8話 外務卿との会談
「ルイーズ嬢、ソレンヌ嬢よく来てくれた」
「「国王陛下、ドナシアン王子、ご機嫌麗しゅうございます。ご尊顔を拝しまして恐悦至極に存じます」」
私とソレンヌは臣下の礼を取り頭を下げる。私達は今国王陛下に招集され謁見しているのだが、この場にいるのは国王陛下の隣にドナシアン王子と重鎮ばかりで私もソレンヌも珍しく緊張していた。
「顔を上げよ。今日お前達を呼んだのは他でもない、ルイーズ嬢とソレンヌ嬢それと我が息子であるドナシアンの三人に頼みがあってな」
頼み?
言葉には発さないが私達二人は国王陛下からの突然の言葉に疑問が浮かぶ。
まだ、14歳と15歳の子供の部類に入る私達に国王陛下直々に頼みなど早々ある事ではない。が、私は国王陛下の言葉にある一つの事柄に思い至った。
この場にいるのは重鎮の中でも王の側近ばかりだ。それに、普段は近隣諸国を駆け回り王都にはあまり滞在する事のない外務卿がいる。
「陛下、後は私の方からご説明致しましょう」
「うむ」
外務卿が一歩前に進み出て陛下に伺いを立てる。それに、頷いて了承すれば外務卿は私達に目を向ける。
「ドナシアン王子には既に話を通しているが、君達にも関わってもらいたい案件がある」
外務卿は背後に控える配下から何かの書類を受け取る。
「我が国では常々各国から留学生を受け入れているのは存じているだろうか」
「はい。我がダルシアク国はストレンジの育成に力を入れており能力向上、そしてストレンジに関する知識は世界一と各国からも認められております」
「その為、各国からの留学申請があった際にはストレンジ学園への留学を許可しダルシアク国民と共に学ぶ事で各国との友好を築いていると認識しておりますわ」
外務卿の問いに私、ソレンヌの順に答える。
「うぬ、その通りだ。」
私達の答えが満足いくものだったようで大きく頷いて相槌を打つ。
「今まではラマニス国以外からの留学生を期間をずらして各国から受け入れて来た。だが、此度ラマニス国以外の六カ国全ての国から留学申請があってな」
その言葉に私とソレンヌは瞠目する。
私はゲームの知識で他国からの留学生が来ることは知っていた。だが、ダルシアク国を含まない七カ国中六カ国から留学の申請があったとは驚きだ。
スマホ版ストワで出てきたのは第二章でジル様がいるマラルメ国とマラルメ国に留学していたオルディア国の王子等が共にダルシアク国に留学してくる。
そして、私が日本で生きている間に公開されていたのは第三章まで。その第三章ではジャポンヌ国からの留学生が新キャラとして登場する。
「君達にはその留学生達の応対を頼みたい」
外務卿は肝心な事を言わずに先ず私達に了承させようとしているのが分かる。
まあ、外務卿を務める人物がこの話を聞いただけで私達が頷くとも思っていないだろうが。
「発言を宜しいでしょうか」
「ルイーズ・カプレの発言を許そう」
私が声を上げると国王陛下が許可を下す。それに、頭を下げ礼を述べて外務卿に向き直る。
「恐れながら、外務卿に幾つか質問がございます」
「何だ。答えられる範囲で応えよう」
外務卿は私の言葉に一瞬眉を釣り上げ質疑を許可する。外務卿にも礼を述べ口を開く。
「六カ国全ての留学申請を受け入れたと認識をしても宜しいのでしょうか」
「ああ。留学申請は全て受容したのでそう認識してもらって構わない」
この狸。重要な事を発言しないとは本当に嫌になる。それに、この様子だと一番重要な事もまだ色々と隠していそうだ。
「承知致しましたわ。では、留学生の人数と留学の時期を教えて頂けないでしょうか」
