く前に現状を把握しなければならない。私はテレパシーのストレンジを持つネンを呼び出し後ろに流した髪に隠れるように指示を出しサビーヌと思念を繋いでもらう。


『サビーヌ、報告を』


前置きなく尋ねるもサビーヌからは即座に返答が返って来た。


『レアンドルから聞いた話によるとラシェル嬢達はソレンヌ嬢達の後を追って喫茶店まで来たそうです。』



レアンドルとはソレンヌの従者であり、サビーヌの弟子のような存在の男性である。ソレンヌ付きの執事である彼は時々私達の行う模擬戦を観戦していたのだが、サビーヌも模擬戦に参加することもありその実力に感銘を受けた彼はサビーヌに弟子入りをして日夜ソレンヌを護る為に努力をしている。


『後から入店して来たラシェル嬢達がテラス席に向かおうとするのを店員の方がお止めして下さっていたようですが、ラシェル嬢やお連れの方々が騒ぎ出しソレンヌ嬢が騒ぎを収めるために出て行かれたそうです。』


サビーヌの報告を聞いて彼等の行動が安易に想像出来る。

恐らく、見目麗しい人材が揃った留学生達に取り入ろうとラシェル嬢が接近して来たのだろう。それをソレンヌは上手く躱してこの店に来たのは良いが後をつけて来たラシェル嬢達が喫茶店に入って来てテラス席に出ようとしたラシェル嬢を店員が止めに入り騒ぎ出したという所だろうか。

テラス席は放課後の時間からは留学生の接遇の為貸切としていた。その為、私達が構内案内で店を出るまでは何人(なんぴと)足りともテラスに出ることは出来ない。


『ラシェル嬢達が入店した事に気付いたソレンヌが対応に向かったのはいいけど、ラシェル嬢と双子王子が納得出来ずに押し問答が続いているというところかしら』

『左様でございます』


ソレンヌやレオポルド様ならばテラス席にいてもラシェル嬢達が来た事に気配で察する事など容易である。

サビーヌとの念話を終えると足早にしかし、優雅な動きでソレンヌの元へと向かった。



「お話中失礼致します。ドナシアン王子の命によりソレンヌ嬢を御迎えに上がりました。わたくし共は直ぐにテラス席を立ちますので留学生の方々を次の場所にご案内した後、使用して頂いて構いません。」



私は言い合いを続けるラシェル嬢達の間に割って入りソレンヌに微笑んだ後騒ぎの元凶共に目を向ける。ラシェル嬢は初対面のあの日から私に苦手意識を持っているようで私の登場に肩を上げたのが分かった。まあ、あの一件以外にもラシェル嬢に向けられる生徒達の悪意がいじめに変わるのを私が表立ってラシェル嬢に厳しく接する事によって牽制していたからラシェル嬢にとっては私が一番の悪役令嬢に見えているとしても仕方ない。



「さあ、ソレンヌ嬢参りましょう。留学生の方々をお待たせしてはいけませんわ。」

「はい。ルイーズ様に態々御迎えに足を運んで頂いて申し訳ないですわ。」



ソレンヌが僅かに安堵の表情を浮かべたのが分かった。ラシェル嬢の隣にはレナルド王子もいるが、よく、一人で耐え相手してくれたものだ。後で、労ってやらねばと思い私とソレンヌは改めてラシェル嬢達と対面する。