「留学生の人数は未だ決定していない国もあるので今後変動する可能性もあるが、現段階で申請が来ているのは二十人弱といったところだ。これからまだ増えると見てくれ。時期はマラルメ国とオルディア国からの留学生がひと月半後の六月に、他の国は二学期からの留学予定だ」
外務卿の発言に驚愕する。
二学期からの留学は予測していた。だが、マラルメ国とオルディア国からの留学生も本来であれば二学期からのはず。
ユメの予知夢でそうでは無いかと予測してはいたが、まさかこんなにも早く彼等が来るとは思ってもみなかった。
「わたくしからも発言を宜しいでしょうか」
「ソレンヌ・ペルシエ、発言を許そう」
私と外務卿の質疑応答を難しい顔で聞いていたソレンヌが発言の許可を求め、陛下が許可をする。
「ありがとうございます。わたくしからの質問は中等部には何名の留学生が入るのか知りたいですわ」
陛下に礼を述べソレンヌが外務卿に尋ねる。例年留学生は中等部と高等部の年齢の方達が受け入れられる。その為、実質私達が関わるであろう人数を把握する為の良い質問だ。
「マラルメ国とオルディア国からは中等部に計八名の申請が来ている。二学期からの留学生はボルテルノ国とムルエラ国から高等部に計七名。ジャポンヌ国とルーノ国からはまだ詳しい人数を伺っていないが、近日中に申請が来るだろう」
「畏まりましたわ。では、ルイーズ様の協力もお借り致しまして例年通り生徒会から留学生の応対を行う者を厳選し御報告致しますわ」
ソレンヌは外務卿の話を聞いて即座に応対について述べる。
六カ国から留学生が来ると聞いた時には驚いたが、全員が中等部に来るわけではない。それに、今までも留学生が来国した際には生徒会から成績、素行全てにおいて優秀な者達に留学生の接遇を任せていた。だから今回も人数は多いがいつものように手分けして接遇すれば問題ないだろうと考えていたのだが。
「その必要はない。今回の接遇は中等部からドナシアン王子、ソレンヌ嬢、ルイーズ嬢の三人で務めて貰う。高等部もまた私の方で既に人選を行っている」
外務卿はなんて事無いかのようにしれっと私達に押し付ける。外務卿は顎を摩り私とソレンヌを見て一瞬口角を上げた。
ソレンヌも気付いたのだろう。口角が上がるのに合わせてピクリと片眉が動いた。
「それは…何故かお聞きしても宜しいのでしょうか?」
ソレンヌも今回の会談の違和感に気付いたようだ。いや、ソレンヌの事だ。恐らく、留学生の話が出た時点で違和感に気付いていただろう。
例年通りであれば、留学生の話は中等部、高等部の各生徒会に学園から話がある。それが、今回は生徒会役員ではない私とソレンヌが直々に王城に呼ばれ外務卿から留学生の話を持ち掛けられたのだ。何かあると疑うのは道理だろう。
「実はな、今回来られるのは王族か各国の有力貴族でな、その高貴な方々を一生徒に任せ万が一不敬があってもならんと言うことで君達に頼むことになったのだ」
外務卿は私達がこれを聞き出すのを待っていたのだろう。普段感情を表に出さないと言われる彼から満足しているのが分かる。まあ、この態度も私とソレンヌに分かるように態と表に出しているのだろうが。
「ヤニクよ、あまり二人を虐めてやるでない」
私とソレンヌは外務卿からその高貴な留学生達を託すのに十分足るかを見極める為に試されていたのだと気付き苦い気持ちになっていると呆れた様子で国王陛下が外務卿を窘める。
「虐めるだなんてとんでもない。私は聡明と名高いお二人の力量を知りたかっただけですよ。だから、ジョゼフもマルセルもそう睨まんでくれ」
外務卿はそう言うとソレンヌと私の父達を見て苦笑を浮かべる。外務卿であるヤニク・カニャール様もまた陛下の側近として学生時代をお父様達と共に過ごしてきた盟友である。
「ルイーズ嬢、ソレンヌ嬢、試すような真似をして申し訳ない。留学生として各国から王族の方々が来られるのは事実なのでその方々を任せるに足る人材であるかを実際に私自身の目で見て見極めたかった故ご不快な思いをさせてしまいましたな」
外務卿は私とソレンヌに向き直ると頭を下げる。
確かに、試されているのが分かって苦い気持ちにはなったが私もソレンヌも不快だとは思っていない。
能力が足りないものに王族の世話を頼んで粗相があってもならないのだ。そんな事があればダルシアク国の信頼関係や沽券に関わる。
「顔を上げてくださいませカニャール様。不快だなんて思っておりませんわ」
「我が国の沽券に関わる事ですもの。慎重にもなりますわ。それで、わたくし達はカニャール様のお眼鏡にかないましたでしょうか?」
ソレンヌが慌てて外務卿が頭を下げるのを制する。
彼は役目を全うしただけに過ぎない。そして、私とソレンヌは彼のお眼鏡にかなう対応は出来たのだろうか。
「ええ、それはもう。噂に違わぬ思慮深さだ。軽率に言われたことを請け負う事はせずに話の本質を聞いて真髄を見極める目と耳をお持ちだ。是非ともお二人に各国の王子の接遇を任せたい」
外務卿は先の雰囲気とは打って代わり人の良さそうな笑みを浮かべ私達を褒めちぎる。誇張し過ぎだと思うも、褒められて嫌な気はしない。私とソレンヌはこそばゆい気持ちではにかんだ笑みを浮かべ頷いて留学生の件を了承した。
「しかし、何故わたくし達三人だけなのですか?レナルド王子とルイス王子にもお話は行っているのでしょうか?」
ソレンヌの言葉に一瞬にして空気が変わったのが分かった。
「陛下、その話は僕から致しましょう」
国王陛下が僅かに眉宇を寄せて冷めた目で口を開こうとした時、逸早くドナシアン王子が声を上げた。
「よかろう」
陛下はドナシアン王子を一瞥すると頷いて話の先を促す。
「ありがとうございます。先ず、ソレンヌ嬢の質問にお答えすると兄上達にはこの話はしていません」
ドナシアン王子の話に私はそれはそうだろうと思いつつもソレンヌには意外だったようで瞠目している。
「最近の兄上達の素行は良好とは言い難いですからね。王族としての素行としては問題視しなければならない点も幾つかあります」
その言葉を聞いてソレンヌは最近の二人の素行に思い至り眉宇を寄せ唇を引き結ぶ。恐らく、最近のレナルド王子の態度を思い出し傷付いているのだろう。
「その為、一年生からは僕が。二年生、三年生からは素行良好で家格にも問題ないソレンヌ嬢とルイーズ嬢が留学生の接遇に相応しいとして抜擢されたのです」
「そう…でしたのね。丁寧にご説明頂きありがとうございました、ドナシアン王子」
ドナシアン王子の話に御礼を述べ頭を下げるソレンヌ。
ここ最近ではラシェル嬢を取り巻く集団と空気は以前に増して最悪なものとなっていた。レナルド王子は全く仕事はせず、かと思えばラシェル嬢を率いて生徒会に来ては茶菓子を貪り入り浸るだけで書類にも目を通す事は無いとソレンヌと生徒会役員の方々から話を聞いた。
私も最近の双子王子の行動には目に余る部分がある為ルイス王子の婚約者候補且つ筆頭公爵家の令嬢の一人として王子の行動を諌めれば逆上したルイス王子に念動力のストレンジで物をぶつけられた。
酷い時は拳大の石を頭部にぶつけられ、その時最悪にも他の人達にも見られてしまっていた為、高等部にまで話が及んでラフ兄様がすっ飛んで来た時には諌めるのが大変だった。
とまあ、学園で好き勝手をしラシェル嬢の気を引くのに忙しい方々には到底他の王族の対応など任せること等出来るはずも無く、妥当な人選だろう。
ソレンヌは生徒会の仕事と王族の接遇の両立で忙しくなるだろうが、そこは私とドナシアン王子でフォローしていくつもりだ。