「わたくし共はこれで失礼致しますので、テラス席は御自由にお使い下さい。それでは、皆様失礼致しますわ」


ソレンヌがそう言うのを待って二人でその場を後にする。



「ラシェル、良かったなこれでテラス席に行けるぞ」

「邪魔者もいなくなるみたいだしゆっくり出来るね」


レナルド王子とルイス王子の言葉を背中に受けソレンヌは眉宇を寄せて唇を引き結ぶ。

恐らく、この場に私とエドしかいない空間であれば彼女は泣いていただろう。ソレンヌの気持ちを思うと同じ恋する者として酷く胸が傷んだ。


「ちょっと待って。それじゃあ、意味無いじゃない!」



彼女は学習しないのだろうか。

双子王子の言葉を跳ね除け私達を呼び止める女性が一人。この場にいるもう一人の女性ラシェル嬢である。


「足を止めてはダメよ」


振り返ろうとするソレンヌを小声で制す。私の言葉に振り返るのを止め再び歩き出す。公爵令嬢である私とソレンヌが平民の制止など本来聞く必要は無いのだ。

店内にいた学生達も足をとめない私達では無くラシェル嬢達に非難の目を向けている。だが、彼女彼等にはそんな生徒達の視線など一切気付かないのだろう。



「無視するなんて酷いわ!私が庶民だから馬鹿にしてるのね!」



私達は歩き出したばかりでまだ、それ程離れた距離では無いのに店内に響く程の大声で叫ぶラシェル嬢。

彼女は悲劇のヒロインを演じたかったのだろうが、何言ってんだこいつという心の声が店内にいた生徒達から聞こえてきそうなほどに冷たい目をしている。


「可哀想なラシェル」

「血も涙もない女だ」

「権力を振り翳すことは禁止されているのに彼女達は知らないのか」

「聡明だ何だと持て囃されて図に乗ってるんだろう」


ラシェル嬢と双子王子の後ろにいたラシェル嬢の取り巻き達のヒソヒソとした声が聞こえる。今、発言した者は何処かに潜んでいるサビーヌが確りと把握してくれている事だろう。後で覚えとけよ。


「ソレンヌ!」

「ルイーズ!」


双子王子の呼び掛けに私達の動きが止まる。

流石に王子の制止を無視するわけにはいかない。


「ソレンヌ、無視するとはなんて酷い女なんだ」

「ルイーズも身分を笠に着た態度を取るとは性根が腐ってるぞ」


ルイス王子の発言に私がいつ身分を笠に着たのかと憤りを覚えるが、隣に立つソレンヌの手が震えているのに気付き怒りを抑える。


「私がついてるわ」


言葉短にソレンヌに伝え私は彼等を振り返る。



「では、ラシェル嬢お聞きしますが先程の意味が無いとはどういう事でございましょうか?ラシェル嬢とレナルド王子、ルイス王子とお連れ様方はテラス席で飲食をしたくて店員のお言葉を無視して騒いでおられたのでしょう?」



本当にこの人達は自分の発言がブーメランであることに気付いていないのだろうか?目出度い頭をしている。


「なっ。貴様無礼だぞ」


レナルド王子が顔を真っ赤にして憤る。

それにしても、彼はここまで馬鹿だっただろうか。ルイス王子は我儘で愚者の模範のような人物だが、ゲームの中でも今まで共に過ごして来たレナルド王子はルイス王子と共にイタズラしたりと愚かな面はあれど馬鹿ではなかったはずだ。


「無礼とは何がでございましょうか。ラシェル嬢とレナルド王子が先程口にした言葉をわたくしも使用しただけなのですが、何処か間違った事を言いましたでしょうか?」


その言葉に彼等は言葉詰まる。

言葉詰まるくらいならブーメラン発言しなけりゃ良いのにと思うも、脳内が花畑となった者達がこれで終わるはずがない。



「王族である僕達に向かってなんだその態度は!」



お馬鹿発言を堂々と発するルイス王子。

貴方、今さっき自分で言った言葉も忘れたんですか。そう言いたいのをぐっと我慢して私は頭を下げる。舌戦で私が負けることは無いが、自分の発言や行動を顧みない脳内花畑達と言い合うだけの気力など持ち合わせていない。平行線どころか斜め上の発言をしてくる輩相手に理解させようとするだけ無駄だ。

それであれば私が悪者にされようがすっぱりと話に終止符を打った方がいいだろう。


「これは大変失礼致しましたわ。ですが、今一度御自身の発言を鑑みて頂きたいと思っただけですの。出過ぎた真似を致しましたわ」

「不愉快だ!さっさとこの場から去れ!」



ルイス王子の発言に私は頭を下げたまま口角を上げる。王子からの発言だ。つまりは臣下に取って命令でもある。



「承知致しました。御前失礼致します」


ルイス王子に向かってカーテシーをして受命する。

「行きましょう」とソレンヌに声を掛けるとソレンヌも慌ててカーテシーをして再びテラスへと歩きだそうとした。



「待って下さい!」



ああ、本当にイライラする。

誰かの存在自体に嫌悪する日が来るなんて思いもしなかった。彼女の存在自体が受け付けない程に私の心が拒否している。

怒りで表情筋が固まり瞳の熱も光も失せていく。



「ルイーズ嬢にソレンヌ嬢、こんな所におられたのですね。無事貴方達を見つけることが出来て良かった」



殺伐とした空間に割り込む声が聞こえ振り返る。そこには、テラス席にいるはずの人物が二人私とソレンヌの元へと歩み寄って来る姿があった。

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